大人気児童書シリーズ『若おかみは小学生!』の作者による、新しい部活動小説が、この春ついに発売されました。
その名も『長浜高校水族館部!』
なんとこの小説、実在する部活動をモデルに描かれた、児童向けドキュメント小説とのこと。
部活で水族館? しかも高校で?
そんな驚きの先、広がっていたのは、みずみずしい程に‟一つのこと”に頑張る高校生たちの姿でした。
今回は、その感動を書評という形でご紹介させて頂きたいと思います。
あらすじ・内容紹介
愛媛県立長浜高校(ながはまこうこう)。
そこは、全国でもただ一つの部活『水族館部』が存在する学校。
月一の一般公開日には、その学校全体が水族館に! 魚とのふれあいや、ショーなどが行われ、地元の人達からも大人気だ。
魚に関する研究でも、世界で4位を取ったりと、素晴らしい成績にあふれる水族館部。
そんな水族館部に憧れて、部活に入った『井波あきら』。
けれど、相手は魚。自分達の思うように行くことは少ない。
さらには、問題を起こしてしまうのは魚たちだけではなく……。
事実を基に描かれる全国で“ただひとつの部活動小説”がここに誕生!
感想(ネタバレあり)
『愛媛県立長浜高校』について
まず初めに語りたいのは、この小説のタイトルともなっている『長浜高校』について。
冒頭でも少し語らせて頂いたが、実はこの学校、なんと本当の本当に実在する高校なのである。
『愛媛県立長浜高等学校』。
愛媛県大洲市にある公立高校で、通称は『長高(ながこう)』。
『肱川』と『伊予灘(瀬戸内海西部の海域の名前)』という、川と海に挟まれたこの水辺の学校は、全校の生徒をあわせても百何十人しかいないという、小さな学校だという。
しかし、そのこぢんまりさとは反対に、学校内には、なんとも素敵な学生達のパワーがつまっていたりする。
長高は、研究分野でひどく優秀な成績をのこしている高校なのだ。
本編やあとがきに書かれている情報を基にまとめると、『日本学生科学賞(中学生と高校生を対象とした科学コンクール。国内において、最も伝統と権威がある)』にていくたびもの高評価をえておるとのこと。
2014年、同コンクールにて、内閣総理大臣賞を受賞。
さらには『ISEF(インテル国際学生科学技術フェア)』にて動物科学部門優秀賞四等に。
調べたところISEFは世界75以上の国と地域の約700万人から選ばれた者達のみが参加できる、『科学のオリンピック』だそう。その中で、なんと長高の生徒が四位に入っているのだ!
さらに本編内には、秋篠宮さまが長高にご来訪なさるシーンがある。
秋篠宮さまといえば、今上天皇の弟であると同時に、研究者としても有名なお方。
私はナマズのご印象があったのですが、どうやら本編によると、鳥類や両生類の分野でもまた有名なご様子(勉強不足で申し訳ないです……)。
もちろん、これも事実を基に描かれたシーン。
そして秋篠宮さまが長高に訪れるきっかけになったものこそが、この小説の題材である『水族館部』なのです!
運営をするのはすべて生徒達自身! 『ながこう水族館』
『水族館部』の部活動でやるべきことは二つ。
一、校内で育てている、百五十種、約二千匹の海や川の生き物たちの世話をすること。
二、その彼らを、月に一度無料公開する場として、『ながこう水族館』を開くこと。
校内に二千匹もの生き物たちがいる時点で驚きですが、それを一般公開しているというその活動内容は、まさしく『水族館』!
しかも、当日の水族館の運営、一般のお客さんへのお魚の説明、それらも全て生徒達自身でやっているとのこと。
これを部活としてやっているというのだから、驚きなものです。
主人公のあきらも、そんな水族館部の活動に驚き、惹かれ、そして憧れて入部してきた生徒です。
彼は物語の冒頭で、この部の部長して登場しますが、しかし部長になっているからといって最初から、魚に凄く詳しく、なんでもできるすごい部長、というわけではありません。
魚という、人間とは形も性質も異なる生き物。
未だに解明できていない部分も多く存在し、この水族館内でも日々研究が行われていたりもするわけです。
そんな命を相手にして、自分の思い通りに行くことなど、数多くはないのは当然のこと。
さらにここは、あくまでも高校生が運営をする部活。
学生には、学生ならではの悩みや、人間関係というものが存在します。
それらが起こす問題だって当然ながらある。
自分達の力ではどうすることもできない事があったり、望んでいたものとは違う結末になってしまったり……。
どうしてうまくできないんだろうか、と自分で自分に絶望するようなことだって山ほどあります。
ただそれでも、彼らは命を扱う身として、そこで立ち止まるわけにはいかない。
彼らが立ち止まってしまったら、この学校内にいるたくさんの生き物達は、一瞬にしてその命を散らしてしまうのですから。
けどそれ以上に彼らには、それぞれの信念や、やりたいこと、そういったものがあって皆、この部に入部してきている。
そしてなにより、この水族館部が、魚が、好きだ。
だから、どんな問題が起きたとしても立ち止まらず、真摯にそれと向きあう。
そうして自分達なりの答えと解決方法を見つけていくのです。
あきらは、この小説用に作られた架空の人物ですが、モデルとなる生徒達は、実在し、ながこう水族館を運営し続けてきました。
そしてその運営の流れは止まることなく、今現在も続いております。
‟ただひとつ”の好きなものに対して、たくさんの悩みや壁にぶつかったりもしながらも、水族館部の生徒達は皆、各々に答えを出し、日々その活動に熱をいれ続けていることでしょう。
そんな学生達の熱い活動の一端に触れ、笑い、涙させられる、そんな一冊でした。
まとめ
最初にこの本と出会ったのは、図書館の新着図書コーナーを眺めていたときのこと。
令丈ヒロ子さんの新作ということで気になって手に取ってみたら、なんとも目を惹くタイトルに心躍った反面、実在する部活動の小説、と帯に書かれた情報に目が点になったのを覚えています。
『水族館部』なんて実在するんだ!? その驚きから、さらにわくわくと期待を抱えて読み進めてみれば、そこには思いもしないストーリー展開がいくつも待ち構えていました。
いくつもの予想外の出来事のくりかえしの部活動。
でもその大変な先に待ち受けているのは、素敵な光景。よかったと思える、いくつもの出来事達。
こんなみずみずしい部活のお話は、全国どこを探してもきっとこの一冊しか見つからない。
‟ただひとつ”の部活動小説、ぜひに一度手にとってみてください。
主題歌:PENGUIN RESEARCH/少年の僕へ
『水族館』と水の生き物を題材にする作品なので、水の生き物の名前がついているバンドから楽曲を選んでみました!
読み方は『ペンギンリサーチ』です。
アニメ『ゾイドワイルド』1クールめのEDに使用されている楽曲。
そのタイトル通り、かつて『少年』だった頃の自分へメッセージを送るような中身の曲となっています。
水族館部の活動は、決して憧れや好きという気持ちだけでやりきれるものではない。
どうしようもない事も、苦しい事も、悲しくなる事もある。大変じゃない時のことの方がきっと少ない。
それでも、「よかった」と心から思える光景だって、同じくらいにある筈だから。
そんな部活動という一つの青春への応援歌、それからそんな青春が作り出す、大事な経験と思い出への感謝を込めて。
この曲をこの本に贈らせて頂きます。
君が出会う「これから」はね
信じられない程に 楽しくて 悲しくて 素敵な旅になる
(作詞:堀江晶太)
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