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『西の魔女が死んだ』梨木香歩【思春期の心の成長を描いた傑作】

 

ReaJoyライターReikoの記事へようこそ。

今回私が紹介するのは『西の魔女が死んだ』という作品。これは梨木香歩の代表作であり、2008年に実写映画化もされた傑作。

1994年に児童文学として出版されて以来、多くの人を魅了してきた物語。児童書、またはYA(ヤングアダルト)文学なので対象年齢は小学校高学年から中学生であるが、侮ることなかれ、大人が読んでも響く、いや、大人だからこそ作者の伝えたいことがダイレクトに理解できるのかもしれない。

ジャンルとタイトルからものすごくメルヘンチックなイメージを持たれるかもしれないが、誰もが経験したであろう思春期の、どうにもコントロールできない心の襞に自分を重ねてしまう、とてもリアルな物語だ。

個人的に、思春期の娘をもつ父親にも読んで欲しい。

あらすじ

心と身体に問題を抱え学校に通えなくなってしまった中学1年のまいは、しばらくの間、親元を離れ田舎の祖母の家に預けられることになった。

イギリスから日本に嫁いだ祖母は、祖父亡き後もひとりで鶏を育て、野菜を作りながら生活していた。

ある日、祖母はまいに不思議な話をしはじめ、うちの家系は代々魔女の素質があるのだということを教える。

まいは祖母の指導のもと、さっそく魔女修行を始めるが、たびたびまいの生活に入り込んでくる近所のゲンジという男に、どうしようもなく精神をかき乱される。

注意

以外、ネタバレ注意です

西の魔女が死んだの感想(ネタバレ)

思春期の心の成長

きっとほとんどの人が思春期の不安定な精神状態を経験するものだけど、思春期真っ只中の子たちって、今現在の自分の心の中がどうなってるのか客観視できないと思う。

自分で自分の気持ちを説明できない、何が不満なのか、イライラしてしまってどうしても感情をコントロールできない、頭では理不尽だとわかっていてもつい言動に出てしまう。

私もそうだったし他の大人もたぶんそうだった。

『西の魔女が死んだ』の主人公まいは、まさに思春期真っ只中の中学1年生。

クラスメイトと上手くいかず、喘息の持病もあって不登校になり、親の何気ない一言に深く傷ついてしまう。

学校に行かないという選択をしたまい。だけど、それは一時的なもので、いつかは社会に出ていかなければならない。彼女はちゃんとそれも理解している。

そうだ、これはエスケープだ、わたしは、またいつかあの世界に戻っていかなければならないのだ、と、まいは知っていた。

大好きなおばあちゃんとの生活に現れたゲンジさん。

思春期の女の子が嫌う容姿にデリカリーのなさ。思春期じゃなくても嫌厭してしまいそうな人物ではあるけど、この年齢ぐらいって身近な異性を警戒して攻撃的になってしまうものだ。

まいのゲンジさんに対する態度は本人はどうしようもないんだと思う。

思春期と、人付き合いの不器用な異性は最悪の相性だ。もし、家庭内や身近に思春期の異性がいるなら、余計なことをせず、なるべく接触を避けて時が過ぎるのを待つのが平和だと思う。

おばあちゃんが亡くなったとき、まいが普通にゲンジさんと会話できたのは、2年という月日がまいを成長させたから。

梨木香歩のいう「魔女」とは

魔女というと、大抵の人はとんがり帽子に箒で空を飛ぶお婆さんのイラストを想像するかもしれない。

『西の魔女が死んだ』の「魔女」はそういういかにもなおとぎ話の魔女とは違う。

本来、歴史の中で魔女と呼ばれた人たちは、薬草の知識を使って人を癒し、天候や自然のサインを読みとって作物を育て、時には産婆や占い師として人々から慕われた賢い人(ワイズマン)だった。

宗教的な弾圧の末に多くの人が亡くなり悪いイメージをつけられてしまったけど、梨木香歩は正しい意味での魔女を描いてくれた。

かと言って全くファンタジー色がないわけじゃなく、いわゆる第6感の延長線上に魔女特有の力があるというような描き方をしている。

誰でも少しくらいは経験があると思うけど、虫の知らせとかインスピレーションとか正夢。そういったちょっと不思議な感覚とか直感に敏感でいるのも魔女の力なのだ。

おばあちゃんがまいに課した魔女修行は、「自分で決める」というものだった。

起きる時間、寝る時間、一日のスケジュールを決めて実行する。これは簡単なようでいちばん難しいこと。大人になってからの方がより難しく感じる。

学生のうちは時間割でこなせていたことが、大人になってある程度フリーになると、まるで時間泥棒に時間を盗まれたみたい。毎日決まった量の睡眠をとり、部屋を綺麗に保ち、健康的な食生活をする。これは本当に修行だと思う。

魔法の言葉「アイ・ノウ」

おばあちゃんがまいに掛けてくれる魔法の言葉。

「アイ・ノウ(I know )」は全てを受け入れて理解していますよという、まいにはいちばん欲しい言葉だと思う。

よく、自己肯定感の高い子どもは、もし何か辛いことがあっても自殺まで至らずに立ち直れると聞く。

まいがまた学校に戻って行けたのは、おばあちゃんが何度もこの言葉を掛けてくれたからだと思う。

『西の魔女が死んだ』にはいろんな名言があるけど、おばあちゃんの言葉は今現在、悩んで迷っている人たちを優しく包み込む力がある。

闘って抵抗するだけが正しい道じゃないんだと。

「自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」

西の魔女から東の魔女へ

人の魂は死んだらどうなるの?と問うまいに、おばあちゃんは、死んだら魂が抜けだした証拠を見せてあげると約束する。

この物語のクライマックス、ページをめくって現れるメッセージに泣けずにいられるだろうか。

1ページ丸々使った演出に、それを発見したまいの驚きが伝わってきて泣ける。

このメッセージにまいが気付けたのは、まいがずっと魔女修行を続けていたから。

新潮文庫に併録された『渡りの一日』に、成長したまいが、自分で決めたことは必ず実行する人間だという一面が描かれている。

どうやら、おばあちゃんの魔女の遺伝子はしっかり、まいに受け継がれているようだ。

まとめ

私が司書になったばかりの頃、『西の魔女が死んだ』は女の子に大人気の作品だった。

庭のハーブを摘んでサンドイッチやハーブティーにしたり、洗ったシーツをラベンダーの茂みに干して香りを移したり、ワイルドストロベリーでジャムを作ったり…。女子の大好きな要素がたくさん詰まった物語だから当然!

日本のハーブブームにも貢献してると思う。

当時はまだ花屋さんで見かけるのはミントやゼラニウムなどで種類が少なかったけど、今はちょっと変わった種類のハーブも増えた。

この物語は思春期の少女の心の成長を描いたものなので、物語のはじめと終わりでまいの成長がわかる。

サンドイッチに挟んだピリッと辛いキンレンカの葉もそのひとつ。

単行本が出版されてからもう25年。新刊で読んだ人たちも、もう思春期の子どもの親になってるかも。

初読時とはまた違う立場で再読するのもいいものだ。

主題歌:Grace VanderWaal/Over the Rainbow (虹の彼方に)

『西の魔女が死んだ』は、梨木香歩が『オズの魔法使い』から着想を得たそうなのでこの曲を選んだ。

グレース・ヴァンダーウォールは15歳(ちょうどまいと同じぐらい)という年齢に個性的なハスキーボイスが魅力的なアーティスト。

ウクレレの軽快な音色とリズムが、物語のポジティブなメッセージを引き立ててくれると思う。

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