【存在意義と、記憶から溢れだす「ドラえもん」】『凍りのくじら』辻村深月(🎵[Alexandros]『city』)

この本の評価
読みやすさ
(4.0)
面白さ
(4.5)
装丁の美しさ
(4.5)
ドラえもん度
(5.0)
考えさせられる度
(5.0)
総合評価
(5.0)

みなさん、こんにちは。

誰からも存在を認識されない、誰からも自分を分かってもらえないということはありませんか?

今回は、そういった自分の存在意義に苦しむ、一人の女性が主人公の小説をご紹介します。

彼女が唯一信じていたものは、「ドラえもん」でした。

辻村深月さんの「凍りのくじら」は、そんな氷漬けで冷え切ってしまった心を溶かすような、優しさに溢れた一冊です。

あらすじ

主人公は芦沢理帆子(あしざわ・りほこ)という女性です。

少し生意気な性格で、みんなに自分を合わせながらも、心の奥にある本音を打ち明けることができないで、窮屈な生活を送っています。

カメラマンである彼女の父親は、失踪してしまい行方不明です。母親も体調を崩して、末期のがんになってしまいました。

誰にも相談することができず、一人本音を隠し続けたまま生活する彼女のもとに、別所あきらという見知らぬ青年が、「写真のモデルにならないか?」と話を持ちかけます。

彼との関わり合いによって、彼女は少しずつ心を開き、変化していきますが…。

彼女の趣味:「少し・ナントカ」

彼女の趣味は、人にSF(少し・ナントカ)という、レッテル貼りをすることです。

例えば、自分自身には「少し・不在」、という風にです。はっきり言って、良い性格とは思えません

その他にも「少し・不揃い」「少し・不健康」「少し・不安」と(勝手に)付け足してゆきます。

そんなろくでもないレッテルを貼り続ける彼女でも、ただ一人、別所にだけはこの「少し・ナントカを付けることができませんでした。

ミステリアスな彼のことをもっと知りたい

彼女が別所に興味を湧かせた、ひとつの理由でもあります。

若尾という男

理帆子の元彼の若尾大紀

見た目は爽やかなのですが、いかんせん性格がよくありません

努力をするのを嫌い人を見下すことでしか自己を正当化できないという、どうしようもないダメ男です。

そんな彼を心の中では憐れみつつも、なぜかずるずると引きずってしまって、なかなか捨てられないのが、理帆子の欠点でしょう。

そんな彼女の弱い部分が、後々に大きな事件を引き起こすこととなるのですが、ネタバレになるので詳しくは語らないでおきます。

郁也との出会い

電車の中で、彼女はある一人の男の子と出会います。

彼の名前は松永郁也。

子猫のような外見をした、松永氏の私生児です。

そのため、彼の存在は隠され続けてきました。家政婦の多恵さんと一緒です。

彼は寡黙で、表情があまり表に出ません。別所は彼のことを「口が利けない」と話していましたが、果たして本当のところはどうなのでしょうか。

ちなみに、彼はのちに「光待つ場所へ」にも登場します。

この小説を読み終わったら、ぜひ「ぼくのメジャースプーン」と共に読んでみてはいかがでしょうか。

「ドラえもん」から全てが始まる

この小説の全ての章のタイトルが、ドラえもんのひみつ道具になっています。徹底的なこだわりようですね。

  • どこでもドア
  • カワイソメダル
  • もしもボックス
  • いやなことヒューズ

…といった具合です。

そして、物語の重要なカギを握っているのも、何を隠そうこのひみつ道具なのです。

ドラえもんと一緒に過ごし、共に生きてきた。

そんな辻村さんだからこそ、このような小説を書くことができたのではないかと見なしています。

理帆子の人物像には、少なからず彼女自身の投影もあるでしょう。(ご本人曰く、「そこまで自分は強くない」とおっしゃっていましたが…)

余談ですが、作家の芦沢央あしざわ・よう)さんのペンネームの由来は、理帆子の名字から来ています。

選曲 ここはどこですか? 私は誰ですか?

[Alexandros]アレキサンドロス)のcityです。かつては[Champagne](シャンペイン)というバンドでした。

ドラえもん関係ないじゃん!」という声が聞こえてきそうですね。
はい。そこは認めます。

ドラえもん関係の選曲は他の方に任せるとして、この曲のテーマは「アイデンティティの不在です

理帆子の息が詰まりそうな行き場のない世界を表すのに最適ですね。

サカナクションにも全く同じテーマで「アイデンティティ」という曲がありますが、あちらにはテンポがあるのに対し、こちらはじっくりと弾き語るのが似合います。

どちらもライブアンセムとして人気が高いですね。

首から垂れ下がるIDが認証されずに
ここはどこですか? 私は誰ですか」 など、痛みを引きずって歩くような、切実な歌詞が印象的です。

このテーマはもう一つの彼らの代表曲である、「starrrrrrr」にも受け継がれています。

戸惑い彷徨いながら」がcityならば、「彷徨って途方に暮れたって」がstarrrrrrrです。

そしてこのcityのアンサーソングが、「Famous Day」です。

この雰囲気は後にムーンソングアルペジオにも受け継がれてゆきます。

まとめ聴きをすれば、彼らが追及している世界観がもっと分かるかもしれませんね。

この「city」でもがいていた「私」が、どうなったのか。

ぜひともあなたの目と耳で確かめてください。

著者紹介

辻村深月(つじむら・みづき)

1980年、2月29日生まれ。千葉大学教育大学部卒。
冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。

ツナグ」で第32回吉川英治文学新人賞、「鍵のない夢を見る」で第147回直木賞を受賞。

他の著書に「スロウハイツの神様」「ゼロ・ハチ・ゼロ・ナナ。」「ぼくのメジャースプーン」「家族シアター」「図書館で暮らしたい」「太陽の坐る場所」「盲目的な恋と友情」「朝が来る」。

近書に「青空と逃げる」「嚙みあわない会話と、ある過去について」「傲慢と善良」「かがみの孤城」など、著書多数。

作中の登場人物がほかの著者作品にも登場する、いわゆるスターシステムを採用している。

自他共に認める熱狂的なドラえもんファン2019年公開の「映画ドラえもん のび太の月面探査記」の脚本も手掛けている

こちらもよろしくお願いいたします。

◯この他の『凍りのくじら』の主題歌はこちら

◯本の主題歌を決める読書会「BGMeeting」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です