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『破局』あらすじと感想【破滅へと突き進む青年を描いた衝撃の芥川賞受賞作】

『破局』あらすじと感想【破滅へと突き進む青年を描いた衝撃の芥川賞受賞作】

芥川賞受賞作といえば、世間一般的にはどんなイメージを抱くだろう。

まず純文学であることと、何やら小難しい印象がつきまとうのではないだろうか。

この『破局』という作品は、どこまでも不穏だ。

一見、青春小説と見えなくもないが、それだけでは済まない不穏さを内包している。

何かと作品以外の部分が注目されがちな今作ではあるが、どうか全ての色眼鏡を取っ払って、この作品と出会ってほしい。

そのとき浮かぶ感情に、あなたはきっと上手く名前をつけることができないだろう。

こんな人におすすめ!

  • 純文学に触れてみたい人
  • 芥川賞を読んだことがない人
  • 圧倒的な読後感に打ちのめされたい人

あらすじ・内容紹介

主人公の陽介は、高校時代に所属していたラグビー部のコーチをしている青年だ。

大学4年生の陽介は、公務員試験を目指して日々試験勉強に追われている。

交際中の麻衣子とは、最近しっくりいってない。

彼の日常は、日々のトレーニングと勉強、それからセックスでできている。

OBとしてコーチを勤めたあとは、ラグビー部を引率する教師の佐々木の車で彼の家まで行き、そこで肉を振る舞われるのが日課だ。

まるで体を痛めつけるかのように鍛え、ストイックに見えるかと思えば性の衝動に抗いきれない若さを持っている。

友人に誘われ観客として訪れたお笑いのライブで、陽介は大学1年生の灯(あかり)と出会う。

観覧中に具合の悪くなってしまった彼女を介抱したのがきっかけで、陽介は灯と言葉を交わすようになっていく。

麻衣子と陽介とはすれ違う一方で、そんなときに出会ったのが灯だった。

毎日のように交わす彼女とのメッセージが、公務員試験の試験勉強ばかりで無味乾燥だった日々を慰めてくれるようになる。

ある日、2人で食事に行った帰りに、「試験が終わったお祝いにケーキを作った」と、灯が陽介を自宅に誘う。

やがて灯の部屋を訪れた陽介は、彼女と肌を重ねてしまうのだ。

麻衣子と別れた陽介は、灯との交際を始めることになる。

性への衝動、抗えない欲望。

抑えきれないものに振り回され、やがて陽介は破滅の道を歩んでいく。

『破局』の感想・特徴(ネタバレなし)

ノーマルとアブノーマルの狭間

陽介という人物は、一見ごく普通の人間に見える。

大学に通い、ラグビー部のコーチを勤め、最近しっくりいってないとはいえ交際相手もいる。

公務員試験を目指して、コツコツ努力することも厭わない。

時折誰かのために祈りたくなるような、敬虔な態度と善良さを持ち合わせた人物だ。

だが、その内面に潜れば潜るほどに異様なものに気づかされる。

頭の片隅で、今日が何の日だったかを考えつつ、裸のまま日課である腕立て伏せやスクワット、腹筋などのメニューを一通りこなした。裸で腕立て伏せをすると、性器が都度床に触れて面白い。

この部分を目にして、どう感じただろう。

その行為は、いささか奇異に映りはしないだろうか。

それからシャワーを浴び、朝食を終えると陽介はおもむろに自慰を行う。

この『破局』という作品のなかで、幾度となくセックスや自慰のシーンが登場する。

だがそれらは快楽というよりは、どこか儀式めいている。

性に溺れているようでどこか冷めており、虚ろでどんよりした表情が浮かんでしまうのは何故なのだろう。

快楽に走るならまだしも、ひたすら抑えたその描写はまるで何かのトレーニングのひとつであるかのようだ。

 

また、陽介という人物を語るのに欠かせないのが、他者への共感力のなさだ。

高校のラグビー部の顧問である佐々木にたびたび車で送られ、肉を貪っておきながら、それを「当たり前のこと」として受け取る姿には、いささか恐怖を覚えた。

陽介が他者を労るように見える場面はたびたび登場するのだが、どこかのっぺりして表情がない。

決して文中で彼の表情について語られているわけではないのだが、「ゾンビ」という比喩があるシーンもあり、そういう印象を受けるのだ。

体を鍛える場面がどれほど登場しようとも、どこにも爽やかさの欠片はなく、この「表情のなさ」が不穏さを増していく。

肉を好み、体を鍛え、ひたすら勉学へと向かい、周りの人々を気遣うように見える陽介。

だが、ページをめくるほどに彼のことがわからなくなる。

陽介を見つめる不気味な〈目〉の存在

この作品を語る上で、非常に肝心なのが誰かの〈目〉であり視線だ。

まるで何かを暗喩するかのように、たびたび物語には〈目〉が登場する。

たとえば冒頭で、ラグビー部の練習が終わり、佐々木の家に車で向かう場面。

チワワは四本の短い足をせわしなく動かしながら、前方の確認を怠り、私の顔をじっと見ていた。車の窓ガラスが、私たちを隔てている。私が見るからチワワも私を見るのだろうと考え、前を向いた。

前の車は四角く、大きな鼠のぬいぐるみがやはり私を見ていて、ナンバープレートに「ち」と書かれていた。横を見ると、チワワはまだ私を見ていた。そのうちに車が動いたので、チワワはすぐに見えなくなり、私はもうチワワの心配をしなくて済んだ。

ここで、「おや」と気にかかった。

いったい、これはどういうことなのだろう。

まるで、視界から去ってしまえば、チワワがどうなろうと構わないようではないか。

その懸念は、作品の中で数回に渡って繰り返し描写されている。

 

ある朝、家を出た陽介は、横断歩道の前で小さな子供と遭遇する。

子供は黒いスカートを穿き、男と手を繋いでいた。

ふたりは親子のように見えたが、本当のところは他人である私にはわからない。

正直なところ、このくだりも「親子でなかったら、いったいどうするのだ」と、正直なところどうかとは思うのだが、ぞっとさせられるのは、その次の場面だ。

手にしていた絵本のページにくっきりした折れ目がついてしまい、その子は泣きながら、「本が、本が」と叫んでいた。

男はその絵本を手に取ると、両手を使って胸の前でプレスし、「元通り」と言いながら絵本を再び子供に渡すのだが、実際には絵本のページには折れ目がついたままなのである。

黒いスカートを穿いた小さな少女、その腕を引いて先へ行こうとする男、明らかに痛めつけられた絵本。

これらのモチーフがまるで何かを現しているようで、現実にもある陰惨な事件がこちらの頭に浮かんだ次の瞬間、陽介はこう放つのだ。

子供は泣き止まず、「本が、本が」と叫び続けた。子供はなぜか、最初からずっと私の目を見ていた。信号が変わっていたから、私はそれ以上彼らを見なくてよかった。

この〈目〉は、のちに陽介の起こす行為を断罪しているようにも見え、それと同時に彼の自意識の現れでもあり、もっともおぞましい考えが、彼の中では「見えなくなってしまえば、何が起きようとも無関係でいられる」ということではないのかという恐怖なのだ。

陽介を取り巻く女性達

陽介の周りには、2人の女性が登場する。

交際相手である麻衣子と、ライブがきっかけで知り合うことになる灯だ。

麻衣子は将来を見据えて動き、いつかは議員に立候補しようと考えている厳しい女性だ。

それに対して、灯は人懐こく相手の懐に飛び込むタイプの女性だ。

おそらく麻衣子はどんな場所でも前へと突き進んでいくだろうし、また美しさも頭の良さを兼ね備えていることもあり、自分の価値や強みもわかっているだろう。

だが同性として、より脅威に感じるのは灯の方だ。

陽介と2人で食事をした夜、灯は陽介のためにケーキを作ったのだと語る。

「うちに食べに来ませんか」と誘い、それに対して陽介は「彼女に悪いからそれはできない」と断るのだが、「それならせめて、家の前まで受け取りに来て欲しい」と口にする場面だ。

彼女がいると灯に言ったのはこのときが初めてで、私は灯を失望させたのではないかと思った。でも灯はなぜか笑っていた。

なぜ、ここで灯が笑ったのか。

それがどんな笑い方だったのか、手に取るようにわかってしまう。

その後、灯はケーキを受け取りに来た陽介に、「ケーキを入れる容器がない」と言い、「少しでいいから、上がっていきませんか」と誘い、陽介はその誘いを受ける。

そして、肌を重ねてしまうのだ。

 

麻衣子と灯、どちらが女として厄介かといえば、間違いなく後者だろう。

手練手管で自分を弱く見せ、困っているフリをして男を誘い込む。

この灯の人物造形が、嫌になるくらいに上手いのだ。

まとめ

陽介という人物を「好きか嫌いか」という質問には、非常に答えにくい。

何故なら、ひどく嫌悪する部分もあるのだが、その嫌悪する理由に同族嫌悪という言葉が浮かんでしまうからだ。

彼は思慮深いように見えて、その実ひどく自己中心的だ。

彼が語る正しさはあくまで彼の内側から見たものに過ぎず、世間の「それ」と照らし合わせてみればいともたやすくわかってしまう。

作中で、彼がコーチしている生徒達の本音が伺える場面がある。

陽介は、大学では使いものにならないから、高校のラグビー部で采配を振るっているというのだ。

基本的に陽介の一人称で進んでいくため、その人物像について外側から語られる場面はとても貴重だとも言える。

陽介という人物が善人なのかそうでないのか、好ましいのかそうでないのか、読者を試す作品だと言ってもいいだろう。

興味のある方は、ぜひ『文藝春秋』(2020年9月号)に掲載された、芥川賞の選評に目を通してほしい。

作品を読了してから読めば、より味わえるだろう。

抑えた文章から滲むのは、シニカルな笑いと体液の臭い。

読み手の中にあるものを引きずり出し、色濃くあぶり出す傑作だ。

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