『しき』町屋良平【芥川賞受賞作家が投じる、痛みとずれを伴う青春小説】

この本の評価
読みやすさ
(5.0)
面白さ
(3.5)
青春度
(4.5)
装丁の美しさ
(4.0)
踊ってみた度
(5.0)
総合評価
(4.0)

あなたは、我を忘れるぐらい何かに没頭したことはありますか?

今回ご紹介する小説は、ダンスに心からのめりこんだ人たちが主役です。

静かな文体から、作者の情熱が溢れんばかりに立ち込めてくる「しき」。文藝賞芥川賞を受賞した気鋭作家である著者の、新感覚の青春小説です。

あらすじ

草野星崎ニコニコ動画を見ながら、音楽に合わせて踊るのを日課にしています。

彼らは視聴者として動画を見るのではなく、踊り手として、いかにその技術を盗むかを考えていました。

プレイボーイで苦労知らず阪田妹を溺愛する樋口凛白岩さやかアイドルオタク青木由希奈、徳島に住む、少し壊れた友人杉尾、内緒の「河原の友達つくもの、それぞれの悩み事や、考えていることが交差してゆきます。

踊りに、恋に、現実に掻き乱され、振り乱される彼らの群像劇です。

文学史上初、「踊ってみた」小説

この「しき」は、踊ってみたのことを取り上げていることが特徴です。

「踊ってみた」とは?

ニコニコ動画内でボーカロイド曲や、JPOPなどの音楽に合わせて踊っている人が映っている動画全般を指します。ボーカロイド曲の例では、「リリリリ★バーニングナイト 」「ルカルカ★ナイトフィーバー」「いーあるふぁんくらぶ」「シリョクケンサ」などが有名です。その「踊ってみた」を小説に初めて取り入れたのが、本書「しき」です。

VOCALOID(ボーカロイド)とは
ヤマハが開発した音声合成技術、及びその応用製品の総称。略称としてボカロという呼び方も用いられる。メロディーと歌詞を入力することでサンプリングされた人の声を元にした歌声を合成することができる。

小説上では、草野と星崎が動画を見るシーンで登場します。

どこかぎこちない、人間関係のずれ

彼らは心の中の「ずれを、鋭敏に感じ取っています。

言いたいことがあるのに、うまく伝わらないだから、家族や友人に当たってしまう。

感情的になれば、なおさらのこと、言葉が伝わらない。そのような葛藤が、この星崎の言葉に集約されています。

「なにかが欠損していて、それなのにうまくやれている気がするから。だれにも相談するようでもないけど、でもなんかつめたいのかも。なにも起きていないことにすれば、いいのではないかとおもってしまう。誰かが誰かをふかく傷つけても、しらなければすむこと。でも、しってしまったら、どうすればいいんだろう?」-p155

「テトロドトキサイザ2号」とは?

さて、小説内で、草野星崎が踊るテトロドトキサイザ2号

ボーカロイドプロデューサー(略してボカロP)であるギガPが作曲した曲のうちの一つです。

ボカロPとは?
VOCALOID技術を駆使して創作活動を行う人の通称。 作曲・編曲をしてVOCALOIDに歌わせたりといった、いわゆる音楽プロデューサー的な活動をしている。 ボカロPという表現は、ニコニコ動画から普及したとされる。 元々は別のゲームに関する用語だった。

タイトルの由来はフグの毒、テトロドトキシンから来ています。

ピコピコサウンドに、GUMI(めぐっぽいど)の可愛らしい声が乗る、中毒性の高い楽曲です。一向に振り向いてくれない相手に、自分の気持ちを全力でぶつける、女の子目線の恋愛ソングですね。

「受け止めてよね軽くない愛を」

「ほら!まっ逆さま 落ちてゆく 」

『Megpoid(メグッポイド)』とは
歌手・声優「中島愛(なかじまめぐみ)」の声を元に制作された、株式会社インターネット社の音声合成・DTMソフトウェア製品のこと。イメージキャラクターの名称は『GUMI』。@ニコニコ大百科(仮)

主題歌:サカナクション/Aoi

ギガPテトロドトキサイザ2号ではなくてサカナクションAoiです。

RADWIMPSの「君と羊と青」と並んで、歴代のNHKサッカーのテーマソングになりました。

ライブでは、青い筒のようなものが風を受けて高く広がってゆく演出が見受けられるなど、彼らのライブを語るうえで、欠かせない一曲となっています。

この曲の特徴として、ゴスペルのような合唱から始まることがまず挙げられます。

ベースの草刈さん(草刈姐さん)や、ギターの岩寺(モッチ)さんが、ボーカルの(山口)一郎さんと一緒に歌う姿は圧巻です。

(似たような構成の曲に、「表参道26時」や「目が明く藍色」、最近では「陽炎」が挙げられます。)

青春を踊りに捧げる二人には、唯一無二の崇高な音楽がふさわしいと思い、採用しました。

終わりに

この小説は、静かな文体なのですが、内に秘めた熱量尋常ではありません。

他の人の踊りを研究して、自分たちのものにする

踊りを続けるために、生活を調整したり、自分たちの抱えている悩みと向き合いながら、ひたすら踊り続ける。

踊り」という行為を、突き詰めていった結果生まれた文学なのだと、読みながら、その熱量に圧倒されていました。

これからはもっと、ことばを精密に思考して、からだを分解して、練習にこまかい発明を施していかないと、上達しないのかもしれない。

 

なにより、つづける情熱を保ちつづけるよう、生活を調整しなくては。

いまのかれが考えているより、ハマったものをやりつづけるのはむずかしい

経験ではしっているけれど、経験こそが役にたたないのが情熱走ったときのからだの状態なのだ。-p13

著者:町屋良平

町屋良平まちや・りょうへい

1983年、東京都生まれ。2016年、「青が破れる」で第53回文藝賞を受賞。

2018年、本書「しき」で第159回芥川龍之介賞候補第40回野間文芸新人賞候補に選出される。2019年、「1R 1分34秒」で第160回芥川龍之介賞を受賞

 

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