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池井戸潤【ノーサイド・ゲーム】ラグビーW杯前に本で予習を!

南アフリカ戦勝利の歓喜から早4年。
2019年9月は、日本で初めてのラグビーW杯が開催されます。
現在、様々な媒体でラグビーが取り上げられていますが、中には
観戦はしたことないのみならず、ラグビーのルールを知らない方もいらっしゃるかと思います。
今回紹介したい池井戸潤さんの『ノーサイド・ゲーム』の主人公君嶋隼人も、突然社会人ラグビー部のゼネラル・マネージャーになったにもかかわらず、ラグビーをほとんど知りませんでした。
君嶋と同じ視線をたどりながら、”ラグビー”という競技やその奥深さを知ることが出来る。
それが『ノーサイド・ゲーム』なのです。
また、7月7日から大泉洋さん主演でドラマも放送されます。

あらすじ

トキワ自動車の経営戦略室 君嶋隼人は、敵対する常務の滝川が進めていたM&Aを阻止したところ、横浜工場総務部長へ左遷されてしまう。
しかも、横浜工場総務部長は、プラチナリーグに属する社会人ラグビーチームトキワアストロズのゼネラルマネージャーも兼ねていた。
かつては名門と呼ばれていたトキワアストロズであるが、近年は下位に沈み、滝川など一部から廃部論も出ている。
ラグビーは全く素人の君嶋は、時に壁に立ちはだかりながらも、名門復活へ奮闘する。

これだけは知ってほしいラグビー用語

イギリスを起源とする球技スポーツ。1チーム15人のメンバーが1つのボールをバックパスやキックで保持しながら前進させ、相手陣地のゴールラインを超える(=トライする)ことで得点を重ねていく。前にパスをしたり、ボールを落としたりすると反則になる。
「一人はみんなのために、みんなは一つの目的のために」という意味。一人が行うのではなく、チーム 一丸となり、トライを目指すことから、ラグビーの精神といわれる。

「試合終了」のこと。海外ではfull timeと呼ばれるため、和製英語である。試合終了の意味だけでなく、試合終了後は敵味方関係なく健闘をたたえることも含まれる
注意
ここからネタバレになります。

『ノーサイド・ゲーム』の感想

ラグビーのルールが分かる

冒頭で述べましたように、主人公君嶋もラグビーの知識は全くありませんでした。
途中ラグビー用語が出てくると
見事なオフロードパス―タックルされながらのパスである。
ストラクチャーとは、直訳すれば「構造」だ。これを転じてラグビーでは、スクラムやラインアウトといった、意図的に組み立てたサインプレーが通用する場面のことを指す。
のように、説明が加わっています。
また巻頭には、ポジションの説明もついています。
ルールが全く分からない方でも、読み進めることができます。

ラグビーを通じて企業スポーツが分かる

トキワ自動車アストロズの名前が指す通り、社会人ラグビーチームは、企業によって運営されています。

アストロズを例にとると、チームを運営するために、16億円-中小企業の年間売り上げに匹敵する額-が充てられています。その予算の内訳はトキワ自動車の社員である選手の人件費、環境整備費や遠征などの旅費交通費等である。

一方、収入はほとんどありません。

平均観客人数は3500人。しかし、実態は企業が多くを買い取っており、実際にチケットを買って見に来る人はわずか200人といいます。

この状況に対し、ラグビー界全体を束ねる日本蹴球協会は、何も改善しようとしないのです。

費用だけかけても、実際に見に来る方が少ない、つまり、ラグビーの人気が上がらないのです。

この状況に対し、長年の課題を放置していたラグビー界へ、君嶋は立ち上がるのです。

具体的には、選手の地域ボランティア参加やジュニア・チームの創設で、知名度を上げ、地域の人に観戦してもらう仕組みを作ることに着手します。

元々君嶋は、経営戦略室でM&A案件や事業戦略のシュミレーションを行っていたこともあり、費用やマーケティング分析の面から、アストロズの立て直しを図っていきます。この理由から、ラグビーという興行を経営面からも、詳しく読むことができます。

ラグビーの精神が分かる

ラグビーは、イングランドの貴族子弟が通うパブリックスクール、ラグビー校と言われています。これがラグビーが貴族のスポーツと言われるゆえんです。

さらにラグビーの精神は、経営者に大変好まれています。

トキワ自動車社長、島本博の言葉を借りて説明すると、

(One for alll, All for oneは)「ひとりはチームのために、チームはひとりのために――。素晴らしい言葉だろう。ラグビー選手は、チームのためにひたすら献身し、そしてチームも選手を見捨てない。組織とはそうあるべきだ。」

「ボールを奪い合う激しい試合も、一旦終了の笛が吹かれてしまえば、敵も味方もなくなる。つまり、ノーサイドとなるわけだ。そしてお互いの健闘をたたえ合う。崇高な精神だ。これぞ真のスポーツマンシップじゃないか。ここには、とにかくわれらが忘れがちな人間の尊さ、生き様があんじゃないだろうか」

利益を上げて、社会へ還元することを使命とする。その使命のために、企業は個性豊かな人間をまとめ、一つの目標に向かわないといけません。よって、ラグビーの精神は企業経営にマッチしているのです。

”ラグビー”と”企業経営”、親和するこの2つを同時に読むことができるのが、この『ノーサイド・ゲーム』なのです。

まとめ

君嶋のかつての敵であり、子会社社長へ左遷された滝川が、アストロズの試合を観戦し、君嶋へ語る場面があります。

最後には道を過たず、理に適ったものだけが残る。逆にいえば、道理を外れれば、いつしかしっぺ返しを食らう。自浄作用がなくなったとき、そのシステムは終わる。

(中略)

だが大きなところで、どんどん理不尽がまかり通る世界になっている。だからこそ、ラグビーというスポーツが必要なんだろう。『ノーサイド』の精神は日本ラグビーの御伽話かも知れないが、いまのこの世界にこそ、それが必要だと思わないか。もし日本が世界と互角に戦える強豪国になれば、きっとその尊い精神を世界に伝えられるだろう。

ルールに始まり、企業スポーツの在り方や、ラグビーの精神を見てきましたが、全てがこのセリフに凝縮されていると感じました。

また、ラグビーW杯が日本で開かれること。

これは大きなスポーツの祭典が開かれるという意味だけでなく、閉塞感が漂う日本社会へのメッセージなのかもしれません。

曲を合わせるなら

『ノーサイド・ゲーム』に曲を合わせるのなら、この曲しか思い浮かびませんでした。

松任谷由美さんの「ノーサイド」です。

ラグビー選手である彼を応援する人の想いが歌われています。

松任谷由美さんが歌っているため、歌詞に出てくる一人称の”私”は、女性のように感じてしまいますが、

決して女性に限定しているとは思いません。

多くの選手を送り出し、応援するゼネラルマネージャー君嶋に、この歌詞が合っていると感じました。

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