今、あなたの目の前にいる愛する人が赤の他人の人生を生きているとしたら?
どうしますか?
チョコレートだと思っていたものが、餡子だったら?
餡子でも嬉しいけれど、、、
やはり、そこには少しの違和感が存在するのではないでしょうか?
「あれ?なんだろうこれ、私なに食べてきたんだろう?」みたいな、、
『ある男』に近づいていくスリリングな感覚とスリルな愛にのめりこんでしまう、
本屋大賞2019ノミネート作品。
この日は特に、何か目的があったわけでもなく
何気なしに行った書店で出会ってしまった『ある男』、
イケメンであることを願って
私は思わず持ち帰って来てしまったのです。
*ちゃんとお金はお支払いしました
『ある男』が背負ってきた人生を覗いてみたくなってしまったのです。
何を背負い、何を欲しかったのか?
手放して手に入れた人生は『ある男』にとって本物だったのか?
今回は、平野啓一郎さんの『ある男』を紹介させて頂きます。
あらすじ・内容紹介
一緒に過ごしていた亡き夫が語った人生はまったく別の赤の他人の人生だった。
2歳の次男を脳腫瘍で亡くした事をきっかけに離婚の過去がある里枝は、長男を連れ実家の宮崎に帰って来ていた。
そんな宮崎で知り合った『谷口大祐』と再婚。
『大祐』との間に女の子を儲け幸せに暮らしていた矢先、事故で夫と死別してしまう。
そして、夫の死をきっかけに...
一緒に過ごしていた夫はまったく別人だったと知る。
夫は何者だったのか?
一緒に過ごし、
『谷口大祐』と名乗り、
『谷口大祐』の戸籍を持った男…
戸籍上、実在しているという人物『谷口大祐』はどうしてしまったのだろうか?
愛した男はなぜ、『谷口大祐』の過去を語れたのだろうか?
不安をだけを一人抱えた里枝は、、
離婚の際、世話になった弁護士・城戸章良のもとを訪れ『谷口大祐』と名乗っていた『ある男』の調査を依頼する。
調査を始めた城戸の中で、『ある男』の人生と城戸の人生がスリルにリアルに過去と現在を交差していく、
そして城戸自身『ある男』にのめりこんでいく。
城戸の過去と、『ある男』の過去。
そして『ある男』に関わってきた人々の過去…
とにかく、過去、過去、過去。。。
『ある男』の想像を超えたとんでもない『過去』が明らかになったとき。
あなたは、きっと『ある男』に会いたくなる?
ある男の感想(ネタバレ)
愛にとって過去とは?
谷口里枝が、夫『谷口大祐』を突然事故により先立たれてしまうところからストーリーは始まる。
次男を亡くし離婚を経験した里枝は悠斗を連れ宮崎へ帰り、母親に代わり実家の文具屋を切り盛りする。
そこへ、お客として来ていた大祐と出会い結婚。
里枝にとっては2度目の結婚。。
里枝と悠斗と、そして大祐との間にできた花と4人で幸せに暮らしていた。
そんな矢先の事だった。
大祐は仕事中の事故で亡くなってしまう。
生前、家族と連絡は取らないでほしいと言っていた大祐だったが、死んでしまった事を伝えないわけにはいかず大祐の死亡を家族に手紙で伝えると、
大祐の兄「谷口恭一」が宮崎まで来てくれた。
そして想像もしたことのない衝撃の事実が明らかになる。
大祐の写真を見た恭一から谷口大祐ではないと告げられるのだ。
「大祐」が「大祐」ではない。
名前も過去もすべての別人。
誰だったのか?
里枝は誰を愛したのだろうか?
これからを一緒に生きることに過去は関係ないとどこかで思いつつも、過去が目の前の愛する人の物質や存在を作りあげているのだろうし、過去が二人を出会わせてくれたのも事実だと思う。
だからこそ、愛した男が誰だったのか?
過去が全て嘘だと知り「ある男」の何に惹かれ、どこを愛したのか?
里枝自身が知りたかったように。
私も知りたくなってしまった。
「愛してる」「愛する」と言う現在、未来の言葉にどれほど過去が混在するのだろう?
里枝は不安定になってしまった自分の気持ちを確かめる為。
「ある男」の過去をさがし始める。
他人を生きる幸せ
里枝は一人不安だけを抱え、以前離婚の際お世話になった弁護士・城戸のもとを訪れ大祐と名乗っていた「ある男」の依頼をする。
里枝から依頼を受けた城戸は「ある男」の調査を始める。
そして、城戸自身がその存在に付きまとわれていく。
まったく別人とし生き直す。
そんな考えは、ただの一度も捉えたことがなかった。
調査は完全に行き詰まっていたが、ちょっとしたきっかけにより手懸りらしき物にだどりつく。
そこには、戸籍交換のブローカーが存在したのだ。
『ある男』は勿論、本物の『谷口大祐』も戸籍を自分の過去を思い出を手放したかったのだ。
ブローカーの一説
「過去を洗浄したい人はいっぱいいるでしょ?」
そして本物の『谷口大祐』はどこかで『ある男』として生きているのだろうか?
過去のロンダリングに行き着き、急速に『ある男』に近づいていく。
『ある男』の過去が明らかになる時、
「普通の人間になりたかったんですよ。
フツーに静かーに生きたかったの。
誰からも注目されずに、ただ平凡に。」
あまりに生きづらい人生を手放して他人の人生の続きを生きた「ある男」。
自分より、自分の人生の続きを上手に生きた「ある男」。
嘘のおかげで正直に、いきいきと暮らした「ある男」。
他人の人生を生きることによって、愛する人との時間、信頼できる職場を見つけ明るい未来を手に入れた「ある男」。
里枝との時間は他人の人生の続きを生きていたとしても、『ある男』自身が生き、掴んだ幸せだったのだろうと思いたい。
そして、「死」
人の人生を生きることはできても、死そのものを身代わりはできなかった。
偽りの人生を送っても死によってもたらされてしまった、真実。
里枝は、城戸から報告書を受け取り、
「ようやく彼と出会い直したような感じがした。」
長らく見ることが出来なかった彼の写真を、久しぶりにパソコンで眺めながら、やはり彼は、いつか本名で読んでもらいたかったのではと感じた。
他人の傷を生きて、痛みは伴わなかったのだろうか?
自分の全体が愛されることを願っていたのではないか?
愛する人を目の前にして、全てを話してしまいたい衝動に駆られることはなかったのだろうかと思ってしまう。
私はきっと偽って一緒に過ごす不安定な時間を安定したものにするために確かめたくなってしまうかもしれない。
全てを聞いても、彼女の愛情は変わらない本物だと信じたい気持ちは『ある男』にもあったのではないかと思う。
きっとまた、二人に出会って欲しいと思ってしまう。
まとめ
『ある男』を追いながら、常に過去を語られる本作。
「過去は過去」と言いつつも、過去に翻弄されていく。
そして嘘の人生を生きたとしても、『死』だけは、自分で引き受けなければならないのだと考えさせられる一冊でした。
そんな中、未来を見て里枝と妹の花の事、そして『ある男』を思う悠人のやさしさに心温まるものがありました。
読んだ後の課題も多いですが平野さんの書く知的で鋭く、それでいて棘はなくて丁寧な、とても、素敵な映画のナレーションを聞いているような世界観を堪能できました。
充実感と贅沢な時間を読了後実感できる一冊です。。
これから手に取られる方には、ぜひ平野さんの一文字一文字を噛み締めて頂きたいです。
主題歌:Every Little Thing/恋文
きっと、赤の他人を生きる「ある男」は里枝との確かな愛の中にも、時々不安になりもどかしさがあったのではないか?と、
【恋文】の一番好きなフレーズがピッタリと私の中でハマりました。
目には見えないものだから 時々不安でサビシクなり 痛々しくて もどかしくて
でも、それがゆえの 愛しき日々...いろんな君をずっと僕に見せて
きららかなる目の前に 愛を誓う
だから、 たとえば僕のためといって 君がついた嘘なら
僕にとってそれは 本当で
会えないこの間に少しずつ君が変わっても 思い続けられたら
なるようにしかならない そんな風にしてはいつも 手放してきたこと、
大切なものを信じ続けることは とても容易くはないけど ほんのわずかでも
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