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『山猫珈琲』あらすじと感想【鼻血が出るほど何かを考えたことってありますか?】

山が好き。

猫が好き。

珈琲が好き。

原動力はこの三つ。

小説では見せない、湊かなえの「素」の顔がここにある

あらすじ

湊かなえ。代表作『告白』。

松たか子さん主演で映画化もされた作品を書いた売れっ子作家の日常、思い出、作家になったキッカケや物書きを目指す人へのメッセージなどが書かれている。

湊かなえの「十年間」が詰まったエッセイ集。

注意
以下、ネタバレ注意です。

『山猫珈琲』の感想(ネタバレ)

登山の描写にときめいた第一部

上下巻のエッセイなんて珍しいな、と思った。

エッセイが好きで、初めての作家さんの本(小説)を読むときは、その人がどんな考えを持っていて、作家としてどんな人生を送ってきたか、作家になる前はどんな生活をしてきたか、などが気になって先にエッセイを探して読むことが多い。

エッセイがシリーズになっていることはある(三浦しをんさんとか)けれど、上下巻のエッセイは初めて読んだ。

 

第一部は新聞へ寄稿したものが中心で、現在住んでいる淡路島のことや、大学生時代に入っていたサイクリング同好会のこと、大好きな登山のこと、作家の日常のことなどが語られている。

私は超がつくほどインドア派で、母に頼まれなきゃ買い物だって行かない。出かけるといえばおいしい珈琲を外に求めているときか、本をまとめ買いしたいがために本屋さんへ行くときぐらいだ(それすらAmazon頼みのこともある)。

なので、第一部を読んで仰天した。

こ、こんなにアウトドアな人が作家なの!?(作家のイメージって、ひたすらパソコンに向かっている絵が浮かんできません?)。

登山はするし、自転車で北海道周遊はするし、海外青年協力隊でトンガ王国に行ったりもする……。

もちろん、作家になって結婚し、お子さんができてからはほぼ登山だけになってしまっているようだけれど、いや、登山だけでも年齢を重ねてもやめない、ということに大きな拍手を送りたい。

歩くのが嫌いで、走るのなんてもっての外。近所のコンビニに行くときすら「運動になるでしょ」と思いつつも徒歩ではなく自転車を選ぶ(免許持ってないんですよ)。

外へ出ることを最小限にしたい私と、湊さんは正反対。

登山の魅力がたっぷり語られていたけれど、私は死んでも家から出たくない。

湊さんの登山の描写を読んで、思いを馳せることだけに留めようとする私は損してますか??

 

そんな私が「トクン……」と少女漫画のように胸が鳴った登山の描写はここ。

鳴門海峡から大阪湾までぐるりと見渡すことができます。

うん、ちょっとときめいた。

これは湊さんがおすすめする淡路島最高峰「諭鶴羽山(ゆづるはさん)」の頂上からの景色についての描写だ。

私は一応「海あり県」に住んではいるものの、その県のかなり内陸の方に住んでいるので、海は車で一時間ほど走らないと見ることができない。

海はそこまで好きじゃない。

むしろ海の底が怖くて、あんまり行きたいと思わない。

けれど湊さんのこの「大阪湾をぐるりと見渡すことができる」という文を読んで、周りを何も遮るものがない場所で海を「見下ろす」というのはどういう気分なのだろうと思った。

爽快なのだろうか。

それとも、広大な海を感じて「自分なんてちっぽけだ」と元気をもらえるのだろうか。

山にも海にも縁のない私は、湊さんの登山の描写を読んでやっぱりひたすら思いを馳せることにした。

お題はいろいろ、作家デビューにほろりとくる第二部、第三部

第二部は、印象的な本やコーヒーのこと、仲のいい作家仲間のこと、などなどお題はさまざま。

ごった煮のように湊さんの思いが綴られている。

訪れたいと願っていたトンガ王国に、偶然にも青年海外協力隊として赴任することになった部分は、タイトルのように「思いの強さが、チャンスを呼び込む」のだと強く感じた。

たしかに願っているだけではどうにもならない。

行動しなければ願いが実現するどころか、チャンスさえ掴むことすらできないだろう。

「思い続けること」ということの大切さ。

「思い続けて、そして行動する」ことの大切さ。

湊さんはそれらが自然にできていて、尊敬するしかない。

 

最後の第三部は、作家への道のりについて。

この物語がどこに行きつくのか知りたい。主人公の姿を追いかけているうちに同化してしまい、辛くて、苦しくて、涙が出てきました。そしてついには、鼻血がしたたり落ちてきたのです。

 鼻血が出るまで何かを必死に考えたことがあるだろうか。

そういえば、そもそも鼻血すら何年も出してない(いや、出ない方がいいんだけど)。

どうでもいいけれど、考え込み過ぎると鼻血が出るメカニズムをちょっと知りたい……。

 

おっと、脱線してしまった。

実は私も一時期、小説家を目指していたことがあった。

一時期というか結構長い間だ。

この夢はとうについえたのだけれど、やっぱり「その道」を目指していた身。

ここの部分は読んでいて正直辛かった。

私だって作家になりたかった。

でもなれなかった。でもこの人はなっている。誰かが毎年、作家としてデビューする。

読んでいる間ぐるぐるとしてしまった。

 

いや、でも、だ。

湊さんは鼻血が出るぐらい小説と向き合っていた。

お前はそこまで小説と、物語と向かったか??

恥ずかしい。

すごく恥ずかしくなってしまった。

お前、よく作家になりたいなんて言えたな。

鼻血が出るほど物語作りに向き合った湊さんの様子は、たとえその夢がついえた私でもほろりとくるものがあり、あぁ、湊さんはなるべくして作家になったのだな、と思った。

まとめ

実は湊さんの小説は一冊も読んだことがない(積ん読になっているのが二冊ほど……)。

というのも、読みたくてもどうしてもエッセイを先に読みたくて探していたら、これが初のエッセイ集と書いてあったから驚いた。

作家さんによるけれど、エッセイを書くのが嫌いな方もいて、湊さんも好きではないらしい。

それでも自分の十年間を凝縮したエッセイを出版してくれた湊さんに感謝するとともに、「やっと湊さんの小説を読める!」と嬉しくなった。

あ、ちなみに、どうしてもエッセイが読めない作家さんはちゃんと小説からでも読みますよ、と余談でした。

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