小さい頃、大好きだった物語のひとつに『不思議な国のアリス」があります。
可愛らしい格好をした少女が、不思議な世界の中で冒険をする。
その様子は、幼心にわくわくしてたまらなかったことを今でも覚えています。
そして、物語に登場する不思議な国の面白い住民たち。
「1度はそんな世界に行ってみたい!」と考えたことのある人もいるのではないでしょうか。
今回紹介する『三日月邸花図鑑 花の白のアリス』は、大人になった私自身が久しぶりにそんなわくわくした気持ちを思い出すきっかけになった作品です。
短編集のように章ごとに話が完結しているので、少しずつ読みすすめることも可能。
推理要素も交えてあるので、大人になった今、わくわくしたい人にもぜひおすすめしたい作品です。
あらすじ・内容紹介
舞台は、地元の名家である八重樫家の邸宅から始まります。
父が亡くなったことを機に、主人公の八重樫光一は実家に戻ることを決意。
「望城園」と呼ばれる大きな庭園を有する実家は、地元では「三日月邸」と呼ばれて親しまれています。
代々医者の家系であった八重樫家の中でも、光一は探偵業を営む少し変わった存在でした。
そんな光一に対し、文句の1つも言わなかった父。
しかし、彼はたった1つだけ奇妙な遺言を残してこの世を去っていたのです。
庭に誰も立ち入らないこと
広大な庭園の中には、手入れの行き届いたいくつもの草木と、二重の濠に囲まれた先にさらに庭園がありました。
まるで、庭の中に作られたもう1つの屋敷のような佇まい。
幼い頃から、この濠の先には決して立ち入らぬように言われていました。
奇妙な遺言の意味を勘ぐりつつ生活している光一。
彼の元に、突然真っ白いブラウスと真っ白のプリーツスカートをまとった見知らぬ少女が訪ねて来ます。
咲と名乗った少女は、「コーイチ」に探偵業の依頼がしたいと申し出ます。
そして、庭の濠の中にいる依頼人と話をして欲しいと頼み込んでくるのです。
彼女に手を引かれるがまま、光一は濠の中へと歩みを進めます。
そして、濠に囲まれた先にあった広大な城の敷地と、その住人たちに出会うことになるのでした。
『三日月邸花図鑑 花の城のアリス』の感想(ネタバレ)
花たちが息づく不思議な世界
主人公の光一が足を踏み入れた城の中では、たくさんの草木が人間の姿かたちとなって生活していました。
咲と名乗った少女も例外ではなく、
私は、野茨
と自己紹介します。
庭園の中に存在する城――梶坂城と咲が呼ぶ城は、庭園に植えられていた草木たちが息付く不思議な別世界だったのです。
人間であるはずの光一は、咲に何度となく梶坂城に連れられて行きます。
そして、その度に草木の住人たちの困りごとや探しものを解決するようになります。
解決したときの草木の住人たちの表情や反応も様々。
読んでいるこちらまで、解決していく度にほっとしてしまいます。
三日月邸に隠された秘密
様々な依頼を草木の住人たちから受ける都度、光一は三日月邸の歴史に触れることになります。
庭園の入り口にある祠の謎、過去に梶坂城に立ち入った庭師の事件。
地元の藩主の過去の跡取り騒動にまで、話は大きく広く発展していきます。
そして、最大の謎は咲という少女自身へと収束するのです。
コーイチ、早くわたしを見つけてね
光一のことを昔から知っている、という彼女。
彼女のいう「コーイチ」とは、光一ではなくその父である八重樫紘一のことでした。
父が死んだ今、咲がなぜ光一に会いに来て、数々の依頼をしていったのか。
そもそも三日月邸とは何のために作られ、どうして存在しているのか。
そしてなぜ、父である紘一は、庭に立ち入るなという遺言を残したのか。
全ての謎が一本の線に繋がったとき、光一がする選択とは。
クライマックスのシーンは、ぜひ本書を読んで確かめてみてほしいと思います。
光一の元にやってくる魅力的な登場人物
咲や草木の住人だけでなく、光一の元には様々な人が訪れます。
光一は庭の外で彼らの協力を得て、様々な依頼を解決していきます。
父の弟である叔父の周平。
彼は、地元の市役所の職員であり、郷土史の研究もしていたとのこと。
調査の際には、様々なアドバイスをくれる心強い味方です。
なにかと生活能力の低い光一に対し、食事なども作ってくれる優しい存在でもあります。
また、八重樫家と半ば敵対しているような牧家の人間である、牧実果子と牧数馬。
彼らは、八重樫家と牧家の敵対の理由を探るべく光一と共同で調査に乗り出すことに。
当初は棘のある態度でしたが、調査が進むにつれ互いに信頼できる協力者となっていくのです。
その他にも、過去に三日月邸に出入りしたことのある庭師や、昔から地元を知っている癖のある老婆など多くの人物が物語を彩っています。
まとめ
ファンタジー要素だけでなく、舞台の大きな謎も仕掛けになっていて一気に読めてしまう作品です。
不思議な世界観で、わくわくしたい方にはぜひ個人的にはおすすめしたい1冊。
また、ミステリーに触れてみたいけど難しいかも…と考えている人にも、ぜひ入門編として触れてみてもらいたい作品になっています。
書名の通り、物語の中にはたくさんの草木の名前が登場します。
ストーリーと併せて、可憐な植物たちに思いを馳せつつ読んでみるのも良いかもしれません。
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