天才的に演技に没入できる女子高生・夜凪景が女優として成長していく王道演劇漫画『アクタージュ』。
毎週最新話のあらすじ(ネタバレ)と感想を公開する。
第104話「起爆剤」の1番の見所は、千世子の「天使と悪魔を行き来する演技」だ。
千世子にしかできない演技、「天使と悪魔の切り替え」
百城千世子が、明神阿良也演じる孫悟空と立ち回りを演じる際、憎しみをむき出しにした動物的な表情と体勢をとると、観客は驚く。
「あれが、私の知っている百城千世子なのか?」と。
確かに画面の奥で澄んだ泉のように綺麗なこれまでのイメージとは真逆だ。
現実世界でも、「清純派」で売っていた女優がいきなり怒りに塗れた演技を目の前で始めたら度肝を抜かれるだろう。
たが、そんな今まで築き上げて来た「イメージ」などは気にも留めず、感情をむき出しにして千世子は羅刹女を演じる。
彼女の覚悟の現れだ。
夜凪にどうしても勝ちたいという気持ちがそれを可能にしたのだ。
だが、夜凪への嫉妬、悔しさ、憎しみの感情を糧にして演じる「メソッド演技法」だけでは夜凪にどうしても劣ってしまう。
彼女は「メソッド演技法」の申し子。
王賀美陸をして「作品に愛される才能」を持つと言わしめるほど、役への没入は完璧だ。
何か彼女とは別の戦略を取らないといけない。
そんな課題が浮き彫りになっていた中、千世子が悟空と剣を交えた後、再び「綺麗な羅刹女」に戻った。
「獣としての羅刹女」ではなく「一人の女性として羅刹女」に。
黒山曰くそれは「観客の観たい芝居」。
「いつもの千世子だ」と観客は安心する。
しかしそこで悟空が
「ちと分が悪いだろ、姉御。牛魔王のおじきがいねぇとよ」
と挑発すると、
その名を口にするな
と再度、「悪魔千世子」にまた戻る。
天使のように美しく、悪魔のように恐ろしく。
この2つを延々とくり返すつもりか。
と王賀美陸は感心し、
匂いが出たり、消えたり、クセになるな。
と阿良也も千世子の演技の魅力を認める。
「ゾッとするような悪魔的な千世子」と「客が求める天使的な千世子」を行き来させることで、観客は彼女の芝居を中毒的に楽しむようになるという戦略だ。
「メソッド演技法」1本を極めている夜凪に勝つために、黒山が指導した演出である。
千世子からしてみれば、これまで自分が積み上げて来た「俯瞰の技術」と、新しく習得した「メソッド演技法」を交互に繰り返しているにすぎない。
だが、そんなことをできるのはこの国で百城千世子ただ一人しかいない。
千世子覚醒。
それがこの回の1番のテーマだ。
柊雪のカメラワーク指導
彼女の演技を見て夜凪はこう思う。
「遠くて近い、近くて遠い。すごい」
いままで画面の奥で遠い憧れの存在感を築いてきた千世子だが、今では阿良也のように、「身近な存在感」を出す技術も身につけている。
黒山の助手、柊雪(ひいらぎ ゆき)によるカメラワークの的確な指示と、千世子の自分の映り方を俯瞰する力が合間って、画面映えもこの上なく良い。
ネットでの投票によりサイド甲と乙の勝敗が決するならば、カメラ映りも非常に大切な要素の1つ。
柊雪の映像屋としての技術と計算され尽くされた黒山の演出が光った。
和歌月千の指導と共に黒山の過去にスポットが当たる
黒山の役者指導の影響は、千代子だけではなかった。
和歌月千。
これまで自分の演技に自身が今ひとつ自信が持てなかったスターズの女優だ。
1巻で夜凪が出たオーディションでグランプリとなりスターズに所属することになったが、夜凪の「繰り上がり合格」ぐらいにしか捉えておらず、自分の境遇に馴染めていなかった。
そんな彼女を黒山は指導する。
「お前人を殺したいと思ったことはあるか?」
「地雷で吹っ飛んだ息子の足を探す母親を見たことは?」
「目を開けながら戦場の悪夢にうなされる退役軍人は?」
「異国の女に流れ弾から庇われたことは?」
「てめえの血でできた水たまりの中で助けを乞うでもなく、「私を撮り続けて」と懇願されたことは」
「炎の熱さを知らねぇなら火に触れろ。
人を殺める怖さを知らねぇなら想像しろ。羅刹女は戦場の話だ」
和歌月に近づきこう言う。
「実力を見てくれねぇと嘆くことも出来ねぇのは実力不足を自覚しているからだ。本物の力をつけろ和歌月、俺が手伝ってやる」
そして彼女は黒山に何らかの指導を受けた。
羅刹女で彼女の出番がやって来た。
そこにはいままでの彼女にはいない。
「戦場で戦う女」が確かに舞台の上にいたのだ。
黒山は元来ドキュメンタリー映画の監督。
和歌月指導の際のセリフは、彼が見て来た景色、過去にわずかに光が当てられた瞬間でもあった。
芝居は稽古で変えろ
黒山は言う。
「どいつもこいつも本番で役者を変えようとしやがる。
時間の取れねえ映画じゃねんだぞ。
どんだけ稽古期間あったと思ってんだ。もったいねえ。
稽古で変えろ、稽古で。
せっかくの演劇だろうが。」
黒山の「稽古での」指導と演出の結果、くすぶっていた女優たちは本領を発揮し出した。
そして、千世子には先輩として夜凪の先を歩いてもらうことを要求する。
夜凪は彼女たちの演技を観て大きな刺激を受ける。
「私だって…私たちだって…!!
まだ明日も明後日もあるんだから!」
サイド乙の演技が続く。
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