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『歌集 滑走路』あらすじと感想【鳥のように瑞々しい感性が、窮屈な日常に勇気をもたらすベストセラー歌集】

『歌集 滑走路』書評記事のアイキャッチ画像

短歌と聞いて、思い描くのは何ですか?

詩とは少し異なります。

現代の短歌は俵万智さんを筆頭に、都会的で繊細な作品が主流です。

今回ご紹介する『歌集 滑走路』は、短歌としては異例のベストセラーです。

映画化もされました。

滑走路に収録されている短歌には、社会で生きてゆく難しさと、ささやかな喜びが歌われています。

ジャンルにとらわれることなく、葛藤と向き合った短歌に触れてみてください。

こんな人におすすめ!

  • 心が擦り切れて弱っている人
  • 会社に行くことが辛くてたまらない人
  • 繊細な詩人の言葉に魂を揺さぶられたい人
  • 何気ない日常にささやかな幸せを感じたい人

あらすじ・内容紹介

「空を飛ぶための翼になるはずさ ぼくの愛する三十一文字が」

「選歌され、撃ち落とされたる歌といふ鳥 それでも放つ」

「癒えることなきその傷が癒えるまで 癒えるその日を信じて生きよ」 

短歌を愛した詩人は、32歳という若さでこの世を去るまで、同調圧力と戦い続けた。

労働の過酷さにすり減り、恋にひたむきになり、せわしない日常のなかで暇を見つけては、詩集を読んで想像の世界へ翼を羽ばたかせる毎日。

詩人の透明でみずみずしい感性が胸を打つ。

現代社会の光と闇に向き合った、ベストセラー歌集。

『歌集 滑走路』の感想・特徴(ネタバレなし)

生きているだけで生傷が絶えないような現代社会

箱詰めの社会の底で潰された

蜜柑のごとき若者がいる

段ボールの中にぎっしり詰まった蜜柑。

なかには衝撃に耐えられず、潰れて腐ってしまうものもあります。

社会の中を箱に例えるなら、若者は蜜柑です。

一見異なるものですが、どちらも「衝撃に弱」く、取扱いに困るものです。

ふたつを同一化し、「潰される」と表現しているのです。

 

傷ついてしまったこころ

どぼどぼと見えぬ血液垂れているなり

心が、「どぼどぼ」と血を流している。

乱暴な言葉によって繊細な心に傷がつき、滝のような血を流している様子が想像できるでしょう。

目に見えない心の傷を表現するには、自分の気持ちに正直に向き合わなければなりません。

トラウマを思い返すことにつながりますし、痛みも伴います。

自分が受けた傷を分かってもらえるか考えた結果、秀逸な表現が生まれたのです。

 

非正規の友よ、負けるな

ぼくはただ書類の整理ばかりしている

荻原さんの視点は、常に他者へと向けられています。

毎日書類の整理ばかりしている自分のことよりも、まず友人を応援する姿に胸が打たれます。

同じ境遇に置かれた人の「負けるな」ほど、シンプルで心強いものはないでしょう。

友人に届いているかは不明ですが、勇気をもらえる一首です。

純粋でいるがゆえの肩身の狭さ

生きているより生き抜いている

心に雨の記憶を抱いて

生きることは、帳尻を合わせることです。

繊細な人は自分の感情を人に合わせることが難しく、すぐにストレスを感じてしまいます。

ときには嘘をついて、自分をごまかしながら生きてゆくほかありません。

心に雨の記憶を抱く。

メランコリーで詩的な表現です。

湿った雨の香りが立ち込めてくるようですね。

思い入れのある1日だったのでしょうか。

ささやかな日常かもしれません。

荻原さんにとって、過酷な日常を生き抜くための思い出なのでしょう。

 

理解者はひとりかふたり

でも理解者がいたことはしあわせだった

荻原さんは、理解者がいたことをしあわせ「だった」と過去形にしています。

現在形ではなく、過去形として終わらせるところが何とも切ないです。

短歌の中に出てくるライバル兼親友の詩人や、恋人のことでしょう。

彼にとって理解者とは、過去の思い出に過ぎなかったのでしょうか。

 

きみはいまだにぼくのこころが所有する

プールのなかを泳いでいるよ

ここでの「きみ」は、過去に出会った恋人のことでしょうか。

まだ気持ちを捨てきれず、心の中のプールに泳がせて忘れないようにしたいのでしょう。

心の中にあるプールという表現が、感傷的で甘美です。

 

ぼくたちはほのおを抱いて生きている

誰かのためのほのおであれ

炎とは、生きるための闘志のことです。

炎のようにめらめらと燃えながら、情熱を持って生きることで、誰かの心に火を灯す存在になれと語っているのでしょうか。

 

クロールのように未来へ手を伸ばせ

闇が僕らを追い越す前に

ここで注目したいのは、「僕ら」です。

「私」でも「ぼく」でもなく、「僕ら」。

自分を含めた不特定多数の僕らに忍び寄る、不穏な影を取り払えと言っています。

両手で水をかき上げて進むクロールのように、力強く未来へ手を伸ばさないと、未来はあっという間に闇に飲み込まれてしまいます。

私たちへの警告です。

三十一文字の鳥たちが託す激励

歌作とはこころの森に棲む

鳥の声音に耳を澄ますことなり

鳥は自由の象徴です。

なにかと制約の多い現代社会では、物事を考える暇さえ見つけることができません。

荻原さんは、そのような状況に置かれているからこそ自分と対話して、心の中の鳥の鳴き声に耳を澄ませ、想像の翼を広げることが大切だと訴えています。

 

歌という鳥を郵便ポストへと

投函をして放ちたるかな

印刷された言葉が鳥となって郵便ポストへ放たれる姿は、何とも抒情的です。

言葉は傷つきやすく、優しくて脆い心を持つ人が手にできる武器です。

彼は不条理な社会に抵抗し、懸命に戦い抜きました。

彼にとって短歌とは鳥であり、心の叫びを受け止めてくれる器であったのでしょう。

度重なる暴力から抗うための手段として、短歌を作り続けたのです。

一部の放たれた鳥たちは、誰かに届くことなく撃ち落とされてしまいます。

生き残ったものだけが読者へ届き、勇気や生きる活力をもたらします。

 

選歌され、撃ち落とされてしまいたる歌という鳥

それでも放つ

選歌とは、優れた歌だけを選りすぐることです。

歌集を作るにあたって、どうしても省かなくてはならない作品がいくつか出てきます。

どれも全力を込めて書いた大切な歌(鳥)ですが、本を作るためにはやむなく撃ち落とさなければなりません。

断腸の思いが込められた一首です。

 

きみのため用意されたる滑走路

きみは翼を手にすればいい

滑走路とは、飛行機が離陸と着陸をするために設けられた、舗装された通路です。

また、陸と空をつなぐための場所で、ここがなければ飛行機は飛び立てません。

翼を手にして滑走路を駆けあがれば、大空を牛耳ることができるでしょう。

誰の前にも滑走路は開けていて、翼(情熱)さえ持っていれば自由に空を飛べるのです。

私たちすべてに設けられた権利です。

まとめ

残念ながら、彼は32歳という若さでこの世を去ってしまいます。

もっと生きたかったはずです。

やりたいこともあったでしょう。

しかし、心は深く痛み、抱えきれないほど傷を受けてしまいました。

想像すると胸が詰まります。

 

希望が無くなった訳ではありません。

彼は大切なものを遺してくれました。

いじめや職場からの迫害を受け、耐え難い苦しみを味わい、八方ふさがりの状況に追い詰められても、心は自由に羽ばたかせられるということ。

希望を捨てたのではなく、精一杯生きようと試行錯誤を重ねていたのです。

 

1人の青年の姿を忘れないでください。

光を目指し、懸命に羽ばたかせていた命を愛しましょう。

彼の心から解き放たれた三十一文字の鳥たちが、傷ついたあなたの心に響きますように。

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