江國香織おすすめ作品30選【リリカルな文章が紡ぐ、ユニークな人間関係】

江國香織おすすめサムネイル

『冷静と情熱のあいだ(Rosso)』

26歳のあおいは、恋人のマーヴとともにイタリア、ミラノの高級アパートで暮らしていた。裕福で優しい恋人との穏やかな暮らし、誰もが羨む生活を手に入れたあおい。しかし彼女の心の中には、忘れられないかつての恋人、順正がいた。

「あおいの30歳の誕生日に二人でフィレンツェのドゥオモに登ろう」

10年前にした順正との約束。その日が迫る中、あおいのもとに音信不通だった順正から手紙が届く。

女性(あおい)側の視点を江國香織が、男性(順正)側の視点を辻仁成が書き、2冊合わせて完成する形をとった物語。

女性視点の物語は江國香織ならではの繊細な女性の心理描写と、美しい言葉選びにより最高にお洒落な作品に仕上がっている。

26歳という微妙な年齢の女性が、過去への未練と未来への期待感の間で揺れる様子が実に丁寧に、細やかに描かれる。

雨の日に読み耽りながら、センチメンタルに浸るのにぴったりな1冊。

『東京タワー』

売れっ子のCMプランナーを夫にもち、自らも都内一等地でセレクトショップを運営している41歳の詩史。なんの不自由もない暮らしをしている幸福な人妻だった彼女は、ある日友人に連れられて現れた友人の息子の透と出会い、瞬く間に恋に落ちた。

透の不倫について聞いた透の友人・耕司は、遊び心のままにバイト先で出会った人妻の喜美子を誘い、不倫の道へと踏み出していく…。

詩史と透、そして耕司と喜美子。2組の不倫の恋が平行して描かれる本作の特徴は、「対比」である。詩史を運命の人と疑わず、真っ直ぐに詩史を想う透と、それと対照的に周囲をも巻き込みながら破滅的に恋愛を楽しむ耕司。

どちらも同じ不倫ながら、その恋は全く相反するように見えるのが不思議だ。同じ禁忌を犯しながら、正反対の恋愛観を持つ男女。彼らを待ち受ける運命を描く物語。

『ぬるい眠り』

9つの短編からなる短編集。1話目の「ラブ・ミー・テンダー」は、老いた両親が「今度こそ本当に離婚する」と言い出すことから始まる。不可解な言動を繰り返す母親と、そんな母を心配する娘の関係を描いている。

2話目はタイトルにもなっている「ぬるい眠り」だ。妻と別居中の自称芸術家である耕介さんと不倫の恋に落ちた雛子は、すぐに彼の家に転がり込み同棲状態になるが、耕介さんの妻が戻ってくることになるとあっさり別れることになってしまう。しかし物理的な距離が離れても彼女の心は耕介さんから離れることはできなかった…。

『きらきらひかる』の続編である「ケイトウの赤、やなぎの緑」も含まれているので、『きらきらひかる』が気にいった方にはぜひ手にとって頂きたい1冊である。

人間関係、それも男と女の関係(恋愛関係に限らず)を実にリアルに描いている一方で、一人一人が自己中心的だったり複雑すぎたりと、理不尽さが各所に見られるので、得意な方と苦手な方が別れる作品だろう。

一話一話が短く、サクサク読み進めることができるので、江國香織初心者にもおすすめだ。

『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』

言葉の発達が少し遅れている拓人は、大人の言葉が理解できないことがある。その代わり拓人は、「人が発するもの・場の空気感」を色彩や音から感じとることができる。

そんな拓人を取り巻くのは、家族よりも恋人を優先する父と、そんな父を待つ生活に疲れ切った母、そしてしっかり者の姉。

大人たちの世界はこんなにも現実感に満ちているのに、拓人の目に映る世界は瑞々しい色に満ちていて美しい。読めば世界の見え方を変えてくれる、ありのままの姿の美しさを描いた作品だ。

大人になった今はもう見えなくなってしまった世界を、拓人の目を通してもう一度見ているような感覚に浸れる物語である。

仕事や家庭、現実に疲れ切った時、あなたを疲れさせている原因は、もしかするとあなたの目にそう映っているだけなのかもしれない。

トトロが子供にしか見えないように、大人には見えないものって他にもあるのかもしれないと思えば、きっと世界はもっと美しく見えるはずである。

『抱擁、あるいはライスに塩を』

立派な洋館に暮らす柳島家には他の家と違うさまざまな理念があり、皆がそれに従って生きている。

例えば子供は学校に通わず家で教育を受けるのだが、あるきっかけで突然子供は学校へ行くことに。そこで子供たちは、自分の家がよその家とは「違う」ことを知る。

家族の時間は時代とともに流れ、形式もそれぞれの役割も、当たり前に変わっていく。誰もが経験することであると同時に、幸せな毎日も確実に変化していくのだということを伝えてくれる作品である。

最後に明かされるこの家族の秘密を知った時、家族の全体像が明らかになり、なんとも言えない切なさと物悲しさが心に残る。

奇妙なまでに風変わりな家族を描いた、時代小説のような雰囲気を纏った物語である。

『思いわずらうことなく愉しく生きよ』

「人はみないずれ死ぬのだから、そしてそれがいつなのかはわからないのだから、思いわずらうことなく愉しく生きよ」

それが犬山家の家訓である。

そしてそんな犬山家には三人の娘がいる。DV夫を持ち、彼から離れようとはしない長女の麻子。低収入の恋人と同棲中のバリキャリ、次女の治子。誰彼構わず寝まくるが、実は一番現実主義な事務職の三女、育子。

三者三様の悩みを抱え、共有し、共に人生を全力で生きる女たちの物語。

NHKドラマ『カレ、夫、男友達』の原作小説。この物語に登場する3人の主人公たちは、簡単に要約すると上記あらすじの通りなのだが、数行の文章ではとても表現することができない複雑さと繊細さ、強さを内に秘めている。

本書を読んだ女心に疎い男性たちは、女性の複雑と難しさを思い知らされ愕然とすることだろう。女性の心理描写に長けた一冊だ。

『金平糖の降るところ』

日系アルゼンチン人の姉妹、佐和子とミカエラは、常に恋人を共有する人生を送ってきた。

しかし達哉の共有を佐和子が拒んだことをきっかけにこの関係は崩れ始める。そしてミカエラは他の男の子を身篭り、アルゼンチンへと帰国する。

家族という関係、深い愛情、さまざまなもので繋がっているのに、新たに別の関係も繋ぎ始める人たち。そんな彼女らが向かっていく先とは…。

姉妹は多くのものを共有して育つ。両親、友人、そして幼少期の記憶。

江國香織は本作について、「人が人を共有しあっていることの不思議さ、面白さを描いてみたかった」と述べている。

国を超え、時を超え、変わっていく人と人とのつながりの形を描いた物語。

『ホリー・ガーデン』

女らしく愛嬌があり、男からの人気も高い果歩。実直で努力家、夢に向かって着実に進む静枝。どこからみても正反対のふたりは親友だった。

外から見ると、一見仲の良さを理解されにくい2人は、それぞれの生き方を羨ましく思いつつも自分の生き方を肯定している。

だって私たちはいつも、頑張って生きているのだから…。

女性の友人関係は複雑だ。共通点を見つけて喜ぶくせに、相手が自分よりも優れていると腹が立ったり、自分が惨めに感じられて悲しくなったりもする。

しかしこの2人の関係性はまさに理想に見える。「本当の友情ってこんな感じなのかな」「相手を思いやるってこういうことなのかな」、そんな気持ちが湧いてくる。

友人との付き合い方について考えさせられる1冊。

『ホテルカクタス』

町外れに佇む、古めかしいアパート。その名は「ホテルカクタス」。そこに住んでいるのは、帽子、きゅうり、2という名前の、それぞれちょっと変わった住人たちだった。

何気ない日々に潜む幸せと安心感を感じとることができる、ちょっと切ない物語。

ホテルカクタスの住人たちは、「いつでもここにある安心感」と「無謀さへの憧れ」の間で揺れながら暮らしている。

読み終わった後、この世にはこんなにも素敵なものが溢れているんだ!と、思わず毎日に感謝の気持ちが湧いてくる。

『彼女たちの場合は』

14歳と17歳。思春期真っ只中の礼那と逸佳は、ニューヨークの郊外に暮らす従姉妹同士。そんな2人の少女は「アメリカを見る」ため、2人きりの旅を計画する。

アムトラック(長距離を繋ぐアメリカの電車)やバスを使い、東から西へと渡る道中、2人は多くの人々と出会い、そして別れが訪れる。

若い少女たちの視点から見る、出会いと別れの物語。

旅の途中で2人が出会う人々のユニークさが本書の魅力だ。愛すべき彼らは若い少女たちに、人生を考える「きっかけ」を与えていく。少女たちの目を通して、読者も登場人物たちから多くの学びを得ることができるのだ。

またこの本は、読者の置かれている立場によって、大きく見えかたが変化する作品でもある。あなたが今高校生なのか、就職したばかりなのか、それとも礼那と逸佳くらいの年齢の子を持つ親なのか。

歳を重ねて読み返すと毎度新たな発見を与えてくれる作品だ。

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