【SNSが生み出すいびつな日常】本谷有希子「静かに、ねぇ、静かに」(♫ゲスの極み乙女『僕は芸能人じゃない』)

斬新な装丁に表紙買い

毎月毎月新刊が出るこの時代、書店に並んだとき手に取ってもらうにも表紙は大切だ。そんな中、佐藤亜沙美氏(Twitter:@satosankai)が手がけるこの表紙、なんと­題名が反転している

ガラスが割れたようなデザインに反転した題名。割れたスマホの画面や自撮りをした時に反転する文字をイメージしたようで、SNSをテーマとしたこの小説にはぴったしだ。

そんな表紙に一目惚れして購入したわけだが、内容はもちろんのこと、読んだ後、改めて装幀のすごさを思い知らされた。

3つの短編からなり、どれもSNSがうまく絡んでいる。SNSがテーマの小説と聞くとなんだか啓発的だったり教訓めいてたりしそうだが、そんな心配は杞憂に終わると保証したい。

SNSというアイテムを小説の中にはめ込み、それを媒介とした登場人物の心情の動き、次第に漂ってくる不穏さが存分に楽しめる小説になっている。

あらすじ

「本当の旅」

もうすぐ40になる「僕」とづっちんとヤマコの3人の同級生が本当の人生を求めてマレーシアへ旅行に行く。金がある方が幸せという金銭に翻弄される人生はみじめでその金のサイクルから抜け出せないのはかわいそうと思う彼ら。上手くいかないことは自分のためだから感謝。写真を撮り、思い出を作りながら旅行楽しむが……

奥さん、犬は大丈夫だよね?

ネットショッピングをやめられない「私」は旦那に連れられ、名前も顔も知らない夫婦とキャンピングカーで一泊二日の旅をすることになった。必要と思えばすぐにネットで買う癖がある「私」は自分とは対照的な倹約家の夫婦。スマホをなかなか返してくれない夫。戸惑いながらも彼らと馴染んできた夜、「私」は夫が散歩に行った時、夫婦にとある提案をする。

でぶのハッピーバースデー

「でぶ」と呼ばれる女。ほおっておいた歯は、がたがたに歪み並んでいる。夫はその歯はいろんなことを諦めてきた”印”だと「でぶ」に言う。そんな夫婦は失業手当を受けながら過ごしてきたが、ついに職を見つける。ある時、夫は自分たちの”印”を世界中に見せようと動画を取ろうとする。

SNSの歪な日常

作中からただよう不気味さはSNSが日常になっていること。SNSは生活には欠かせないものになり、ない方がむしろ非日常で不自然だ。
ただここではそのSNSやスマホにこだわるあまり、日常が非日常に変化したことに気がつかない。そしてその非日常が日常となりかわっているところに不気味さを読者は感じるのだろう。
作者の本谷有希子氏は読後の後味の悪さに定評があるが、この作品もその後味の悪さがいい意味で感じられるものとなっている。それぞれ3つの短編の結末に期待してほしい。

そんな作品の魅力を作りげているものを1つ紹介したい。セリフのリアルさ、だ。

普段どんな会話をしてるか思い出して欲しい。友だちや家族との会話。日常的な会話について。いま自分の周りにいる人の会話に聞き耳を立ててもいい。

どんな会話だろうか。おそらくは相手の言ったことに対して「うんうん、そうだよね。」などと同意をしたり、相手の言った単語を繰り返したりしているのではないだろうか。特に本音を言い合えないが仲良くやっていきたい関係に多いように思える。

1つ目の短編である「本当の旅」はまさにそんな会話が繰り広げられる。読んでいるうちにセリフから彼らの「性格」や「関係」がわかり、声までも想像できてしまうだろう。それほどリアルで実際にありそうな会話になっている。

リアルであるからこそ、彼らの発言や行動を思わず止めたくなってしまうような、もう見てられないというような感覚に襲われる。その時はなんとも思わなかったが思い返せば恥ずかしくなるようなことを体験したり、他から見ればやめればいいのにということを見たりしたことがあるだろう。

彼らは自分たちは物事を固定観念にとらわれず見れていると思っている。あらすじでも書いたように上手くいかないことにも感謝。感謝感謝感謝の連続だ。自分たちが原因で上手くいかず他人の迷惑になっていることに気づかないで、そう思い込んでいる。

もう読んでいられない。しかし読むのをやめられないのだ。彼らがどうなっていくのか知らずにはいられなく知らないうちに作品に引き込まれてしまっている。

読み終わったら、もう一度装幀をじっくり見てほしい。表紙はもちろん紙の色やカバーを外した状態も。非常に中身と合ったものになっている。読むだけでなく見ても楽しめる本だ。
読み終わった後、いつもはSNSに読了ツイートなどを投稿している人もいるだろう。ただこの作品を読み終わった後はスマホを開くことに抵抗を覚えるかもしれない。

この小説に曲をつけるとしたら

この小説に曲をつけるとしたら、
ゲスの極み乙女。の『僕は芸能人じゃない』
を選ぶ。もちろんこの小説は芸能界を書いたものではないが、SNSで好き勝手つぶやくような人たちに対しての曲になっている。題名の「静かに、ねえ、静かに」というごちゃごちゃとしたSNSの圧倒的な情報量の多さに対し、うるさい……! という感情に合う。

著者紹介

本谷有希子もとや・ゆきこ
1979年生まれ。2000年に「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。2006年上演の戯曲『遭難、』で第10回鶴屋南北戯曲賞を史上最年少で受賞。2008年上演の戯曲『幸せ最高ありがとうマジで!』で第53回岸田國士戯曲賞受賞。2011年に小説『ぬるい毒』で第33回野間文芸新人賞、2013年に『嵐のピクニック』で第7回大江健三郎賞、2014年に『自分を好きになる方法』で第27回三島由紀夫賞、2016年に「異類婚姻譚」で第154回芥川龍之介賞を受賞。著書に『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『ぜつぼう』『あの子の考えることは変』『生きてるだけで、愛』『グ、ア、ム』などがある
(引用:本谷有希子『静かに、ねえ、静かに』講談社。2018・8、奥付より)

最後まで読んでいただき大変嬉しく思います。こちらもよろしくお願いいたします。

◯この他の「静かに、ねぇ、静かに」の主題歌はこちら

 

◯本の主題歌を決める読書会「BGMeeting」