書店に並ぶカスヤナガトさんのイラストが描かれたカバーを見て私は思わずこう呟きました。
「お帰りなさい」と。
シリーズのエピソード0である『神様のカルテ0』から4年、『本を守ろうとする猫の話』から2年ぶり、夏川草介さんの最新作『新章 神様のカルテ』が出版されました!
長野県松本市を舞台に彼はまたひたむきに、真面目に、患者と向き合っていました。
あらすじ・内容紹介
『神様のカルテ3』で本庄病院を離れ大学病院で働くことを決めた主人公・栗原一止。
話はその2年後から始まります。
その間に一止と妻・榛名の間には娘の小春が誕生していました。
大学病院で9年目の内科医、そして大学院に通学する学生として、一止の日常は過ぎていきます。
大学病院では第四内科第三班、通称「栗原班」として、救急部での当直では遺憾なく「引きの栗原」を発揮する日々です。
そんなある日、同じく大学病院の外科にいる旧友・砂山次郎からある患者を紹介されます。
名前は二木美桜、29歳、7歳の娘さんがいる母親でした。
外科での診断は進行性の膵癌で、その確定診断のために内視鏡検査を行った患者でした。
体力のある若い患者、だから強い抗がん剤で治療を始めます。
しかし思ったように治療は進まず、癌の転移も見られるようになります。
1度は自宅に戻ったものの、容態が急変します。
すぐに病院に来て、治療をしなければ命に関わります。
しかし二木さんは来院拒否をします。
「どうせ助からないのなら、私はずっとここにいます。」
本庄病院で患者と向き合い続けた一止は大学病院でどのように患者と向き合うのでしょうか。
今回も涙が溢れる作品です。
『新章 神様のカルテ』の感想(ネタバレ)
生きることは権利?
『神様のカルテ』シリーズには必ず、強く刺さる言葉があります。
どんな言葉が刺さるか、それは人ぞれぞれです。
私が今回刺さった言葉は二木さんに言った一止の言葉でした。
生きることは権利ではない、義務です。
むちゃくちゃだと思います。
でもその通りであるとも思います。
生きることは権利です。
それは誰も侵すことはできません。
同時に生きることは義務です。
たとえ治る見込みがなくても、残り数ヶ月の命でも、生きることは義務だと言います。
時々、この世は生きにくくて投げ出してしまいたい時もあります。
でも、生きることは生まれてきた以上権利であり、義務です。
そう考えたら簡単に投げ出すことはできない気がします。
人生をどこで、どう終えたいか
人はいつか死にます。
二木さんはその時期が人より少し早く来てしまいました。
癌の転移が分かってもなお彼女が願ったことは「自宅に帰ること」でした。
住み慣れた、大切な家族と過ごした家で死にたい、病院に閉じ込められるのは嫌だ、と。
一度は入院して治療をしていた一止も患者の思いを汲み、退院し自宅療養という形式をとろうとします。
しかし、ソーシャルワーカーや訪問看護師などの職種が反対します。
「旦那さんが不安がっているから」「彼女が冷静じゃないから」。
そんな意見に対して一止はこう言います。
「そんなの当たり前だ」と。
幼い娘がいるのに癌になった母親が冷静なわけがないし、癌になった妻がいる夫が不安でないわけがないだろう、と彼は言います。
医師側も介護側も不安です。
ですがこれが我々の仕事だと彼は言い切ります。
自宅で誰かを看取る、というのはとても覚悟がいることです。
それまでの介護、急変したときの対応、たくさんの不安があります。
簡単に決めることは出来ないでしょう。
でも優先されるべきは患者の意志であって、医療関係者側の都合ではないはずです。
そのことを伝えてくれている気がします。
大学病院という場所
大学病院とは不思議な場所だと思います。
たくさんの医師がいて、多くのベッドがあって、患者がいます。
医学部を卒業してすぐに本庄病院に就職した一止にとっては不思議に思う仕組みもあるでしょう。
実際、医局の仕組みに毒を吐くシーンは多いです。
目の前にいるたった1人入院させることが出来ない、往診するために許可を得るために3日はかかる、など一止にとってみても、また医療関係者ではない私にとっても不思議に思います。
しかし一止は言います。
ここは普通の病院ではない。
(中略)
知識も技術も、そして人も、ここでは尋常でない密度を保ち。特別な体制を維持している。
その大学病院であっても1番にするべきなのはルールでもガイドラインでもなく患者なのだと、言います。
特別な病院であっても、病院は患者のためにあるべきです。
不安でも、でも大丈夫だと言うのが彼らの仕事です。
大学病院の医局にも彼のように「真面目」な医師がいるというのは希望なのではないでしょうか?
まとめ
「生きにくい」と嘆きたくなる日もあります。
でもきっと大丈夫です。
何が大丈夫か分からないけど、でもきっと大丈夫です。
明日も生きていこう、そう思える作品です。
ぜひ手に取ってみてください。
主題歌:ヨルシカ/藍二乗
すごく悩みました。
でもやっぱりこの歌詞の一言に惹かれました。
ヨルシカの「藍二乗」です。
曲中の「人生の価値は終わり方だろうから」という言葉。
後ろ向きな言葉にも聞こえます。
でも裏を返せば、どんなことがあっても幸せな最期を迎えられたら、これ以上ない素敵な人生と言えるのではないでしょうか。
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