25ヶ国で翻訳されたベストセラー『キッチン』でお馴染みの吉本ばなな。「いつか死ぬ時がきたら、台所で息絶えたい」というような詩的な文章が特徴的。他にも色彩語の多用による情景の想像のしやすさや、登場人物のストレートな心情表現が独特な世界観を生み出し、女性を中心に読者を魅了し続けています。
今回は読書好きの方21名に、Twitter上で吉本ばななおすすめの1冊を選んでいただきました。その結果をランキング形式でご紹介します。
目次
1位『キッチン』
#第6回海燕新人文学賞受賞
あした
唯一の肉親を亡くしたみかげは、祖母と縁があった大学生の田辺雄一に拾われました。この世で一番好きな場所・キッチンに居候しながら、彼女は独りぼっちの自分を癒していきます。
表題作とその続編、恋人を亡くした女性のお話をあわせた3編の小説です。どの作品も主人公が大切な人を失い、喪失からの再生を描くことで人が生きていくのに大切なことを示してくれます。特に『キッチン』のみかげは、死や孤独を感じなければ生の実感が持てない業に囚われていて、その彼女が一歩踏み出す勇気や、きっかけになる田辺家の母えり子のセリフが素晴らしいです。
世界で愛されるこの作品で、初出から30年以上経って尚瑞々しい文章に触れられる、読書という奇跡を体験してください。
しのはら
「本当につかれはてた時、私はよくうっとりと思う。いつか死ぬ時がきたら、台所で息絶えたい」有名な一節。床のつめたさが伝わってきそうな、この物悲しさと切なさがたまらなく好き。
ラマンボ
「愛する人はみんな死んでいく。それでも生きてゆかなくてはいけない。」主人公のみかげに感情移入しながら読んだことを覚えています。辛い時や心が苦しい時に読みたい本です。
2位『N・P』
描かれる事象のひとつひとつは重たいもののはずなのに、魅力的な登場人物と文体がそう感じさせない。
濃密な夏の気配。色、におい、景色、手ざわり。夏が来ると手に取りたくなる本です。
『N・P』は夏が近づくたびに読み返します。
青春、恋、人間の高潔、ある種の「呪い」。生きるだけで積み重なっていく悲しみをどう対処したらいいのか。
吉本ばななさんの小説を読んだから、小説家になろうと思いました。この本は、僕の「小説」と「人生」の教科書です。
97本の短編が収録された「N・P」。著者・高瀬皿男はアメリカに暮らし、48歳で自殺を遂げている。彼には2人の遺児がいた。咲、乙彦の二卵性双生児の姉弟。風美は、高校生のときに恋人の庄司と、狂気の光を目にたたえる姉弟とパーティで出会っていた。そののち、「N・P」未収録の98話目を訳していた庄司もまた自ら命を絶った。その翻訳に関わった3人目の死者だった。5年後、風美は乙彦と再会し、狂信的な「N・P」マニアの存在を知り、いずれ風美の前に姿をあらわすだろうと告げられる。それは、苛烈な炎が風美をつつんだ瞬間でもあった。激しい愛が生んだ奇跡を描く、吉本ばななの傑作長編。
3位『哀しい予感』
複雑な境遇を淡々と、美しい言葉で紡ぐ。
ばななさんの作品は辛いことを辛く書くのでなく、目線を少しずらして、過酷な中にもある、日々の美しさを教えてくれる。
世界で唯一の肉親と、血の繋がらない弟と、帰結の話。
何を隠そう、私の初恋は本作に登場する哲生です。曇り空にまっすぐ降り注ぐ光のような哲生に憧れていました。いま読み返しても、哲生ほど懐の広い男子高校生はいないと思う。大好きです。
弥生はいくつもの啓示を受けるようにしてここに来た。それは、おばである、ゆきのの家。濃い緑の匂い立ち込めるその古い一軒家に、変わり者の音楽教師ゆきのはひっそりと暮らしている。2人で過ごすときに流れる透明な時間。それは失われた家族のぬくもりだったのか。ある曇った午後、ゆきのの弾くピアノの音色が空に消えていくのを聴いたとき、弥生の19歳、初夏の物語は始まった。大ベストセラー、そして吉本ばなな作品初の文庫化。
4位『ハードボイルド/ハードラック』
初めて吉本ばななの小説に共感した作品。2本収録されているが、どちらの女主人公も自分の「信仰」に従って生きていることがわかる。
「今のはみかんが見せてくれた光景だ。みかんのほうが、くにちゃんに愛されたことをおぼえていて、なにかをよみがえらせて見せてくれたんだ」ーハードラックよりー
私は普段目に見えない大きなものに包まれているんだと思った。
「ハードボイルドに生きてね。どんなことがあろうと、いばっていて。」最後になった電話でそう言っていた千鶴。彼女のことを繰り返し思い起こす奇妙な夜を描く「ハードボイルド」。死を待つ姉の存在が、ひとりひとりの心情を色鮮やかに変えていく季節を行く「ハードラック」。闇の中を過す人々の心が光り輝き始める時を描く、二つの癒しの物語。
5位『デッドエンドの思い出』
優しくてフワフワした2人の少し切ないお話。生きることの大変さの中にある「幸せ」とは何かを教えてくれるような気がする。
悲しい、というより切ない感じの話が多い短編集。たまに読み返したくなる一冊です。
つらくて、どれほど切なくても、幸せはふいに訪れる。かけがえのない祝福の瞬間を鮮やかに描き、心の中の宝物を蘇らせてくれる珠玉の短篇集。
6位『TUGUMI』
第2回山本周五郎賞受賞
主人公のまりあには美しくわがままないとこ・つぐみがいました。生まれた時から病弱で成長が危ぶまれたつぐみのお願いを、まりあは断ることができません。ふるさとの海辺の町で姉妹同然に育った2人は、少女でいられる最後の夏に、心ときめく少年と出会います。
好対照ないとこの友情とひと夏の恋のきらめきがまぶしい、爽やかな青春小説。見た目は天使、中身は(小)悪魔なつぐみがとても魅力的で、彼女に意地悪されたいと望む読者も多いはず。片やいい子すぎるほどいい子なまりあが、つぐみのある仕打ちに耐えかね、爆発するシーンは胸が痛みました。
面倒くさい女の子に振り回されたい願望がある読者は、ぜひ手に取ってください。
7位『とかげ』
主人公の「私」は、とかげと名乗る女性と3年間交際しています。デリバリーのピザが好きで人と話すのは苦手な彼女にプロポーズした夜、とかげは子供の頃に家族を襲った、壮絶な不幸を主人公に打ち明けます。
とかげと「私」の奇妙な蜜月が淡々と描写され、日常に非日常が溶け込んだ、独特な雰囲気の虜になりました。各短編に共通するのは耐え難い喪失の経験。登場する女性がほぼ全員家族に恵まれず、心に傷を抱えています。そんな彼女たちがパートナーを受け入れ、また受け入れられることで、とかげが脱皮するように再生していく姿が印象的でした。
友人、恋人、夫婦、家族……互いの弱さを許し合い、安息を与えあえる男女の関係性に惹かれる方は必読です。
8位『なんくるない』
読み進めるうちに、日々の喧騒から離れ、沖縄のぬるい風を感じられて、生きるって、人ってなんだかいいなと思えたり、自分のちょっとした心の動きに気づけたり。
沖縄には、神様が静かに降りてくる場所がある―。心ここにあらずの母。不慮の事故で逝った忘れえぬ人。離婚の傷がいえない私。野生の少女に翻弄される僕。沖縄のきらめく光と波音が、心に刻まれたつらい思い出を、やさしく削りとっていく…。なんてことないよ。どうにかなるさ。人が、言葉が、光景が、声ならぬ声をかけてくる。なにかに感謝したくなる滋味深い四つの物語の贈り物。
9位『アルゼンチンババア』
非現実的だけど生死や人間模様、男女関係について考えさせられる作品!
街はずれの廃屋みたいなビルに住む、変わり者で有名なアルゼンチンババア。母を亡くしてからしばらくして、みつこは自分の父親がアルゼンチンババアとつきあっているという噂を耳にする。思い切ってアルゼンチンビルを訪ねたみつこが目にした、風変わりで愛しい光景。哀しみを乗り越えていっそう輝く命と、真の幸福の姿を描く大傑作。
10位『イルカ』
命の悲しみや喜びが描かれている。登場人物皆が、それぞれ抱える事情はあってもイキイキとしている。穏やかな気持ちになれる一冊。
妊娠、出産…よしもとばななの新境地!まだこの世にやってきていないある魂との出会いの物語。
11位『ふなふな船橋』
私も小さい頃、祖父に買ってもらったぬいぐるみと毎日一緒に寝て、失恋した時も話しかけたりしていたので、とても胸にきました。
前向きになれる本なので、辛いことがあった時に読んだらきっと、救われて泣いてしまうと思います。
父親は借金を作って失踪し、母親は恋人と再婚することに。15歳で独りぼっちの立石花は、船橋で暮らす決断をする。それから12年、書店の店長をやり、恋人との結婚を考えながら暮らす花に、再び悲しい予感が…。だが彼女は、暗闇の中にいても、光を見つけていくのだった。
12位『海のふた』
一度行っただけなのに忘れられない寂れた町。あの町なのかもしれないと思いながら一気に読了。
自分の居場所、自分の好きな事で生きていくこと、人とのつながりで見えてくるもの、些細なことに感謝し、シンプルに生きることを教えてもらった気がしました。
ふるさと西伊豆の小さな町は、海も山も人も寂れてしまっていた。実家に帰った私は、ささやかな夢と故郷への想いを胸に、大好きなかき氷の店を始めることにした。大切な人を亡くしたばかりのはじめちゃんと一緒に…。自分らしく生きる道を探す女の子たちの夏。版画家・名嘉睦稔の挿絵26点を収録。
13位『白河夜船』
作者が常に意識している「死」に加え、「夜」と「夢」をモチーフにした作品集です。
愛する人を失ったり、ままならない恋愛の最中にいたりする息苦しさが描かれており、登場人物たちは夜の静けさに身を委ねることでやっと息ができるようになります。不思議な夢をトリガーに物語が動いていく様子は夢分析のようで、スピリチュアルな世界に興味がある人を満足させるでしょう。
直接描写はないけれど、作品が出版された時代はバブルの好景気に浮かれつつ、その終わりの足音に耳をふさいでいた頃。その雰囲気が物語の夜の深さと重なります。固定電話でする恋人同士の会話や何時間も一人待ちぼうけするあの感覚は、その時代を生きた人には甘酸っぱく、令和世代には新鮮に響きます。
14位『「違うこと」をしないこと』
私はこの本を読んで号泣しました。自分らしい在り方に気づかせてくれる1冊です。
「違うこと」とは、“その人の生き方の中で、今ここでするべきではない”こと。本書は、かけがえのない人生を生きるための、ばななさんからの贈り物。
おわりに
最後まで読んでいただきありがとうございました。
自分の大好きな1冊、懐かしい1冊、再読してみたくなった1冊、気になってはいたが読めていない1冊などはランクインしていましたか?
この記事が新たな作品との出会いのきっかけになればと願っております。
他にもたくさんの作家さんのまとめ記事があるので、ぜひ覗いてみてください!
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