ミステリー小説に対してどのようなイメージをお持ちだろうか。「難しそう」「重い展開」「読んでいて疲れる」などという印象をお持ちではないだろうか。
実際にそのようなミステリー作品も多く、「それがミステリーのいいところ」と感じている読者も多いだろう。しかし、東川篤哉に限ってはそのイメージは全く当てはまらない。
東川篤哉の作品は全てミステリー作品だが、一貫してコメディ要素やユーモアが散りばめられている。
軽快なテンポ感、ユーモア溢れる言葉たち、謎解きを楽しみながら読める軽い読後感が、東川篤哉作品の持ち味である。
ミステリー初心者、思い切り笑いたい人、軽い気持ちで読書したい人に特におすすめしたい作品10選を紹介する。
目次
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・謎解きはディナーのあとで1〜4
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『中途半端な密室』
田村麻悠
東川篤也の初期の作品を集めた短編集。表題作「中途半端な密室」のほか、全5編が収録されている。
表題作では、タイトルを見た瞬間「中途半端では密室とは言えないのでは?」という疑問が湧く。しかし読み進めると、「なるほど」と納得。確かに「中途半端な密室」なのだ。
偶然が引き起こした謎であり、周りを混乱に陥れるには十分。短編ながら、各所にこっそり張られた伏線を回収していく様は見事である。読後の爽やかさや痛快さすら感じられる。
他4作は、短編連作となっている。
斜めの視点を持つ閃きの安楽椅子探偵・敏(びん)ちゃんと、間抜けなお人好しワトソン役ミキオくん。間接的に関わってくるストーリーテラー・則夫。この作品たちの名物トリオである。
則夫がややこしくした話にミキオくんが振り回され、敏ちゃんが鼻で笑いながら事件を解決していくまでの一連の流れが小気味よく、軽快なテンポを生み出している。
岡山弁全開で、2人に振り回され続けるミキオくんを応援したくなる。ミステリーながら、ゆるく楽しめるユーモアあふれる短編集。
ページ数 | 233ページ |
『謎解きはディナーのあとで』
田村麻悠
ドラマ化及び映画化、2011年の本屋大賞受賞と、東川篤哉の名前を世に知らしめた一作。ドラマや映画のワンシーンを思い浮かべながら読んでみるのも面白いだろう。
世界的企業グループのご令嬢である宝生麗子と、執事・影山。とんちんかんな迷推理を披露する風祭警部。なんとも個性的すぎるキャラクターたちが主役の物語だ。
「お嬢様の目は節穴でございますか?」「お嬢様はアホでいらっしゃいますか?」執事・影山の主人に対する数々の暴言ぶりは癖になる。
キャラクターたちのやりとりは、まるでコントを見ているようだ。本人たちが大真面目にやっているからこそ、笑ってしまう読者は多いだろう。
随所にトリックのヒントが散りばめられており、読者も謎解きをしながら楽しめる。
作品自体は、謎が解明されたところで終了である。謎が解明された後、どうやって犯人を逮捕するのか想像するのもまた一興だ。
2、3、ベスト盤とシリーズが続くので、暴言をさらに楽しみたい人は手に取ってみてはいかがだろうか。
ページ数 | 255ページ |
シリーズ | シリーズ全3巻 |
受賞 | 2011年本屋大賞受賞 |
メディア化 | ドラマ化、実写映画化 |
『密室の鍵貸します』
田村麻悠
東川篤哉の記念すべきデビュー作にして、烏賊川市シリーズの第1作目。
プロローグは、とてもミステリー作品の書き出しとは思えない。突然、烏賊の話から始まるのだ。架空の地「烏賊川市」。音だけを聞けば、別の意味を連想させる。ユーモア溢れる言葉遊びの一環。これは、東川篤哉の得意技。デビュー作から、東川ワールド全開である。
2つの殺人事件の容疑者となった大学生・流平と元義兄の鵜飼ペア、事件を調べる砂川、志木刑事ペア。両方の視点から事件は進んでいく。
読み進めるにつれ、後半になるほど面白さが加速していく。作り込まれたトリックとそれを感じさせないユルさの書きぶりとキャラクターたち。軽いタッチで読める本格ミステリーだ。
ページ数 | 310ページ |
『学ばない探偵たちの学園』
田村麻悠
鯉ヶ窪学園シリーズ第1弾。東京都国分寺市にある閑静な住宅街、恋ヶ窪にある鯉ヶ窪学園を舞台にした学園「本格」ミステリーである。
他の作品以上にギャグ色強めで、漫才を見ているような気分を味わえる。野球ネタ満載、キャラクターの名前は関東在住者には馴染みのものばかり。ミステリー以外の要素もふんだんに盛り込まれている。
転校生・赤坂通が騙されて入部した探偵部。「探偵小説を読み、議論する」のではなく、自分たちが探偵になってしまう、奇想天外な部活である。
探偵部に所属する3人組のコメディのようなやりとりが魅力。特に、部長・多摩川と副部長・八橋の「本格」に対するこだわりは並々ならないものがある。
校内で起こった密室殺人。学園の芸能クラスに在籍するアイドルの失踪。探偵部員だけでなく、個性派揃いの教師たちが事件を引っ掻きまわしていく!
果たして、探偵部はどんな推理を繰り広げるのか。
ページ数 | 311ページ |
『放課後はミステリーとともに』
田村麻悠
鯉ヶ窪学園シリーズの2冊『学ばない探偵たちの学園』『殺意は必ず三度ある』の番外編であり、短編連作の形を取っている。ラジオドラマ化、テレビドラマ化もされた。
主人公は野球好き、特に広島カープの熱烈ファンである高校生・霧ヶ峰涼。エアコンを彷彿とさせるキャラクターが続々と登場する。
舞台は鯉ヶ峰学園だが、前述のシリーズ2作の3人トリオはこの作品には登場しない。
この作品は、「冒頭の一作目から読んでください」との注意書きがされている。読み進めていくうちに理由がわかる。わざわざ注意書きがある理由にも納得である。
この作品には、騙される読者が続出している。あなたは、騙されずに読むことができるだろうか。
ページ数 | 272ページ |
メデイア化 | ドラマ化 |
『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』
田村麻悠
魔法使いマリィシリーズの第1作目。ミステリーと魔法使い。全く交わることのなさそうな、異色のコラボが楽しめる。
この作品に、名探偵はいない。いるのは、「天然で変態だけど真面目な刑事」「竹箒を持ち三つ編みを揺らす、魔法使いらしい魔法使い」「簡単な難事件を任される、微妙なお年頃の美人刑事」である。
ミステリー作品に美人刑事が出てくると、頭の切れる冷静なキャラクターを思い起こす読者もいるだろうが、その先入観は見事に打ち砕かれる。
この作品は、犯人目線と刑事視点の両方から楽しめるのが特徴だ。犯人もトリックも動機も、読者は知っている状態で物語が進んでいく。
魔法と事件がどう関わるのか。どうやって刑事と魔法使いが犯人にアプローチしていくか。ぜひ手にとって確かめて欲しい。
ページ数 | 322ページ |
シリーズ | 魔法使いマリィシリーズ現在4巻 |
『ライオンの棲む街〜平塚おんな探偵の事件簿1〜』
田村麻悠
平塚おんな探偵の事件簿シリーズの第1作目。その名の通り、舞台は神奈川県平塚市で、実在のローカル地名のオンパレード。平塚に住んだ経験のある人は、実際の場所を思い出してニヤニヤしてしまいそう。
平塚では、街の真ん中にライオンが棲んでいるのか?もちろん、棲んでいるのは猫科の猛獣のライオンではない。いるのはライオンのような破天荒な女探偵・エルザである。
東京で夢破れて地元に戻ってきたワトソン役・天然ボケ炸裂美伽との迷探偵コンビは流石だ。東川作品らしいボケ炸裂と、語り手のツッコミのおかげで笑いが込み上げてくる。
「推理小説」というよりも、「探偵アクション小説」と呼ぶのが相応しい作品である。キャラクターの個性が全面に押し出されている。
1話完結型の短編連作なので、気軽に読める作品だ。
ページ数 | 362ページ |
シリーズ | 平塚おんな探偵の事件簿シリーズ現在3巻 |
『探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて』
田村麻悠
探偵少女アリサの事件簿シリーズの第1作目。2017年にドラマ化されているので、映像作品を先に見た人もいるだろう。
今まで世に出てきた探偵のイメージは見事に覆される。なにせ、今回の探偵は小学生の少女なのだ。
国内の怪しげな事件ばかり扱う父と、世界中を飛び回っている母という探偵両親の元に生まれたアリサ。もう、探偵以外になりようのない環境に育っている。
不思議の国のアリスを思わせるファッションセンスをイメージしながら読むのも、彼女の魅力を加速させる。
相棒は、オイルサーディンの大量の誤発注のせいで都心のスーパーをクビになり、泣く泣くなんでも屋を始めた31歳独身の橘良太。
泣き虫ながら犯人にドロップキックをお見舞いするようなアリサと、憎めない性格のヘタレワトソン・橘良太の凸凹コンビが織り成すユーモアミステリー。
東川作品らしく随所に小ネタが散りばめられているので、探しながら読んでも楽しめるのではないだろうか。
ページ数 | 332ページ |
シリーズ | 探偵少女アリサの事件簿シリーズ現在2巻 |
メデイア化 | ドラマ化 |
『かがやき荘西荻窪探偵局』
田村麻悠
西荻窪のシェアハウスで共同生活を送る、お金のないアラサートリオ、葵・美緒・礼菜は、滞納中の家賃の支払いの代わりに探偵として謎解きをする。
上から目線の探偵役、方言破天荒キャラ、コスプレ敬語キャラと、3人のキャラが立っていて個性的。
読み進めるほどキャラの良さが伝わってくる、噛めば噛むほど味が出るスルメ又はさきイカのようなトリオである。
トリックや事件もさることながら、ストーリーそのものを楽しめるユーモアミステリー。西荻窪在住者や、アラサー年代の女性には特におすすめしたい作品だ。
ページ数 | 414ページ |
『谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題』
田村麻悠
読後には居酒屋でビールやハイボールを片手に鰯料理「鰯のなめろう」と「鰯のつみれ」を食べたくなる、そんな作品。
谷中商店街の路地裏を舞台に繰り広げられる事件たち。自意識過剰気味な女子大生と、怪しい開運グッズを販売するお店の店長がタッグを組んで事件を解決していく。
お店の紹介の仕方がユニークで、笑いを抑えられなくなる。名探偵こそ登場しないが、自己肯定感の高い迷探偵、兼、女子大生と、散歩をしながら情報を集めて答えを導く閃きの天才ならば出てくる。
2人が手を組んで、どのように事件を解決していくのか。どうして鰯料理を食べたくなるのか。ご自身の目で確かめてみてほしい。
ページ数 | 280ページ |
おわりに
軽い読後感と随所に散りばめられたユーモア、そして言葉遊びのセンス。
しかし、ちゃんとトリックやロジックが作り込まれた本格ミステリーが東川作品共通の特徴である。
ミステリーの域を飛び越えて、ギャグやコメディとしての要素も多く、映像を頭の中に浮かべながら読むことができる。
疲れている時や、笑いたい時に読みたくなる愛すべき作品。深く考えず、気楽な気持ちになりたい人はぜひ読んでみてほしい。
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