『medium 霊媒探偵城塚翡翠』あらすじと感想【霊媒師×推理作家の名コンビ誕生!】

霊視や霊媒により事件の犯人が分かってしまう霊媒師。霊媒師の「見た」ものを論理で導く推理作家。

互いを補い合いながら事件を解決する2人の前に立ちはだかるのは、闇を抱えた連続殺人鬼。

果たして2人は凄惨な連続殺人事件を止めることができるのか……!?

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こんな人におすすめ!

  • 気持ちよく騙されたい人
  • 本格ミステリが好きな人
  • 大どんでん返しが好きな人

あらすじ・内容紹介

推理作家の香月史郎(こうげつしろう)は後輩の付き添いで霊媒師・城塚翡翠(じょうづかひすい)の元を訪れる。彼女は有名な霊媒師らしく、後輩の職業を何も聞かずに当てたばかりか、香月の職業もズバリ見抜いてみせた。

翡翠は後輩に危険が迫っていると言い、後日、香月とともに後輩の家を訪れる約束を取り付ける。

香月と翡翠が後輩の元を訪れるとなんとその後輩は部屋で死体で発見される。翡翠は即座に犯人を霊視で見るのだが、証拠がなければ警察に信じてもらうことはできない。

以前、警察の捜査に協力した実績のある香月は警視庁捜査一課の鐘場(かねば)に情報を開示してもらいながら、翡翠の霊視を論理で突き詰めていく。

そこから様々な事件を香月と翡翠、2人3脚で解決へと導いていくのだが、ある日、香月は巷を騒がす連続殺人鬼についての依頼を受けることになる。

その事件は2人の運命を変える重大なものに発展していき……。

すべてが伏線、すべてが証拠の本格ミステリ。あなたにこの真相が見抜けるか!?

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の感想・特徴(ネタバレなし)

「霊視」で人は救えない?

この物語の核となる人物・城塚翡翠。彼女の容姿はざっとこんな風に描写されている。

白雪を思わせるきめ細かな肌と、異彩を放つ碧玉色の双眸。耳のあたりから毛先に向かうにつれて緩いウェーブを見せる黒髪は、前髪も内側へと柔らかいカールを描いていた。こうして言葉を発しないでいると、ショーケースの中へと収められた精緻な自動人形のように見える。

彼女はその人形のような完璧すぎる見た目に反し、「霊媒」という力を生業としている。いや、生業という言葉は間違っているかもしれない。

彼女は働かなくてもいいほどのお金持ちのお嬢様だと、同居人で世話係の千和先真(ちわさきまこと)が言っていた。つまり翡翠は、お金をもらわずにボランティアで「霊媒」の仕事をしているのだ。

「霊媒」とは「死者の霊と意思を通じうる媒介者」のことであり、彼女の元にはその力にすがるようにたくさんの人が訪れる。

推理作家の香月史郎が翡翠との接点を持ったのは、彼の後輩からの相談からだった。「霊媒」という一種あやしげな能力を標榜にしているため、後輩の女性は翡翠に「あること」を相談したいのだが、不安感から香月を頼ったのだ。

香月と翡翠はここから様々な事件をともに解決していくことになる。

翡翠の「霊媒」という能力は、たとえ死者から「私はこの人に殺されたんです!捕まえてください!」という声が聞こえたとしても、証拠がなければ犯人を逮捕はできない。つまり、翡翠には犯人は分かっていてもその事件を解決する術がなく、証拠を提示しないことには警察には信じてもらえないのである。

その論理的な推理の役目を買ったのが香月なのだが、彼も最初は半信半疑な気持ちで翡翠に接している。しかし、香月自身が翡翠の「霊媒」という能力を目の当たりにすることで、そんな気持ちは消えていくのだ。

あるとき、香月と翡翠は香月の作家仲間や編集者とのバーベキューに呼ばれる。そこで事件に巻き込まれるのだが、翡翠はバーベキューの場でとある人物と仲良くなる。お肉を食べ、お酒もたしなみ、連絡先まで交換。しかし、その懇意になった人物が事件の最も疑わしい容疑者になってしまうのだ。

無論、翡翠には犯人が最初から霊視によって分かっているが、それを証明することができない。つまり、自分に親切にしてくれた人物を助けることができないのだ。

その悔しさを香月に訴えるのだが、香月もあまり真剣になってくれないという始末。

そんな香月に翡翠は、

「お友達に、なれるかもしれないんです……。どうしたらいいかわからないわたしを見かねて、お肉を焼いて食べさせてくれました。一緒にお酒を飲んで、面白い話を聞かせてくれて、一緒に笑ってくれました。スタンプも、たくさん交換しました。それだけじゃ、だめなんですか。それだけで、怒ってはいけないんですか、憤ってはいけないんですか──」

と訴える。

しかしその言葉の上に香月は翡翠の力を疑うかのような発言を重ねてしまう。すると翡翠は、さらに強く言葉を続ける。

「それなら、どうしてわたしには、こんな力があるのでしょう。真実を知ることができるのに、どうしてわたしはこんなに役立たずなのでしょう……」

「なんのために、こんな力を持っているの?恐れられるためですか?それとも、頭のおかしい妄想を並べる子だと、憐れまれるためですか?」

「無力」という言葉に支配された翡翠のこのセリフは、ロジックと派手なトリックで魅せるはずの本格ミステリを読んでいるというのに涙なしでは読めないシーンである。

己の能力を人を救うために使いたいと願ってやまない翡翠が、その特別な能力を持ってしても助けたい人物を救うことができない。

香月のような実証を手に入れられなければ、翡翠は助けたい人を助けることができないのだ。

これは「霊視」という特殊能力を持ち合わせながらも、その力は必ずしも万能ではないということを読者に知らせているのではないだろうか。

連続殺人鬼のトラウマ

本書には若い女性ばかりを狙い、執拗にナイフで残忍な仕打ちを繰り返す連続殺人鬼の事件が全編に横たわっている。

この連続殺人鬼の物語が各章の間に挟まっており、なぜ連続殺人鬼になってしまったのか、なぜその人物は殺人を犯すのかが少しずつ分かるようになるのだ。

そもそも連続殺人鬼を指すシリアルキラーは、心理的な異常欲求のもとに殺人を犯しているという。異常性欲であったり、異常心理などをもとに殺人を犯してしまうのだが、この人物はどちらかというとそのトラウマを克服したいがために殺人を行っているように感じる。

連続殺人鬼は拉致した女性をねめつけるように「ある言葉」を繰り返す。

「教えてくれ、痛いか?」

「なぁ、痛くないだろう?」

「おい、痛くないはずなのに、死ぬのか?やめてくれ……」

この「痛み」を繰り返し問う部分がポイントである。

連続殺人鬼は被害者に「痛み」についてひたすら問いかけ、もう動くことがない死体に向かって「死んだ後の世界には何があるのか?」を知りたがる。

それがまさに連続殺人鬼のトラウマにつながるヒントにもなっている。近しい人を亡くしたことを契機に闇を抱えた犯人は、それを克服することができなかったがために事件を起こすようになるのだ。

人はだれでも自分の中の闇を抱えている。その闇が表立って出てこないのは、理性が働くのと同時に己の中で克服できないものを何かしらで昇華しているからである。

生きていれば苦しいこと、辛いこと、悲しいことに必ず出会う。それらの出来事に出くわすたびに殺人などの犯罪行為を犯してしまっていたら、世の中は犯罪の温床になってしまう。

ナイフの切っ先が向けられた女性たちは、この犯人にいったい何をしたのだろうか?

ただのトラウマ克服の対象とされてしまったのだろうか?そしてこの連続殺人鬼は、翡翠とどう関係があるのだろうか?

連続殺人鬼が繰り返すトラウマの悲劇を、香月と翡翠は止められるのだろうか?

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反転・暗転する世界

本書は第4章ですべてが反転し、清々しいほどの盛大な種明かしをしてくれるので、何もかもが伏線だったと読者はそこで気づくのだ。最初に戻りたくなるが、グッと我慢して物語を読み進めていってほしい。次々と披露されていく真実の嵐に翻弄されることになるだろう。

香月と翡翠は第4章で連続殺人鬼と相対することになる。若い女性ばかりをナイフで執拗に傷つけ、痛いか痛くないかを聞き続ける、あの連続殺人鬼とだ。

翡翠はこの連続殺人鬼と対峙する前にこんな言葉を言っている。

「先生──わたしはたぶん、普通の死を迎えることができないのだと思います」

「予感がするのです。この呪われた血のせいかもしれません。妨げようのない死が、すぐそこまでこの身に近づいているのを感じるのです」

翡翠は自らが連続殺人鬼と勝負しなければならないことを感じていたのかもしれない。

しかし、このセリフすらすべての事実を一回転させる要素にすぎないのだ。

彼女はある方法で連続殺人鬼と真っ向勝負をすることなる。儚く、可憐で、人形のように美しい翡翠が打って出る、一種の賭けのような勝負だ。

ここで読者は彼女に対して今まで描いていたイメージすら根こそぎ変えられてしまう。

それはまるで舞台が暗転をし、次に目を向けると役者が全員交代しているような感覚を生むだろう。

まとめ

著者・相沢沙呼の鮮やかなテクニックに酔いしれたいのなら、ためらわず一気に第4章まで読むことをおすすめする。驚愕のトリックとすべてを反転させるロジックをここまで書ききった著者にため息が出るばかりだ。

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