ある日「僕」の家の隣に引っ越してきた特別な女の子。
それがユーリアだった。
日本人の父とロシア人の母をもつユーリアは、怒りっぽいけど天真爛漫。
大きな瞳に白いワンピースが似合う、とてもかわいい女の子。
ユーリアと仲良しになった僕は、ユーリアの父親の書斎へ招待される。
そこは、宇宙船の模型や宇宙の本など、ありとあらゆる宇宙のことについて知ることが出来る「秘密の図書館」であった。
そしてユーリアは僕に「夢」を語る。
月までの距離は384400キロメートル。
いつか必ず『宇宙飛行士』になって『月』へ行く
夢を。
幼い僕はユーリアに翻弄されながらも、彼女のとびきりの笑顔がなにより嬉しく、いつのまにやら彼女と同じ月へ行く宇宙飛行士を目指すことになっていた。
目次
こんな人におすすめ!
- 青春モノが好き
- 宇宙と月が好き
- 儚い恋の物語が好き
- ボーイ・ミーツ・ガールが好き
あらすじ・内容紹介
物語は僕とユーリアの2人を中心に展開していきます。
幼少期の出会い。
いつも一緒だった小学校低学年。
ひょんなことから大喧嘩をしてしまった小学校高学年。
年頃ゆえに心が離れてしまった中学校1・2年。
ちょっとしたことで、仲良しに戻れた中学3年。
仲直りできたものの、距離が離れてしまう高校1年。
そして再会を果たす高校2年。
しかし・・・
2人は、幼い頃からの「宇宙飛行士になって月へ行く」夢を見続けていますが、成長するにつれて、差が大きく出てきます。
宇宙飛行士へまっしぐらなユーリアは、トップレベルの学力を身につけ、学生論文が表彰されるほどの優等生に。
一方の僕はユーリアほどの本気度はありません。
しかし、後半。
2人の前に現れる残酷な運命により、僕の宇宙飛行士への夢は本物になっていきます。
ただ僕の宇宙飛行士になる夢の動機は一切変わっていません。
そう、すべてはユーリアへの思いから。
『ひとりぼっちのソユーズ 君と月と恋、ときどき猫のお話』の感想・特徴(ネタバレなし)
幼い2人のすれ違い
仲良しの小学生時代。
ユーリアはいつも『FLY ME TO THE MOON』の曲を口ずさみながら僕に宇宙について語ります。
私はソユーズで、あなたは私のスプートニク。スプートニクはソユーズより速く走っちゃダメだし運動が出来てもダメ。ずっと私のあとをついてくるの。いいわね
ツンデレ少女ユーリアのワガママが炸裂するセリフです。
キツイ言い方で僕を支配下に置きたがるユーリアですが、何だかんだで僕が好きな事が分かります。
そして僕もそれを当然のように受け入れ、当たり前のようにユーリアの後をついていってあげるのです。
僕の気の弱さと優しさも読んでいて魅力に感じます。
しかし、自然だった2人の関係も小学校高学年になるとやや複雑に。
優等生ゆえにクラスの女子から孤立しがちになったユーリア。
僕はユーリアを励ますため、運動会のリレーで金メダルを取ります。
僕は1番にユーリアに金メダルを見せたものの、身体が弱い彼女にとってそれは逆効果になってしまいます。
私のスプートニクなんだから私より先に行ったらダメって約束したじゃない
と怒るユーリア。
これは彼女の気持ちである「僕が先に行ってしまう事への寂しさ」を表しており、「置いていかないで。そばにいて」という事の裏返し。
一方の僕は、
スプートニクなんて知らないよ。僕のほうがユーリアより速く走れる。僕はもうユーリアのスプートニクじゃない
と反論。
「ユーリアのために頑張ったのになんで喜んでくれないの?僕は成長したんだよ」と訴えるのです。
お互い、大切に思っているのに素直になれず、すれ違いが起きてしまう。
以来、2人はギクシャクしたまま中学生になってしまうのです。
何とも寂しいです。
ユーリアを思えば、甘い誘惑にも打ち勝てる
「恋愛モノ」の重要な要素は俗に「障害」と言われています。
恋する2人の間に立ちふさがる障害。
昔の恋物語だと身分だったり、ちょっと前までは同性同士が障害であったりしました(最近は市民権を得てきました)。
ただ、恋愛モノの普遍的な障害といえば、2人の間に現れる、他の恋愛対象者。
そう、つまり「三角関係」です。
この物語でも僕の前に現れる、第三者「ミサキ先輩」が物語の味を深めてくれています。
中学3年になって仲直りした僕とユーリアでしたが、彼女はJAXAの父の転勤で種子島へ引っ越してしまいます。
ショックを隠せない僕でしたが、2人はお互い連絡を取り続ける事になります。
距離は離れていても心はいつもそばに
そんな言葉を体現するように2人は、お互いの勉強や日常の生活を語り合います。
ハロー、スプートニク、you copy?
ハロー、ソユーズ、 I copy
とまるで宇宙飛行士の様に。
一方、僕は高校陸上部の短距離走で体力づくりに邁進。
がむしゃらに練習するものの、結果はイマイチ。
そんな時、部のミサキ先輩があらわれます。
彼女は、女子陸上部に所属していましたが、怪我が原因で1年間は走れなくなっていたのです。
努力が報われる長距離に変え方がいい。短距離は才能の世界だから
ミサキ先輩にアドバイスされても、僕は一切気にしません。
なぜなら短距離が好きであり、タイムよりすべては「宇宙に行くため」。
そしてそれはユーリアと同じ夢を見るため。
そう、僕のすべての原動力はユーリアなのです。
ある時、ひょんなことから、僕とミサキ先輩は遊びに出かけ、僕は、超優等生のユーリアに引け目を感じている事をミサキ先輩に相談します。
幼い頃、僕たちは二人で月に行こうって約束したんです。だから僕も月に行きたい
実はミサキ先輩も僕と同じように、幼馴染の男子がいました。
いつも一緒で、いつも仲良しで、付き合っていた幼馴染が。
しかしその幼馴染は、高校生になると陸上を辞めてしまい、連絡も段々と減って彼女とはそのまま自然消滅してしまったのです。
そんな時、ミサキ先輩はがむしゃらに走る僕を見て、心を打たれてしまったのです。
一番になれるわけでもないのに誰よりも一生懸命に走っている。なんだか私を見てるみたいでほっとけなくて
その後、ミサキ先輩は僕に真剣な表情でこう言います。
ねぇ、私たち、二人で昔の事を全部忘れて楽しい事だけしない?陸上なんてやめて月を目指すのも辞める。私がそう言ったら君はどうする?ぜんぶ忘れてくれる?
このセリフは、婉曲ながらもミサキ先輩から僕への告白です。
「一緒に私と再スタートをしてくれないかな?」という。
しかし僕はこう答えます。
忘れられません。僕は、絶対にそれを忘れられないと思うんです
一生懸命なのに報われなかったミサキ先輩の切なさ。
短距離の結果が出せないものの、そんなことはお構いなしに宇宙、つまりユーリアへの思いに猪突猛進な僕。
気弱で優しいくせにユーリアのことになると俄然、強い男になる僕。
そんな魅力がつまったエピソードです。
「ソユーズとは?」旧ソ連の宇宙開発史
題名の「ひとりぼっちのソユーズ」の「ソユーズ」とは、冷戦時代、アメリカの最大のライバルであった旧ソ連のロケットのことです。
実は旧ソ連の宇宙開発は、時期によってはアメリカを凌ぐほどであり、人類初の打ち上げに成功した人工衛星は、アメリカではなくソ連でした。
その名も「スプートニク」。
そうです、物語で、ユーリアが僕につけた名前です。
ソ連がスプートニク打ち上げに成功した当時、アメリカを含めた西側諸国はこのことを「スプートニクショック」と呼び、ソ連に宇宙開発に負けたことを衝撃として受け止めたのでした。
この事件に闘志を燃やしたアメリカは「アポロ計画」を立案。
10年で「月に人間を送る」と宣言し1969年7月20日にその夢を実現させたのでした。
そして一方のソ連もアメリカに負けず、月面有人ロケット計画「ソユーズ計画」を打ち立てていました。
しかしこれは実現には至らなかったのです。
この歴史の事実は、本の題名「ひとりぼっちのソユーズ」にも込められているのです。
その意味するところはぜひ本書を読んで確かめてみてください。
まとめ
今回紹介した部分は、実は物語の全体の前半部分。
ボリューミーな後半部分は、高校生になって再会した僕とユーリアのお話を中心に進んでいきます。
また、300ページ近い分量なのに、主要な登場人物が僕、ユーリア、ユーリアパパ、ユーリアママ、ミサキ先輩、と5人ほど。
そのくらい僕とユーリアの物語に比重が置かれており、どっぷりと2人の世界につかることができます。
ぜひ本書を手に取って彼らの夢が実現するのかを確かめてみてください。
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