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『家元探偵マスノくん ――県立桜花高校☆ぼっち部』笹生陽子【ぼっち×次期家元×謎=変わり種青春譚】

最初に目に飛び込んできたのは家元探偵という文字。

家元と言えば、華道やお茶などの、伝統文化な世界。
そこに探偵がくっついてるという事は、伝統的で文化的な、雅で優雅な謎が繰り広げられる物語なのかな、と思いタイトルを改めて見直して仰天。

『家元探偵マスノくん ――県立桜花高校☆ぼっち部

『ぼっち部』って……、なに!?

変わり種が大好きな私の性癖にビンビンと刺さるものがありました。
思わず手に取ってしまって読んでしまった、ティーンズ向け青春学園ミステリー小説の記事です!

あらすじ

県立桜花高校に通う女子高生チナツは、『ぼっち』だ。

理由は、単純に友達作りに乗り遅れたせい。他のクラスには中学からの友達がいるけど、向こうは最近は男の子同士の恋愛の妄想に青春を注いでる状態だ。

そんなぼっちの青春を謳歌している彼女の前に現れたのは、次期華道家元のマスノくん。

彼は、『探偵をしたい』という己の願いを叶える為に、活動の拠点として新しい部活動を作ろうとしている真っ最中だった。
そして、そんな彼の下には、彼と同じように様々な理由から『部活』という居場所を求めている三人のぼっちが集まっていた。

一人は『第二演劇部(非公認)』の一人部長、孤高の天才人、ユリヤ。
一人は『戦士部(非公認)』のサトシ――は仮名で、本名は『覇王丸豹牙』という龍族の最強刃の生まれ変わり?
そうして最後の一人は、学園内に籍を置く架空の生命体、人工知能の『HAL9000』ことスカイプ……?

なんじゃこりゃ!? なぼっち達と次期華道家元マスノくんに振り回されるチナツの、笑いで溢れる青春譚!

 

注意
以下、ネタバレ注意です

感想(ネタバレ)

なにを隠そう、キャラがひどい!

いやもう、あらすじの時点でボロボロ見えてしまっているかもしれませんが、キャラが本当にひどいのです。
そりゃあ、ぼっちになるわ、と本当思わされます。主人公を除くキャラが本当、もう余すところなくひどい。

 

第一ぼっち部員、ユリヤ。
演劇をやりたい。でも本気でプロを目指しているので、お遊び和気あいあいとやっている桜花高校の演劇部には入りたくない。だから新しい演劇部を作りたい。
が、プロ意識が強すぎるのか、人にとても厳しく、その口調もどこかお高くとまってしまっているところがあります。
しかも、困った事に見た目は本当に文句のつけようもない美人さんなので、その顔で厳しい事を言われると気迫がある。
チナツも、初めて出会った時は、思わずその高圧具合にやられてしまいます。

第二ぼっち部員、サトシ。
彼が己の宿命に気が付いたのは六歳の時。
太古の昔、この世界を支配していた龍族が備えていた最強の魔剣『覇王丸豹牙』、その刀身に宿っていた霊力が、彼の身体を媒介としてこの世に転生した。
彼は転生者として邪心を持った闇の集団に狙われるようになり、秘めたる力を封印しつつの隠遁戦士生活を送り続けている――。ちなみに、現世での『覇王丸豹牙』は、おもちゃのライトセーバーです。
要するに、文字通りの中二病男子高校生です。しかも彼も、ユリヤとはちょっと違う方向で我が強く、時々偉そうにチナツに話しかけてきます。

第三ぼっち部員、スカイプ。
彼? 彼女? 謎の架空の生命体&人口知能(らしい)。
ぼっち部の活動にも、いつもネット越しで参加。機械生まれなせいで(?)、周囲に友達がいない=ぼっち、な状態のようですが、はたして彼を一人のぼっちとして数えていいのか、どうなのか……。
けど、そんな謎の生体を除けば、部員の中では常識人な方で、ネットを活用できる環境のせいなのか、調べものがとても得意。部員達が疑問に感じた事に関しては、すぐにネットで調べてくれ、教えてくれたりします。優れもの(者/物)です。

 

あぁもう、皆本当に、ひどい程キャラが濃ゆい!
そもそもスカイプさんに関しては、アナタ人間として捉えていいんですか? と尋ねたくなる程です。

ぼっちな事を除けば、人間的な問題は特になしな平々凡々なチナツとは全く真反対の人々です。
そもそもチナツも今はぼっちだけど、中学までは普通に友達がいましたし、一応他クラスには中学からの友人だっています。

友達作りに乗り遅れた理由だって、入学式前日につまみ食いしたおかずで食あたりにあって、病院行きになったからだし、チナツの人間性に悪いところはありません。しいて悪いとこをあげるなら、つまみ食いした事ぐらいでしょうか。

哀れなぐらいに、普通に普通の普通な女子高生なのです。本当に。

しかし何よりも恐ろしいのは、こんな濃ゆすぎるメンバーをまとめるマスノくんの存在です。

 

ぼっち部部長、マスノ。
いけなば雪宝流次期家元という肩書きを持つ、花と謎を愛する男子高校生。
愛読書は、比留間ユキハル作『植物探偵』。名前の通り、植物(園芸)が好きな主人公が花にまつわる事件を相棒の猫と一緒に解いていくという、シリーズものの小説です。
そして、マスノくんが、花と同じぐらいに謎を愛するようになった理由の小説――、つまりはこのぼっち部の形成のきっかけを担う事になった小説です。

小説の影響を受けて、日常的な謎を探し求めながら毎日校内をうろついたり、部室にて依頼がくるのを待ったりするマスノくん。
ここだけ書くと、凄く奇行的な怪しい男子高校生に見えますが、しかしその性格は温厚そのものな男子高生。

口調の厳しいユリヤさんとは真反対にその口調は物腰柔らかだし、
中二病でわけのわからない設定を口にするサトシくんと違って、わからない単語は逐一優しく丁寧に教えてくれるし、
スカイプさんのような謎の生命体を前にしても他の人となんら変わりない態度で接する広さの器量もあるし、

流石は、次期華道家元。普通の男子高校生とは、どこか一線を引いたおしとやかさがあります。

 

が、だからこそ、怖い!

 

おとしやかに見える彼だからこそ、謎を前に起こす突然の行動力は予想外なものが大半で、そのキャラ性のギャップには本当に驚かされます。

ゲームカードの詐欺にまつわる謎を前に、調査をしに向かったゲームカード店で店員さんに言いくるめられてカードを箱買いしてきちゃったり(ちなみにそのゲームカードは、部員の皆が遊びました)、
なくなった鞄を見つける為に街へ調査に向かった先で、普通に廃屋と化した場所に乗り込んで夕暮れまで探し続けたり(ちなみに鞄は見つかりませんでした。)、
ようやく探偵としての推理力を発揮したかと思えばそれは探偵ゲームの中での出来事だったり(ちなみにこちらのゲームも、カード同様やはり部員の皆で遊びました)……。

まったく、家元探偵とはなんだったのか。驚かされてばかりです。

彼の普通の男子高校生からは想像できない世界で育ったが為に培われてしまった芸術的な頭を用いて行われる、数々の行動&推理は本当に読んでいるこっちの目が遠くを見てしまう程のものです。
チナツの事を考えると、本当に哀れな気持ちになります。

 

ですが! 人間というのは、普通じゃない事には思わず惹かれてしまう生き物でもあります。

 

マスノくんのような普通じゃない男子高校生が謎を追いかけるとなれば、思わず興味をもってしまうものです。
気がつけば、皆が彼の持つ独特な空気に巻き込まれ、共に謎を解決していく事になります。

もちろん、そこに通常の青春譚にあるような『和気あいあい』はないし、『一致団結』もありません。
けどそれでも、一個の謎をマスノくんという人物を中心に追いかけるさまは、青春の二文字以外当てはまるものがないのもまた事実。

通常の青春もののような、主人公の人間的な成長もないし、夢だ将来だなんて重たいテーマもないし、ぼっちだから友達を作ろうなんて奮闘もない。
けど、面白おかしいぐらいに、ちゃんと『青春』の二文字を駆け抜けている高校生達の姿がそこにはあるのです。

風変わりなぼっち青春もの×学園ミステリー。

それが、この『家元探偵マスノくん ――県立桜花高校☆ぼっち部』という小説の特徴であり、ひどい程に魅力的な部分なのです。

ひどい程に、面白い変わり種小説でした。

まとめ

ぼっちを題材にした青春ものって、今の世の中にはたくさんあると思います。

でもそのどれもが、ぼっちにまつわる苦悩だったり、ぼっちというものをどうにかしようと奮闘したりする物語だったりする事が大半だと思います。

その中で、こうもぼっちをぼっちのままにして、主人公成長をさせる事も、現在の環境をどうにかしようと奮闘させる事もなく進むこの小説は、青春だけではなく『ぼっち』が題材な小説の中でもまた風変わりに属する、いえもしかしたら新しいタイプの小説なのではないかと思います。

ぼっちだったり、ぼっちじゃないけど人間関係で悩んでたりするティーンズ達(もちろん、ティーンズ以外の方達も)へ。

ぜひこのひどく変わったキャラ達が出てくる変わり種小説を、一度読んでみてください。

主題歌:ネクライトーキー/こんがらがった!

五人組ロックバンド、ネクライトーキー。
2017年に活動を始め、今年で活動二年目を迎えるまだまだ新しい香りのするバンドさん。
が、ギターの『朝日廉(あさひれん)』は、別名義『石風呂』でボカロPをしていたり、
その朝日さんと共に別のバンドを行っているメンバーがいたり、
過去他のバンドで活動をしていた経験がある者もいたりと、
集まってるメンバーはそれなりの経歴を持つバンド玄人な方々だったりします。

そんな新人だけど玄人なバンドの楽曲を、主題歌にさせて頂きました。

『こんがらかった!』は、ポップで思わず飛び跳ねたくなるような、楽しいリズミカル具合が特徴の楽曲。
公式MV内でも、間奏のキーボードソロにて、メンバーの上半身と下半身を入れ替えさせながら皆にキーボードを弾いて貰う、というおちゃめで楽しくなっちゃう演出が行われたりと、楽曲MV共にわちゃわちゃごちゃごちゃと楽しく制作されている楽曲です。
ボーカルさんの声のかわいらしさもまた相まって、素敵可愛い。

が、そんな明るい印象とは真逆に、歌詞は根暗一直線なもの。

絡まった、こんがらがった!
ピントがずれきってるまんまの僕なら
「うまくやってるよ」なんて騙し騙しで
同窓会を避けて歩いていく

(作詞:朝日)

ピントがずれきってるまんま歩くとか、どう考えても危ないし、そんなんで「うまくやってるよ」なんて言われても不安にしかなりません。
しかも、同窓会を避けて歩いてるとか……。それもう完全に、人と関わり合いたくないって事じゃないか。

こんな明るく朗らかだけど根暗な、ぼっちソング。
この小説の主題歌にするしかないじゃないか!

曲名に記号が入ってるところも、この小説のタイトルと共通点っぽいし! 凄い、お似合いだ!(これこそ、本当に『ひどく』無理やりな理由ですね)

という事で、主題歌に選ばせて頂きました。
ぜひ、この本を読む時には、この楽曲と共に楽しんでいただければなと思います!

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