みなさんは本を読む時、どんな音楽をかけますか? もしくはかけませんか?
私は洋楽をかけることが多いです。
しかし今回紹介する本は特別で、音楽のない環境で読むことをおすすめします。
なぜなら、この本から音楽が心に響いてくるからです。
この本は、ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの、唯一の短編集。
とても読みやすく、ユーモアや、深い余韻が心に残ります。
目次
夜想曲集のあらすじ感想(ネタバレ)
「老歌手」
ベネチアでギタリストをしている主人公が、あこがれだった男性老歌手に偶然出会い、頼みごとをされます。
それは老歌手の妻のために歌う時の伴奏を、運河の船の上から運河沿いのホテル内にいる妻に向けて……というものでした。
老歌手の語る夫婦の事情を知り、主人公は心をこめて、夜のベネチアの船上で演奏します。
私は、この短編集の中でこの作品が一番心に残りました。
5つの作品中最も切なく、ロマンチックでした。
水の都ベネチアの、夜の運河を背景に響き渡るベテラン歌手の、長年連れ添った妻に捧げる歌声とギターの音……うっとりしてしまいます。
サブタイトルにある「夕暮れ」は、人生の夕暮れという意味もあるようで、青春小説とは一味違った味わいがあります。
「降っても晴れても」(レイ・チャールズの歌と同名)
前作品の余韻に浸りながらページをめくると、さっきまでのロマンチックはどこへやら、今度はコメディです。
大学時代からの友人夫婦の家に泊まることになった主人公レイは、友人である夫の出張中に妻の機嫌を直しておいてほしいと頼まれます。
しかし妻が置いて行ったノートをつい開いて見てしまい、さらに悪いことにページを破いてしまします。
さて、どうごまかすか……!?
ノートを破いたのを犬のせいにするため悪戦苦闘するシーンなど思わず笑ってしまいます。
この作品にも音楽が彩りを添えています。
ラストシーンにも……!
「モールバンヒルズ」
大学を辞め、ギターを弾きながら歌を作る主人公。
夏の間は都会を離れ、カフェを営む姉夫婦のところで過ごすことにしました。
カフェを手伝いながら歌を作る日々。
そこで旅行中の夫婦に出会い、自作の歌を披露します。
美しい自然の中に響く、ギターの弾き語り……聴いてみたくなります。
ゆったりした気持ちにさせてくれる作品です。
「夜想曲」
39歳のいまいち売れないサックスプレイヤーのスティーブ。
才能があるのは自他ともに認めるところだけれど、顔立ちだけが冴えない。
周囲の勧めもあって美容整形手術を受け、ホテルで手術後の回復を待つ身。
そこで偶然隣室になったあるセレブ女性が思いつきであるものを盗み出し、スティーブにあげようとするけれど彼はそれを元のところに返そうと言い、夜中のホテル内をこっそり動きまわる二人。
滑稽でスリリングな作品です。
シリアスな作品も、コメディタッチの作品も、この作者は読者を楽しませてくれるなぁ、と思います。
「チェリスト」
チェリストのティボールはリサイタルの客にカフェで偶然出会い、声をかけられます。
その客とは自称チェロの大家エロイーズ。
彼女はティボールにチェロの個人レッスンをしようと申し出ますが、彼女自身はチェロを弾かず、言葉で指示を伝えます。
レッスンはティボールに、「新しいエネルギーと希望」を与えるのですが……。
抽象的な言葉でのレッスン。
ティボールとエロイーズの関係。この短編は不思議な余韻を醸し出します。
この本は音楽のCDアルバムのように作品の収録される順番も絶妙だなと思いました。
起伏に富んで読者を飽きさせません。
主題歌:Louis Armstrong/What a Wonderful World
Louis Armstrong「What a Wonderful World」
この本を読み終えて、多彩な作品集だったなぁ……と思いをはせる時、ふっと心に浮かんだのがこの歌でした。
作品中にも多くの音楽が出てくるので、それらをも包み込むようなスケールの大きな、懐の深いようなこの歌が合うと思います。
いろいろなことがあるけれど、生きることを喜ぼう、そう思わせてくれる本と音楽です。
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