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『幸福な遊戯』角田光代【デビュー作!うっすらと毒を孕む角田ワールドのはじまり】

 

こんにちは。ReaJoyライターのまなです。

さて今回取り上げるのは、角田光代さんのデビュー作であり、「海燕」新人文学賞を受賞したこの作品。

「幸福な遊戯」

角田さんの書く小説の世界観はこの頃から健在で、まさに角田ワールドと言った感じの一冊です。

表題作の「幸福な遊戯」他二編が収録された短編集で、どのお話も本当に心に沁みます。

それでは各短編あらすじを説明させていただきたいと思います。

あらすじ

幸福な遊戯

ハルオ、立人、そして「私」ことサトコは「同居人同士の不純異性交遊禁止」と一つだけルールを設けてルームシェアをしている。

理由は色恋沙汰を交えると、いざこざが起きた時に誰かが出て行くことになりかねないので、そうなると家賃折半の目的でルームシェアを始めた意味がなくなってしまうからだ。

ところがサトコとハルオはある日、その禁忌を破ってしまうことから物語は始まる。

以前からハルオに距離を感じていたサトコは罪悪感よりも彼と距離を縮められた事に、喜びを感じていた。

そんなある日、ハルオはカメラを手に入れて、カメラの世界に夢中になりはじめる。

三人であたたかい絆を築いていたはずが、それはいつからか壊れ始め――?

主人公のサトコは本当の家族が壊れてしまったので、この三人の暮らしを自分なりに大事に思い始めていた。

それが壊れてしまったのはカメラのせい?それともサトコとハルオが関係を持ったせい?

色々と考えさせられる短編です。

無愁天使

「私」はどこか壊れている。

浪費を繰り返す買い物中毒で、その中でも「青いもの」に目がなかった。

その理由は小さい頃に見た夜中の病院の青い景色。それがとても美しかったから。

母を失い、少しずつ壊れていく主人公。

しかしある日、同じく浪費家の妹が浴槽を買ってしまい、金銭的に不安になり風俗の仕事を始める。

そこで出会った一人の老人はどこか不思議で、「私」を抱こうともせず「話をしてください」と言い、二人は逢瀬を重ねるようになる。

二人は、「私」はどうなるのか。

少し歪んでいるけれど、どこか幻想的で、綺麗で、切ない短編です。

銭湯

主人公の八重子は銭湯通いをしている一人のOL。

それは自分が学生時代に芝居をやりながら貧乏学生をやっていた頃の名残だった。

彼女はその銭湯で自分の体を異様なまでに磨き上げ続ける「あの女」をいつも気にしていた。

「あの女」は八重子が抱いている幻想の自分であり、芝居を続け自由気ままに生きる「ヤエコ」ならばこういう女だろう、と勝手に女を重ね合わせている。

一方で、八重子はもう一人銭湯の中で気にしている老婆がいた。

いつも孫の自慢話ばかりしていて、銭湯内で誰かを捕まえては輝かしい孫とのエピソードを話し続ける、少し病的な老婆だ。

この二人が最後のオチに痛快に響く二人のキーパーソンである。

八重子は自分にコンプレックスを抱いている。芝居をやりながらも順当に就職を決め、結局芝居を続けずいわゆる「普通」に生きる事を選んだ。

理不尽な上司や先輩OLにネチネチと責められる毎日を繰り返しながら、彼女は幻想の自分の妄想を膨らませ続ける。

そして最後は…ここから先は読んでからのお楽しみである。

まとめ

私にとって角田光代さんは特別な作家さんであり、私の本読み人生の中でかなり影響を及ぼした作家さんです。

角田さんはこのデビュー作の「幸福な遊戯」からすでに「角田光代ワールド」を展開させていて、そのブレない世界観に舌を巻きます。

角田さんがこの後の作品でもテーマとして多く取り上げている、仕事や、家族、歪んだ恋愛、その全てがぎゅっと凝縮されて詰まっている一冊です。

同時に角田さんは時代を先取り、その状況を適切に紡ぎだす力がすごい作家さんです。

例えば表題作の『幸福な遊戯』に出てくるハルオは今で言う所謂“フリーター”なのですが、これは後にフリーター文学、と呼ばれた「エコノミカル・パレス」の先駆けなのではないでしょうか。

角田さんのうっすらと毒を含み、でも読んでいく内にその毒が癖になる作風は彼女独自のものと言えるでしょう。

例えば「銭湯」の中のこんな一文。母親に向かって嘘の手紙を書き続けているシーン。

いくらでも文字は洗われた。ペンが止まらない限り、八重子は眠りに落ちる瞬間のように満たされていた。頭の中で自在に動く架空のヤエコを描写し続ける間は、意味のない数字も、常に変わらない蛍光灯の明るさも、麦茶のパックも、遠い彼方の出来事だった。付け放しのTVが流すドラマの筋と変わりがなかった。車の流れと扇風機の組曲に包まれ、八重子はじっと頭の中で息をしていた。

なんて歪んでいて美しいシーンなのだと思いました。

主人公の八重子は、母親に就職などしない、今は芝居をしながら自由に暮らしていて幸せだ、と手紙を書き続ける傍ら、彼女にとっては意味のない数字の羅列を入力したり、お茶の淹れ方や、判子の位置で責められ続け、彼女はどうしようもなく歪んでいきます。

この毒がまるで遅行性の毒のように、じわじわと本当に癖になるのです。

皆さんもぜひこの『幸福な遊戯』の美しい歪みの世界を味わってみませんか?

主題歌:椎名林檎/丸の内サディスティック

短編が三つあるのでどれに曲をつけようか悩みましたが、最後の「銭湯」に曲をつけようと思います。

OLを続ける傍ら、幻想だけを膨らませ続けるこの一曲

椎名林檎「丸ノ内サディスティック」

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