天才たちがぶつかり合うピアノコンクールを描いた『蜜蜂と遠雷』で直木賞/本屋大賞をダブル受賞した超人気作家・恩田陸。ファンの間では「ノスタルジアの魔術師」と呼ばれることも。
今回は読書好きのみなさんに、恩田陸作品の中のおすすめ作品を最大5作品まで選んでいただきました。その結果をランキング形式でご紹介します。
目次
- 恩田陸のプロフィール
- 1位『夜のピクニック』
- 2位『蜜蜂と遠雷』
- 3位『チョコレートコスモス』
- 4位『六番目の小夜子』
- 5位『ネバーランド』
- 6位『木洩れ日に泳ぐ魚』
- 7位『光の帝国 常野物語』
- 8位『禁じられた楽園』
- 9位『ライオンハート』
- 10位『三月は深き紅の淵を』
- 11位『木曜組曲』
- 12位『麦の海に沈む果実』
- 13位『ユージニア』
- 14位『Q&A』
- 15位『黒と茶の幻想』
- 16位『エンド・ゲーム 常野物語』
- 17位『MAZE』
- 18位『ネクロポリス』
- 19位『ドミノ』
- 20位『月の裏側』
- 21位『象と耳鳴り』
- 22位『雪月花黙示録』
- 23位『ねじの回転』
- 24位『いのちのパレード』
- 25位『私の家では何も起こらない』
- 26位『蛇行する川のほとり』
- 27位『スキマワラシ』
- 28位『図書室の海』
- 29位『愚かな薔薇』
恩田陸のプロフィール
1964年、宮城県生まれ。早稲田大学教育学部卒。デビュー作は1992年『六番目の小夜子』。2005年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞および第2回本屋大賞を受賞。2006年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞、2007年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞。2017年には『蜜蜂と遠雷』で第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞をダブル受賞!
※2022年3月発売の文庫『本からはじまる物語』に掲載された紹介文を参考に編集したプロフィールです。
1位『夜のピクニック』
2005年本屋大賞受賞/第26回吉川英治文学新人賞受賞/多部未華子主演映画の原作
北高には一晩かけて80キロを歩き通す名物行事、通称「歩行祭」がありました。主人公の貴子はある目的を胸に秘め歩行祭に参加するものの、なかなか目当ての男子生徒に近付けず……。
高校生が夜中に歩く、ただそれだけの物語に胸が熱くなる青春小説の傑作。小さなハプニングやすれ違いを交えながら、共に過ごした高校3年間を回想し、友情を再確認していく少年少女の様子がとても瑞々しく描かれており、ノスタルジックな感傷をかきたてられます。
貴子の意外な秘密が伏線となり、点と点が繋がり始める中盤以降は一気読みでした。登場人物の目に映る夜景も、非日常感が漂っていて素敵です。青春時代に戻りたい方はぜひ読んでみてください。
ページ数 | 455ページ |
2位『蜜蜂と遠雷』
第156回直木賞受賞/2017年本屋大賞受賞/松岡茉優主演映画の原作
音楽界の寵児を輩出してきた芳ヶ江国際ピアノコンクールに突如エントリーした無名の少年・風間塵。彼は自宅にピアノを持たないにもかかわらず素晴らしい演奏で話題をさらい、参加者の心を波立たせます。優勝するのは一体誰でしょうか?
メインとなる4人のピアニストを中心に、天才と天才ならざる者、双方の葛藤を描いた音楽小説の傑作。活字から音が聞こえてくるような生き生きした演奏シーンは必読。四者四様のピアノの旋律に酔い痴れます。
参加者が背負ったドラマも読みごたえあり、お互い刺激し合うことで自分の限界を飛び越え、あるいはトラウマを脱却し、劇的な成長を遂げていく姿が感動的でした。ピアノが好きな方、小説で表現される音楽に触れたい方におすすめです。
ページ数 | 454ページ |
3位『チョコレートコスモス』
大学生の飛鳥は演劇初心者なものの、型破りな演技でめきめき頭角を現す天才。一方の響子は俳優一家に生まれた美貌の努力家。そんな2人が伝説的プロデューサー主催のオーディションで対決します。
恩田陸版『ガラスの仮面』ともいえる演劇ロマンの傑作。天然の天才を地でいく飛鳥とひたすらストイックに自分を高める響子、タイプが正反対な女優同士のバトルに手に汗握りました。オーディションへのアプローチの仕方に性格の違いが出ているのも注目してほしいです。
飛鳥たちが演じる作中劇も面白く、最前列の観客になった気分でハラハラドキドキのめりこめますよ。女の子同士のライバル関係が好きな方、演劇に興味がある方にぜひ読んでほしいです。
舞台の獣は、甘い宇宙の夢を見る。女優オーディションの小説、と聞けば、どうしても「足の引っ張り合い」「スキャンダル」を連想する。ところが、今作はそんなドロドロとは無縁!
たった1つの椅子を巡る演技バトルは、嫉妬も欲も渦巻くけれど、間違いなくフェアな戦い!なんといっても、文字だけで脳内を劇場にしてしまう、描写の凄味を感じます。
ページ数 | 562ページ |
4位『六番目の小夜子』
美しい転校生、津村沙世子。彼女が編入した高校には十数年間奇妙なゲームが受け継がれており、三年に一度サヨコと呼ばれる生徒が見えざる力で指名されてきました。沙世子が転校してきたのは、ちょうど六番目のサヨコが決まる年で……。
学校の怪談と青春小説が融合したミステリー。キーパーソンとなる津村沙世子の圧倒的存在感は言うに及ばず、彼女を取り巻く登場人物たち全員が個性的で、必ず一人は推しができます。
十数年間続くゲームは一体誰が何の為に始めたのか、ページをめくるほどに謎が深まり、六番目のサヨコ候補として浮上する新たな人物にぞくぞくが止まりません。雰囲気重視の学園ホラーが好きな方はぜひ手に取ってください。
ページ数 | 339ページ |
5位『ネバーランド』
ある男子校の寮「松籟館」。ここで暮らす4人の少年には冬休みにも実家に帰れない事情がありました。長期休暇で暇を持て余した彼らは、クリスマスイブの日に、互いの秘密を打ち明ける告白ゲームを始めるのですが……。
思春期真っ只中の多感な少年たちが4人で過ごしながら、次第に打ち解けていく様子に心惹かれました。舞台となる松籟館のレトロな雰囲気がまた素敵で、寮生活への憧れを禁じ得ません。
片や4人の罪が順番に明かされていく展開は苦く切なく、胸が締め付けられます。かけがえのない時を共に過ごし、互いの弱さを許し合った彼らが、今後の人生を前向きに歩んでいけるように願ってやみません。特別な時間が流れる寮生活を追体験したい方におすすめです。
過去の傷を隠し、寮生活を続ける男子学生たち。その秘密が明らかになっていくにつれ、次第に彼らの友情は深まっていきます。しかし、同時に「別れ」も近付き… 青春系が苦手、という方にこそ読んでほしい、切なく前向きな名作です。
ページ数 | 277ページ |
6位『木洩れ日に泳ぐ魚』
アパートの一室でとりとめない思い出話に耽る男女。明日には別れて部屋を出なければいけない状況下、2人の記憶や認識は次第にずれ始め、ある事件に関与している疑惑が浮上します。
舞台と登場人物を一部屋2人に限定した恩田陸流サスペンス。男女の視点が交互に挟まれる事で浮き彫りにされていく溝や、価値観の違いが興味深いです。2人が何者で何故破局に至ったのか、緩急をコントロールし小出しにされる伏線が、驚愕の真相に繋がる展開はとてもスリリング。
本人は尽くしてると思っていても相手にとってはそうじゃない、エゴイスティックな男と女の心理を描ききる筆力に脱帽しました。二転三転する会話の流れや濃密な心理描写を堪能したい方におすすめです。
ページ数 | 298ページ |
7位『光の帝国 常野物語』
世間に紛れひっそり暮らす超能力者一族・常野。ある者は人の記憶を読み取り、ある者は美しい幻を見て、常に安住の地を探しさすらい続ける彼らはどこへ向かうのでしょうか。
常野一族が生まれ持った能力のバリエーションや発動シーンが素晴らしく、五感に訴えかけてきました。時代に翻弄された能力者の苦悩や他人の痛みに心を寄せてしまうが故の悲劇、哀しい別れには涙腺が緩みます。
ノスタルジックなぬくもりを感じさせる一方、皆が思いやりを忘れ、殺伐とした現代社会に警鐘を鳴らすようなエピソードも多くハッとします。自分は優しく気高い常野一族の良き隣人たりえているか、読後に考えさせられました。超能力者の群像劇が読みたい方におすすめです。
ページ数 | 288ページ |
8位『禁じられた楽園』
大学の建築学部で学ぶ平口捷は、同級生の烏山響一に招待状をもらい、熊野の山奥に存在する野外美術館を訪れました。そこで彼を待ち受けていたのは、悪夢が形をとったような芸術作品の数々で……。
現代版『パノラマ島奇談』ともいえる、芸術家の夢想が結実した物語。ホラー・ミステリー・ファンタジーが融合した作風が特徴で、美貌と才能を兼ね備えた響一のエキセントリックなキャラクターが、鮮烈な印象を残しました。本作の主役は人にあらず、捷たちが目の当たりにする芸術作品とそれを展示する野外美術館そのもの。驚天動地の結末を予想できる読者は、まずいないと断言します。
最高傑作を仕上げるためなら罪を犯すことを恐れない、芸術家の狂気を肌で感じたい人は読んで損はしませんよ。
キュンキュンする恋愛ドラマやハッピーな家族小説もいいけれど、何だかぞわぞわしたり、不安感を伴って読み進むことで日常のあれこれを忘れて没入できるという本もあります。これはそんな本の1つで、カリスマ性のある芸術家が導いて行く道の先にあるおぞましさが独特です。
ページ数 | 518ページ |
9位『ライオンハート』
エリザベス・ボウエンとエドワード・ネイサンは何度も時をこえて生まれ変わり、一瞬だけすれ違い、すぐまた引き裂かれる運命を繰り返していました。17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ……次に逢瀬をはたすのはどこでしょうか。
決して結ばれない宿命ながら、永遠に近い歳月を旅し続け、出会いと別れを重ねる恋人たちがロマンチック。各章の扉絵に掲載されたミュシャやミレーの名画が、ストーリーに絡んでくるのも憎い演出です。
最期の一瞬だけでも目と目が合い、心と心が触れ合えるなら、その瞬間のために激動の時代を生き抜いてもいいのではないか……そんなふうに思わせてくれる、美しく切ない恋愛小説です。
「輪廻転生小説」という言葉がぴったりです。恩田陸さん作品には珍しい恋愛小説に分類できるかもしれないですが、エドワードとエリザベスには必ず別れがあるので、むなしさや寂しさが溢れる作品です。
「恋」というのは本当に不思議で、会っているその時は幸せですが、時間が過ぎるとともに別れの寂しさが増えてくる。会えない時間がそれぞれの持つ愛を大きく育てるのはもまた「恋」のなせる技かもしれません。エドワードとエリザベス両方の気持ちに感情移入できる極上の恋愛小説です。
ページ数 | 397ページ |
10位『三月は深き紅の淵を』
旅のテーマは「非日常」。人生で起きた美しい謎を持ち寄り過去の森をさまよい、答えを探し求める。大人版『夜のピクニック』です。
恩田さん得意の独白形式。『ネバーランド』『夜のピクニック』が好きな人はきっと気に入るはずです!
何を言ってもネタバレになるので言えないが、読後に感じる感覚は、もう1度最初から読み直したくなる。
鮫島巧一は趣味が読書という理由で、会社の会長の別宅に二泊三日の招待を受けた。彼を待ち受けていた好事家たちから聞かされたのは、その屋敷内にあるはずだが、十年以上探しても見つからない稀覯本『三月は深き紅の淵を』の話。たった一人にたった一晩だけ貸すことが許された本をめぐる珠玉のミステリー。
ページ数 | 448ページ |
11位『木曜組曲』
偉大な小説家・重松時子の命日に、彼女が住んでいた洋館に集まる4人の女性作家とベテラン編集者。時子を偲んで飲み食いするのが彼女たちの恒例行事ですが、今年は初っ端から不穏な気配が立ち込めて……。
恩田陸の創作論や作家としてのスタイルが垣間見えるミステリー。5人の女たちがただ飲み食いしながら喋るだけなのに、ページをめくる手がとまらない面白さ!ほうれん草のキッシュやじっくり煮込んだポトフなど、出てくる料理がどれも空腹を刺激するのにも注目。
純文学・エンタメ・評論・ノンフィクションと、それぞれ異なるジャンルで活躍する作家たちの愚痴や裏話には大変リアリティーがありました。饒舌でしたたかな女たちが好きな方はぜひ読んでください。
ページ数 | 269ページ |
12位『麦の海に沈む果実』
主人公・理瀬が転入した全寮制学園では、3月以外の転入生は破滅を招くとして恐れられていました。その噂を裏付けるように、2月の終わりに編入した彼女の周囲から生徒たちが消えていきます。この学園には一体どんな秘密が隠されているのでしょうか。
複雑な出自の少年少女が隔離された学園の、耽美な雰囲気が素晴らしい一冊。理瀬の美しく聡明なたたずまいや、彼女の協力者となる生徒たちのしたたかさが魅力的でした。
一方で誰も彼もが人に言えない秘密を持ち、この上なく怪しく見えてくるので、作者の手のひらの上で転がされる快感に浸れます。孤高の不良少年に冷静沈着な秀才など、タイプ別美少年も充実。独自の伝統を持った学園での生活に憧れる方におすすめです。
ページ数 | 512ページ |
13位『ユージニア』
日本推理作家協会賞受賞
K市の名家で起きた大量毒殺事件。長女・緋紗子を除いた一家は全滅し、犯人と目された青年は不可解な自殺を遂げます。やがて時が経ち、幼少期を過ごした町に帰ってきた主婦の満喜子は、当時の証人として取材を受けるのですが……。
帝銀事件をモデルにした大量毒殺事件が発端のミステリー。舞台となるK市の成り立ちが凝っており、リアルな街並みが目に浮かんできました。キーパーソンとなる盲目の美少女・緋紗子の存在感も格別。
事件を捜査した刑事や聞き語りをした学生、犯人と近しいエンジニアなど、複数の人物の証言で構成されている為、語り手が変わるたび関係者への先入観が覆されぞっとしました。最終的な解釈を読者に委ねるミステリーが好きな方におすすめです。
ページ数 | 420ページ |
14位『Q&A』
大型商業施設で発生した大事故。死者69名、負傷者116名を出したものの原因は特定できず、防犯ビデオに写った謎の少女の行方が取り沙汰される中、関係者たちが重い口を開きます。彼らは何を目撃したのでしょうか。
全編Q&Aのインタビュー形式で構成された斬新なミステリー。大型商業施設で起きた事故により、人生を狂わされた関係者たちの証言がとてもリアルで、阿鼻叫喚のパニック描写に戦慄しました。登場人物は事故の被害者や救助にあたった消防士、噂好きなタクシー運転手や都市伝説ツアー主催者まで幅広く、それぞれの視点から語り下ろす「真実」の意外性にゾクゾク。
読めば読むほど虚実が錯綜する、『藪の中(芥川龍之介)』風味のミステリーが好きな方は必読です。
A.人々へのQ&Aのみで、物語が完結しているところ。
Q.なぜいろんな人に質問をしているの?
A.ショッピングモールで大きな事故が起きて、証言を聞いていくんだけど、みんな答えが食い違うんだよね。
Q.どんなふうに?
A.読めばわかる。
Q.その答え、書評の禁じ手では?
A.だよね
ページ数 | 382ページ |
15位『黒と茶の幻想』
屋久島旅行に訪れた学生時代の仲良しグループ4人。原生林を探索しながら思い出話に興じる彼らの話題の中心には、ある日を境に消息を絶った友人・梶原憂理がいました。美しく聡明な憂理はどこへ消えてしまったのでしょうか?
家にいながらにして屋久島の大自然を堪能できる一冊。価値観や性格が異なる4人それぞれの視点で語られる為、その都度登場人物の印象が変わるのが新鮮でした。輝かしい青春を共有した男女4人の友情がまばゆく、19年の歳月を経て、結び直された絆に感動。同時に他者と距離感をはかる事の難しさ、孤独との付き合い方の学びも得られます。
学生時代に忘れられない出会いと別れを経験した方は、絶対感情移入できるはず!
ページ数 | 400ページ |
16位『エンド・ゲーム 常野物語』
独特な世界観と表現方法で描かれた1作。正体不明の存在と「裏返す」力を繰り返しながら戦っていく物語。
超能力を扱う主人公や家族のドラマに、迫力ある展開。読み進めていくたびに、奥深くなっていく作品です。
『あれ』と呼んでいる謎の存在と闘い続けてきた拝島時子。『裏返さ』なければ、『裏返され』てしまう。『遠目』『つむじ足』など特殊な能力をもつ常野一族の中でも最強といわれた父は、遠い昔に失踪した。そして今、母が倒れた。ひとり残された時子は、絶縁していた一族と接触する。親切な言葉をかける老婦人は味方なのか?『洗濯屋』と呼ばれる男の正体は?
ページ数 | 368ページ |
17位『MAZE』
アジアの西の果てに存在する白い直方体。足を踏み入れたら二度と戻れないと噂されるその建物の調査に訪れた日本人・神原恵弥は、関係者の人体消失を目の当たりにし……。
オネエ言葉のイケメン・神原恵弥が謎の人食い遺跡の謎解きに挑むミステリー。アメリカ軍人や迷信深い現地人コーディネーターを含む、国際色豊かな4人組の推理合戦に引き込まれました。SFやホラーの要素も取り入れられており、メンバーが一人また一人と消失していく、絶望的な展開にドキドキが止まりません。
読者をあっと言わせるラストも秀逸で、見事な伏線回収に手を打ちました。頭がキレるクセ強めの探偵が好きな方は、恵弥の活躍を目に焼き付けてください。
ページ数 | 264ページ |
18位『ネクロポリス』
故人と再会できる特別な島、アナザー・ヒル。文化人類学の研究の為この地を訪れたジュンは、血塗れジャックを名乗る殺人鬼の情報を犠牲者の霊から直接聞き出そうとするのですが、アナザー・ヒル滞在中に新たな惨劇が起こり……。
英国と日本の文化が融合した架空の国V・ファーや、期間限定で死者と会える聖地アナザー・ヒルの設定が面白く、日常と非日常の境が曖昧な独特の世界観にハマりました。
誰が犯人なのか、本当に血塗れジャックが紛れ込んでいるのか。例年にないトラブルが発生し、疑心暗鬼に陥っていく人々の様子が臨場感たっぷりに描写され、先が読めないストーリーから最後まで目が離せません。恩田陸が作り出す異世界の空気を堪能したい方、おすすめです。
ページ数 | 478ページ |
19位『ドミノ』
オーディション中に下剤を盛られた子役、推理合戦を楽しむ負けず嫌いな学生、待ち合わせ場所に辿り着けない老人。総勢27人と1匹が東京駅に集った時、予想だにしない事件の火蓋が切って落とされ……。
ドミノ倒しのようにテンポ良い展開が笑いを生む、コミカルな群像劇。癖が強い登場人物たちが偶然に次ぐ偶然でニアミスし、あるいは互いに深く関わり、意図せずトラブルに巻き込まれていく様は抱腹絶倒。
ダンジョン顔負けに入り組んだ東京駅の描写も見事で、その場にいるような臨場感が味わえます。特に警察OBたちの活躍が痛快!機転と度胸を兼ね備えた、おじいちゃんのかっこよさに惚れ直します。常日頃から東京駅を使ってる方は、通勤通学が楽しくなりますよ。
ページ数 | 384ページ |
20位『月の裏側』
九州の水郷都市・箭納倉では不可解な失踪事件が相次いでいました。失踪者の共通点は掘割に面した家に住んでいたこと、数日後に記憶を失い帰ってくること。元教授・協一郎は仲間を募り調査を始めます。
水に住む「人もどき」が、人間を乗っ取っていくホラー小説。日常が非日常に裏返るざらざらした違和感、人ならざるものにじわじわ浸蝕されていく恐怖が巧みに描かれ、読後は水辺に近寄るのが怖くなります。
人もどきの成り代わりに気付いた協一郎たちが、一人また一人と取り込まれていく様子には固唾を飲んでしまいました。じめじめした不気味な雰囲気もたまりません。家族や隣人が得体の知れない何かに寄生されていたら……そんな妄想をしたことがある方におすすめです。
ページ数 | 461ページ |
21位『象と耳鳴り』
退職判事・関根多佳雄は3人の子供を育て上げた良き父であり、一を聞いて十を知る人間観察のプロフェッショナル。今日も行く先々で様々な人に出会い、持ち込まれる謎を解決していきます。
レトロな喫茶店で、あるいは散歩道の階段で……安楽椅子探偵を地で行く主人公が、優れた洞察力でもって、長年相手を悩ませてきた謎をたちどころに解決に導くストーリーに魅了されました。原則一対一の会話劇が主ですが、雰囲気作りが抜群に上手く、関根が推理を述べる場所に行ってみたくなります。
『六番目の小夜子』に登場した関根家の子供たちのその後がわかるのも、ファンには嬉しいサービス。知的で穏やかな老紳士が好きな方は、関根多佳雄に心を掴まれるはず。
ページ数 | 318ページ |
22位『雪月花黙示録』
最初は舞台背景や設定に驚きましたが、段々と世界観に魅了され、読み終わったあとは「こういう近未来物もありなんだ!」と感じました。
ポップでいながらも少し不穏な空気を漂わせ、少し特殊な「近未来」を描いた最高のSFです。
ミヤコの最高学府、光舎の生徒会長選挙。それはミヤコ全体の権力者を決定する伝統と狂騒のイベント。美形剣術士で春日家の御曹司、紫風は三期目の当選を目指していた。ある日、紫風は立会演説会中に選挙活動を妨害される。それは反体制勢力、「伝道者」の宣戦布告だった。彼といとこの女子高生剣士、蘇芳は次第に巨大な力に巻き込まれていきー。
ページ数 | 420ページ |
23位『ねじの回転』
時間遡行装置が発明された近未来。国連は人類史に介入し、過去の悲劇の修正を目論みます。そして1936年2月26日、二・二六事件の当日に修正者が送り込まれるのですが……。
二・二六事件の失敗をなかったことにするため、未来人に選ばれた安藤大尉が奮闘するタイムスリップSF。意外な協力者や裏切り者の存在が発覚するたび驚かされ、一気読みしてしまいました。
国家のため、愛する人のため、日本の未来のため……様々な人物の思惑が複雑に錯綜するストーリーは、現代に生きる私たちの在り方を問い直しているようにも感じられ、骨太な信念に貫かれた歴史小説の醍醐味を併せ持ちます。タイムスリップものが好きな方、二・二六事件に興味を持っている方は必読。
ページ数 | 280ページ |
24位『いのちのパレード』
『蝶遣いと春、そして夏』
「蝶遣い」を生業とする主人公の物語。春から夏へ移り変わる様子や、季節の風景が描かれた美しくも儚い小説。
風景や蝶、山々の空気、まるでその場にいるかのように五感で感じられます。そして、良い蝶遣いになるための条件とは… 切なくも美しい短編です。
読み進めると、こんな展開が待っているだろうと予想するのですが、それが良い意味で裏切られるのでワクワク感が最後まで止まりません。
1編ごとに恩田ワールドが繰り広げられますが、全体を通してしっかり1つの世界観にまとまっている点も評価できます。
「パレード」というタイトルが、それぞれの物語の共通性と独自性をうまく表現していると思いました。
あちこちから指や手の形をした巨岩が飛び出す奇妙な村に、妻と私はやって来た(『観光旅行』)。主人公フレッドくんが起き抜けから歌うのは、ミュージカルだから(『エンドマークまでご一緒に』)。「上が」ってこの町を出るために、今日も少女たちはお告げを受ける(『SUGOROKU』)。小説のあらゆるジャンルに越境し、クレイジーで壮大なイマジネーションが跋扈する恩田マジック15編。
ページ数 | 384ページ |
25位『私の家では何も起こらない』
小さな丘の上にたたずむ二階建ての古い家。そこは有名な幽霊屋敷で、双子の老女がアップルパイを焼いてる最中に殺し合い、肝試しに訪れた人々が謎の失踪を遂げ、殺人鬼の美少年が自ら命を絶った過去を秘めていました。次の犠牲者は一体誰でしょうか?
恩田陸流ゴーストストーリーの決定版。外国(おそらくアメリカ)を舞台にしており、ノスタルジックな雰囲気がたまりません。屋敷自体が大いなる意志を持ち、犠牲者を招き入れてるようにも感じられるエピソードの数々には、エレガントな恐怖を味わえました。一人称視点で語られる話が多いのも入りやすくて好感触です。
ショッキングな描写は控えめなので、ホラー初心者にもおすすめしたいです。
ページ数 | 224ページ |
26位『蛇行する川のほとり』
女子高生の毬子は美術部の憧れの先輩・香澄とその親友・芳野に誘われ、文化祭に出す一枚絵を仕上げる目的を兼ねた夏合宿に参加。しかし合宿先となる香澄の家では、過去に彼女の母親が不審死を遂げており……。
上質なミステリーであるのは言うに及ばず、小悪魔的に振る舞ったかと思いきや、繊細で傷付きやすい素顔を垣間見せる、思春期の少女特有の心理がよく表現されていました。特に三者三様の濃密な心理描写は圧巻。ある秘密を共有した香澄と芳野の強い繋がり、そんな2人に嫉妬と疎外感を覚える、毬子の切ない心情がぐっときます。
百合の香りがする美少女たちの友情に酔い痴れたい方はぜひ読んでください。
ページ数 | 352ページ |
27位『スキマワラシ』
近年はやや低調気味に思えた恩田陸ですが、久しぶりにノスタルジーの魔術師の真骨頂といえる作品となっています。
氏の多彩な作品群のなかでは「民俗学」の要素が強いタイプで、何気ない日常の風景のなかに不思議が宿っており、ファンタジー、SF、ミステリーの要素が絡みあう独特の雰囲気が楽しめます。
それでいて、この国がすでに落陽の時代に入り込んでいることを感じさせる、ノスタルジックな1冊です。
白いワンピースに、麦わら帽子。廃ビルに現れる都市伝説の“少女”とは?
ページ数 | 472ページ |
28位『図書室の海』
なかなか類を見ないタイプの短編集。
『夜のピクニック』の前日譚や『六番目の小夜子』『麦の海に沈む果実』の番外編など、他の長編に連なる作品で構成されており、恩田陸ファンであればあるほど楽しめる1冊です。
収録ジャンルはホラー、SF、青春、ミステリーなどとにかく多彩で、断片的であるがゆえに想像力を掻き立てられます。
恩田陸初心者の方は、本作で多彩な恩田陸作品のどのジャンルが好みかを探ってみてほしいです。
あたしは主人公にはなれない――。関根夏はそう思っていた。だが半年前の卒業式、夏はテニス部の先輩・志田から、秘密の使命を授かった。高校で代々語り継がれる〈サヨコ〉伝説に関わる使命を……。
ページ数 | 304ページ |
29位『愚かな薔薇』
宇宙を行く船「虚ろ舟」。高田奈智は、その舟に乗る「虚ろ舟乗り」を養成するキャンプに参加していましたが、彼女はそれが何のためのキャンプかを知らされていませんでした。初日に血を吐いた彼女は身体の変化にとまどいます。やがて、キャンプの本当の目的や、大人たちの打算、その背景にある危機が明らかになっていきます。
夏の田舎町を舞台に繰り広げられるのは、ミステリー・ホラー・SFが融合した物語。心では変化を拒否しながらも否応なしに変わっていく様子が妖しく描かれていて、ドキドキするような、心苦しいような気持ちになります。変わりゆくなかで芽生える淡い恋心を切り口にしつつ、終盤にかけて広がる怒涛の展開も見どころです。
ページ数 | 592ページ |
おわりに
最後まで読んでいただきありがとうございました。
本屋大賞の『夜のピクニック』『蜜蜂と遠雷』が多くの票を集め1位、2位という結果になりました!
自分の大好きな一冊、懐かしい一冊、再読してみたくなった一冊、気になってはいたが読めていない一冊など、ランクインしていましたでしょうか?
この記事を読んで新たな作品との出会いのきっかけになればと願っております。
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