「読書会をもっと身近に」
8/18までクラウドファンディング実施中!

もしも、ミスチルが「金J」に参戦したら?宇野維正×レジ―『日本代表とMr.Children』クロスレビュー【サッカー編】

この企画では、宇野維正×レジ―『日本代表とMr.Children』を課題本に、

『ミスチル図鑑(全楽曲を本の主題歌にする)』完成に野望を燃やす「晴れ女のMoeco」と

本を片手にサッカー観戦する謎のプロジェクト『蹴読』を企む「ふっかー復活委員長」が、

それぞれ思い描く文化共闘の形を書き殴ります!

ミスチルに支えられた日本代表、サッカーに救われた桜井和寿。2つの国民的コンテンツが交差した場所から探る「平成」のムードとスピリット。footballistaが贈る「サッカーと音楽」。

(BOOKデータベースより引用)

サッカー×音楽におけるキング

レジ―:一方、解散の噂が表面化することがほとんどなかったというだけでなく、ブレイクを果たした90年代前半から現在まで、ミスチルほど存在感と現役感に変化のないバンドも他にいないですよね。(略)更新のミュージシャンからも多大なリスペクトを寄せられていますし、「ああ、この人、ミスチルが好きなんだろうな」みたいな歌詞のフレーズや譜割り、ステージでの立ち振る舞いなどを見ると個人的には親近感がわきます。(P.15)

この部分を読んだ時、意識は2006年に飛んでいた。

テレビでAqua Timez(この年、メジャーデビューしていた。筆者が初めてラジオでリクエストした曲は、彼らの『決意の朝に』である)のパフォーマンスを一緒に見ていた母が、こうつぶやいた。

「完全にミスチルの影響受けてるよね。歌詞も歌い方も」

時は流れ、「後輩」のAqua Timezが既に解散した2019年になっても、Mr.Childrenの存在感は揺るぎない。

ついこの間も、東京ドームで5万人を熱狂させてしまったらしい。あえて言おう。ミスチル半端ないって。

おそらくキング・カズ(三浦知良)は、52歳の今でもJリーグの得点王を諦めていない。しかし、未だ今季初ゴールも出ていないのが現状だ。

一方、J-POPのキング・カズ(桜井和寿とその仲間たち)は、世に出たのがJリーグそのものと同時期なのに、トップを走り続けている。

これまでMr.Childrenの「M」の字くらいしか触れてきていない筆者も、初めてお小遣いを貯めて買ったCDは桜井和寿&GAKU-MCの『手を出すな!』だったし、翌年にはミスチルの限定生産シングル『フェイク』も聴きこんだ。

道行く人を捕まえて、日本代表のメンバーを11人問うよりも、ミスチルのナンバーを11曲問う方が、正答率は高そうだ。何しろ各世代にとって、人生の主題歌を担ってきたモンスターバンドなのだから。

オフサイドな文化共闘

さて、文化共闘の話である。

日本代表とMr.Childrenだけでなく、Jリーグも音楽との縁は深い。春畑道哉(TUBE)のギターが鳴り響く中で幕を開けたプロサッカーは、歴史を積み重ねるごとに多くのアーティストを巻き込んできた。

今では、SHISHAMOと川崎フロンターレ、HAN-KUN(湘南乃風)と湘南ベルマーレ、最近ではDOTAMAとサガン鳥栖など、多彩な組み合わせの「共闘」が各地で組まれている。

さらに近年では、リーグ全体で『フライデーナイトJリーグ(金J)』と銘打った金曜開催に力を入れている。

目玉企画のひとつがスタジアムライブで、DA PUMPにフジファブリック、サンボマスターなどゲストの幅も広い。このキャスティングは、サッカーと音楽両方に精通するファンを驚かせた。

ただ、違和感を覚えることもある。

まず、彼らがサッカー好きであるに越したことはないが、そこはあまり重要ではない。

演出に余裕のあるアーティストは、気の利いたコメントでサポーターを煽り、応援歌を口ずさむなど、短い時間でも接点を作ろうとしてくれる。

ユニフォームを着て、ゴール裏(応援の中心地になることの多いエリア)を煽ってくれるだけでも、印象は違う。紅白に出ていようがいまいが、スタジアムのボルテージが上がれば何でもいいのだ(静かな曲に鼓舞されることもある)。

一方で、「誰?」「なんでこの試合に来るの?」という観客の疑問が放置されたまま、イベントが始まるケースも多い。

自己紹介して、数曲披露して、常套句の「頑張ってください」だけ言い残して、退場。

サッカーという「異文化」な娯楽の一部としてアジャストされていない、そんなライブは空気が寒い。パスを出せない位置で待ってしまっている、完全なオフサイドだ。

これは、ホストとしてのJチームが、アーティストの力を活かせていない側面もある。いわゆる「大人の事情」で、共通の文脈が見つけづらいゲストが来たとしても(昨年、V.ファーレン長崎が湘南ベルマーレを迎え撃つ試合で、『湘南乃風』の若旦那が来場したのは驚いた。なぜか敵側!)、SNSを駆使するなどして、ウェルカムな雰囲気を作ることもできるのでは?と思う。

ピッチに立つ選手にも負けないくらい、音楽に携わる人々も懸命に頑張っているはず。

だからこそ、単なる「営業」のような時間で終わらせてほしくない。

何かにつけて「誰?」「関係ない奴連れてくるなよ」とぼやく「ムラ社会」気質なサポーターであっても、裏を返せば興味のある証拠。

応援のプロ(逆にお金払ってるけど)を味方につけて、損はないはずだ。即興で、そのバンドの歌をもじったチャント(応援歌)ができたりしたら、最高じゃないか?

影のアシスト王、ミスチル

あと一歩を生む力

宇野:長谷部はドイツに移籍した後、孤独を感じていた時にミスチルの歌に助けられたって言っているじゃない?きっと、「日本人らしさ」というものを海外で問われた時、そこで立ち返るものとして、もともと好きだったミスチルの音楽がさらに重要なものになっていったんだろうね。( P.196)

こうした、音楽とサッカーの融合が必ずしもハマらないご時世にあって、桜井和寿(ミスチル)と、歴代の日本代表選手の「文化共闘」のスタイルは独特だ。

まず、(本書に詳しいが)異分野ながら「ジョック(スポーツが得意なクラスの人気者)」的な価値観を共有したつながりを持っている。共にプレーを楽しんだり、対談・イベントが組まれることもある。

さらに、フットボーラーたちの楽曲の受け取り方は昨今の「ストリーミング文化」とは一線を画す。まるで、自己啓発本を読み込むかのような熱さなのだ。

そして、メディアを通じて両者の蜜月が物語として増幅し、ウカスカジー(桜井和寿&GAKU-MC)がワールドカップの壮行会で歌うなど、スタジアムでの「リアル共闘」も実現した。

Jリーグの選手名鑑を開いてみても、アンケートの好きなアーティスト欄に書かれるのはMr.Childrenが圧倒的だ。

気持ちがくじけそうな時に、歌詞やサウンドに背中を押され、あと一歩前へ踏み出す。あの試合の劇的なゴールの裏には、ミスチルの「影のアシスト」があるかもしれない。これを「文化共闘」と言わずして、何と言おう。

(かの名手エリック・カントナのごとく、秩序のない客席にドロップキックされたら困るけど…)

ともかく、大事なことは、関係者の間にある「物語」の共有だ。序章は偶然でも、プロモーションでも構わない。スポーツは、もっと文化のプラットフォームになれると思う。

Mr.Childrenとジュビロが共闘する日

例えば、(ありえないけれど)ジュビロ磐田のホームゲームの「金J」企画で、Mr.Childrenのライブが行われるとする。人気絶頂の今、そんなコラボが実現すれば、ヤマハスタジアムは確実に満員になるだろう。

桜井和寿と名波浩監督は旧知の仲だ。単に演奏するだけでなく、他のミュージシャンやタレントも巻き込んだエンターテインメントになる?という妄想も膨らむ。

しかし、ミスチルのファンが客席の一角を占拠し、ハーフタイムショーが終わるやいなや、そそくさと帰ってしまうかもしれない(「金J」でもミスチルでもないが、筆者がJリーグの試合で実際に目にした光景だ)。

もしそうなれば、桜井和寿と名波監督の「共闘」の物語は、ミスチルのファンには十分理解されなかったことになる。ジュビロのスタッフ・サポーターも、彼らと共にひとつの劇空間を作るための、雰囲気作りができなかったと言える。

逆に、全員とはいかないまでも、不慣れなサッカー観戦に没入し、勝利の笑みを分かち合うことができたなら…今度はジュビロサポも、ミスチルのライブに足を運びたいと思うだろう。『日本代表とMr.Children』は、両ファンの心の距離を埋める、貴重なガイドブックになりうるだろう。

もっとも、そんな大アウェイに燃えてしまうのが、サッカー選手(とサポーター)なのだけれど。

『Your Song』Mr.Children【音楽と本のあいだ】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です