伊坂幸太郎『シーソーモンスター』を紹介します。
この小説は中央公論新社130周年記念の文芸誌で行われた競作企画で生まれた小説です。
八組の小説家たちが原始時代から未来までのそれぞれの時代の物語を書くことになり、伊坂幸太郎さんは、
- 「昭和バブル期」の物語『シーソーモンスター』
- 「近未来」の物語『スピンモンスター』
この2つの物語を書きあげました。
各作品に通底するキーワードは「人と人との対立」!
今までにない新しい取り組みから生まれた「人と人との対立」の先にあるものを描く物語です。
伊坂幸太郎さんの描く魅力的な人物達の躍動がたまりません!
目次
あらすじ・内容紹介
どちらの物語も出会ってはいけない二人が出会い、暴走するように物語が展開していきます。
『シーソーモンスター』は昭和バブル期の物語です。
運命的にそりが合わない嫁姑の争いと板挟みになっている夫の話です。
ただの家庭内の不和を描いた作品ではなく、嫁姑の表とも裏とも言えない顔が絡みに絡んで夫が巻き込まれていく出来事が想定外の展開で描かれています。
『スピンモンスター』は近未来の話です。
配達人の「僕」は意識しないわけにはいかない過去と人間がいます。
ある天才エンジニアが遺した手紙を握りしめ、そんな配達人と天才エンジニアの旧友が見えない敵の暴走を前に奮闘する話です。
シーソーモンスターの感想(ネタバレ)
シーソーモンスターの魅力
相手を見れば自分の感情のコントロールが効かないくらい対立する嫁と姑。
壮絶な嫁姑問題の間に立つ「私」の姿だけでも面白いのですがただの家族問題を描いた物語ではありません。
商売相手である若医院長の不正に気付き事件に巻き込まれる私。
そこに実はかつて裏組織で働いていた嫁姑が絡んでいく展開。
激しいアクションが随所に見られてしばしばユーモアのある会話が交わされます。
激しく対立している嫁姑が「私」を救うために活躍する場面はまさに、
すっきり!
この予想もつかない展開の中で胸をすくような終わりがあることが楽しくて読むのを止められず大満足の物語でした。
また昭和バブル期という時代設定は今でもよくメディアでも取り上げられる世界です。
大量にお金が回っていて接待の内容も派手!
たかだか30年弱しか経っていないのに本当に「今」と繋がっているのがピンとこない世界。
平成が終わる今のタイミングでなおさら時代背景についても興味深く読めました。
スピンモンスターの魅力
スピンモンスターは近未来の話です。
2つの物語はまるで違う話に見えます。
「スピンモンスター」で対立する水戸と桧山の過去は重いです。
巻き込まれる事件も考えさせらるようなことばかりでした。
発達したAIについてや操作された情報に踊らされる人々の姿は今まさに私達の世界にも見え隠れしているトピックですよね。
私達の生きている世界の先に広がっていくかもしれないこんな世界について時々考えながら読み進めました。
それにしてもすごい世界観です。
「新東京駅」など固有名詞もそうですが、「ジュロク」という新音楽ジャンルだったりデジタル化を越えてデジタルとアナログをあえて融合している社会だったり、本当にこれからありそうでわくわくしてしまう世界観を感じました。
また「シーソーモンスター」からの繋がりを感じる場面は最高に面白いです。
「シーソーモンスター」で登場した嫁姑共作の「アイムマイマイ」という絵本が「スピンモンスター」で登場する度に「知ってる、知ってる」と笑みがこぼれてしまいます。
実際に宮子さんが物語に登場した時にはまるでライブでアーティストが暗闇の中から登場するがごとく熱狂しました。
宮子さん、最高ですね!
たくさんの面白さの要素と重めの噛み締めるように読み進めていく展開は「シーソーモンスター」とは違った意味で目が離せない魅力をまとっています。
海族と山族の対立という設定の魅力
両作品ともに海族と山族の対立という設定が通底してあります。
容姿で言うと「青い瞳」と「尖った大きな耳」ということになります。
そしてその対立を審判すると言う中立の立場まであります。
どこか不思議な設定です。
徹底的にぶつかる存在ではありますが、その対立の向こう側にある関係が浮かび上がります。
「シーソーモンスター」、「スピンモンスター」それぞれの物語を読んで感じることができました。
そんな読後の余韻はとても魅力的でした。
始めと終わりに綴られる「海と山の伝承「螺旋」より」という文章もぶつかり合う決まりの中で交わう瞬間が描かれています。
また、物語の中では「スピンモンスター」の終盤、中尊寺敦が桧山に話すセリフが胸に残っています。
「対立する者同士でも、相手のことを知ろうとすることはできる。いや、相手のことを知ろうとすることは大事なことだ。対立していると、相手のことは歪んでしか見えなくなるらしいからな。あの、おばあさんが言ってたように」
対立する存在はただのいがみ合う存在ではないのです。
そういう物語なのだと分かった瞬間に素敵な物語だったと思いました。
まとめ
「人と人との対立」というキーワードで「海族と山族の血筋をひく者同士はぶつかり合う運命にある」という設定で綴られた物語でした。
対立するという関係の先にある関係が「シーソーモンスター」にも「スピンモンスター」にも最後にはうっすらとではありますが感じることができて読後感もよかったです。
はらはらどきどきするアクションやユーモアのある会話、謎解きの面白さなど、読んでいる最中楽しくて仕方がありませんでした。
伊坂幸太郎さんの作品は「面白さ」が溢れています!
一気読みしてしまうほどの面白さを十分堪能できる作品でした。
主題歌:Mr.Children/シーソーゲーム~勇敢な恋の歌~
タイトルも似ていますがそれだけではありません。
世界中の誰もが 業の深い生命体
過ちを繰り返す人生ゲーム シーソーゲーム
(作詞:桜井和寿)
この歌詞が時代を渡って綴られる対立する者の物語と合って選びました。
『シーソーモンスター』で書かれていた対立しても相手のことを知ろうとすることが大切って、うまくいかない恋愛みたいと思ったことも選んだ理由の一つです。
この記事を読んだあなたにおすすめ!