先日、BUMP OF CHICKENのサブスクリプションが解禁された。今回は小説家の額賀澪さんにインタビュー。
好きな本や今後のテーマ、更には深すぎるバンプ愛を語ってくれた。
例えばBUMP OF CHICKENが「傷」をテーマにすると、傷ついた悲しみよりもその傷が痛かったこと、そして傷跡の誇らしさを歌にする。バンプには何もかもを肯定してくれる優しさがある。
青春小説の名手と言われる額賀澪さんはBUMP OF CHICKENの音楽をどのように捉えているのだろうか。
額賀澪
小説家。2015年に『ウインドノーツ』で第22回松本清張賞を、『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞。2016年『タスキメシ』が第62回青少年読書感想文全国コンクール高等学校部門課題図書に選出される。
7月23日に『潮風エスケープ』を『夏なんてもういらない』に改題し、文庫本化。8月23日に『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、『心が叫びたがってるんだ。』の監督、脚本、総作画監督が再結成したアニメーション映画『空の青さを知る人よ』の小説版を担当する。その他にも『君はレフティ』の文庫化、競歩をテーマにした新作、『タスキメシ』の続編を刊行を予定している。
行き詰まったりするとバンプを聴きながら書きます
ーー普段はどんな音楽を聴いてるんですか?
よく聴いてるアーティストはBUMP OF CHICKENです。
私が中学生の時にバンプのブームが来て。『車輪の唄』とか『スノースマイル』をリリースしてた時です。あの時に好きになって。中高生の時に好きになった作家さんやアーティストって嫌いになれないんですよね。
同学年にバンプを好きな女の子がちょいちょい居て、普段はあんまり話さないのに、情報が公開されたり、アルバムが出た翌日は2人でキャッキャしてましたね。小説を書き始めたのもその時です。私の小説にちょいちょいバンプが出てくるのもそういう理由です。
デビュー作『屋上のウインドーノーツ』のワンシーンでバンプの『天体観測』を出したんですけど、そこが入試問題で使われたんですよ。
入試問題って前後の文章がないので固有名詞に注釈がつくじゃないですか。そしたら「『天体観測』は、日本のロックバンドBUMP OF CHICKENの楽曲」という注釈が入って。ツイッターとかで検索したら「入試にバンプが出てきてテンション上がった」ってコメントがあったりして。とにかく嬉しかったです。
『風に恋う』でも使いました。主人公のお姉ちゃんがカラオケでバンプばっかり歌うシーン。
主人公はサックスの練習をしに行ってるんですが、途中で飽きてしまったお姉ちゃんのためにバンプの『天体観測』を吹く。
そういう時って編集さんから「実在のバンドを登場させる意味あります?」と言われることも多いんですが、編集さんにも気持ちが伝わったのか、ボツになることもなくそのまま使われました。
ーーBUMP OF CHICKENを好きな理由はなんでしょうか。
詩が好きだったんですよね。「BUMP OF CHICKEN」ってバンド名を訳すと”弱者の反撃”じゃないですか。
弱い人とか、疲れちゃってる人にすごい寄り添ってくれる歌詞を書かれる方だなと思って。今の自分もこれで良いんだなと思わせてくれるところが好きです。
私が書きたいなと思ってる作品って、そういう世界なんですよ。弱い人に寄り添える物語が好きなんだと実感した時に偶然、そういう曲をつくるバンドに出会えたのは大きかったです。
バンプに出会う前に、出会った作家さんが重松清さんなんです。重松さんも弱い人や間違えてしまった人に寄り添う話を書く方なんですよね。こういう風になりたいなと思っていましたね。
ーーどういう時に聴くことが多いですか?
小説を書いてる時ですね。
無音だと集中出来なくて、喫茶店だと会話を聞き入ってしまって。行き詰まったりするとバンプを聴きながら書きます。
なんか展開が違うルートに入っちゃったかなとか、道は合ってるはずなんだけど何か進まないとか、結構悩むんです。そういう時にバンプを聴きます。
バンプを聴いてると1時間くらい書けなかったところをとりあえず3文字書けるようになって、3文字書けると1行書けて。1行書けると…って芋づる式に書けるようになっていく。
ーーニューアルバム『aurora arc』が7月10日に発売されますね。
速攻で予約してライブのチケットも取りました。
高校まで田舎に居たのでライブに一切行けなくて。上京して大学に行くってなったら、まずこれからはライブに行けるぞって思うじゃないですか。
作家になりたいと思って上京して、その時に聴いていたのがバンプの『銀河鉄道』。
物悲しいなかに決意が見える歌なんです。ウォークマンで『銀河鉄道』を聴きながら東京駅に降り立って、作家になるまでライブには行かないと決めました。
なので、みんながライブに行っているなか、私はCDを買って過ごしましたね。
大学を卒業して社会人2年目くらいでやっとデビュー出来た時に、これでついにライブに行けるって思いました(笑)
社会人って意外と時間がないじゃないですか。平日は仕事で行けないし、土日はチケット当たらなくて。
結局、作家になってからも2年くらいライブに行けなかったです。受賞したことで運を使い切ってしまったんだなと思いました。
2017、2018年のツアー『PATHFINDER』でやっとチケットが取れて。その時には会社を辞めていたので何も怖いものはなかったですね。
『銀河鉄道』から9年、念願の幕張メッセでした。今まで落ち続けてたのがあってか、めちゃくちゃ良い席で。その感動は忘れられないですね。
今回は2枚申し込んで2枚当たりました。行けるときに行こうと思いました。推せる時に推しとかないと。
ーー作家さん同士で好きなアーティストの話をすることはありますか?バンプ好きな方もおられそうですね。
実は以前に福岡の作家、清水朔さんとバンプきっかけで仲良くなりましたね。
クリスマスにバンプの『Merry Christmas』に沿わせてTwitterで呟いたら、清水さんが初めて返信をくれて。
それからDMで「どの曲が好きですか?」って話になって。初めて福岡で会ってお話しする機会があったときに盛り上がりましたね。
ーー音楽が入り口になることって結構ありますよね。僕たちはBook Ground Musicという本に音楽を合わせるWebサービスを展開しているのですが、音楽が読書への入り口になればいいなと。
一冊の本にたどり着く道って何本あってもいいと思うんです。
音楽を入り口にするのってアリだと思いますね。Twitterで『ウズタマ』にKing Gnuの『白日』を合わせているのを見つけて。ちょうどその頃、取材している女子高生にKing Gnuを勧められていたので、それがきっかけで聴くようになりました。
小説って学校でテストとか授業で取り上げられても、なかなか楽しめないことが多いと思うんです。普通に読んだら面白いのに。もったいないですよね。
私、小学生の頃から体育が苦手で。体育の授業そのものが嫌いっていうより、私は図書室で本を読んでいたいのに休み時間は外で遊ばないとダメって言われるのが嫌で。
だから、休み時間のドッチボールとかも好きじゃなくって、結果として体育も嫌いでした。
読書もそれと似ていて、「本を読みなさい」って強制されたせいで嫌いになってしまう人って、意外と多いと思うんですよね。
ーーやらされてると途端に面白みを見失ってしまいますね。
読書だけじゃないですけど、何かに一生懸命になったり夢中になる人に対して、「それが何の役に立つの?」とか「何の利益があるの?」って言う人が多いじゃないですか。読書って別にそういうものじゃないと思うんです。
私の本も読書感想文の課題図書に選んでいただいたけれど、感想文って本当に難しくて。読んでどういう影響を受けたかじゃなくて、「僕自身は何も変わらないけど面白かったです」っていう答えがあっても良いと思うんですよね。
主人公に良い感情を抱く必要もない。『風に恋う』の主人公は吹奏楽部の部長でありながら、部長らしいことは一切出来てなくて、自分のソロパートを一生懸命やっているんです。
本当に部活で部長をやってる人からしたら、「この主人公、呑気でむかつく」って思うんじゃないかな。
伊坂幸太郎さんの『砂漠』とBUMP OF CHICKENの『R.I.P.』
ーー額賀さんが本に音楽を鳴らすとしたらどういう組合せにしますか?
伊坂幸太郎さんの『砂漠』がすごい好きで。
『砂漠』を読むとバンプの『R.I.P.』という曲を思い出しますね。
本を読む前後に聴いていたってこともあって。曲の主人公は友達や家族がいて幸せに生きているんです。でも、この人と出会わなかった未来があったかもしれないって思う歌なんですよね。
いろんな人と偶然出会って、偶然繋がっている今が、すごく愛おしいと思ってる。友達のなかに自分がいなかった未来があったかもしれない。『砂漠』を読むとそれを思い出すんですよ。
『砂漠』は、大学に入学した青年が、4人の同級生と出会い、麻雀したり合コンしたり、犯罪者を追いかけたり、5人の大学生活を描いた物語です。
歌詞というよりも、感じ取れるものが似ているように思います。悲しい事件が起こって、5人の間に距離が出てしまったりもする。それでも、5人それぞれが5人でいる時間を大事に思ってるんですね。
ーー今の友達と出会わなかったこともあるかもしれないと思うと不思議ですね。
今でも仲のいい大学生時代の友人がいるんですが、その人との出会いはゼミでした。
しかも希望制じゃなくて学籍番号が同じ人が入るって振り分けなんですよ。だから私がいたゼミはみんな、学籍番号のおしりの数字が6番なんです。
そのなかで気が合う人たちと2年生も同じゼミにいって、卒業してからも3ヶ月に1回くらい会って仕事の愚痴を言ったりしてました。
でも、遡っていくと学籍番号が6だっただけなんですよね。友達ってそういう偶然が積み上がってできちゃうもので。
それこそ中学生の時にバンプ繋がりで仲良くなった人に話しかけたのは、iPadに『ユグドラシル』のジャケットが見えたからです。
もし視界にジャケットが見えていなかったら話しかけていない。今の生活って意外と脆いキッカケで出来ているんだなと思いますね。
友人との関係や自分の日常をそんなふうに見つめ直すと、『砂漠』を読んだ時に『R.I.P.』を思い出すんです。
『風に恋う』『イシイカナコが笑うなら』に音楽を鳴らすなら
ーーご自身の本に音楽を鳴らすとしたらどういう組み合わせにしますか?
『風に恋う』はずっとバンプの『firefly』を聴きながら書いていたので、それを思い浮かべますね。
好きな歌って年齢や心情とともに入れ替わったりするじゃないですか。今はこの曲が一番好きで。
強く憧れていたものを目指すことが生きてる証って感じていたけど、どこかで諦めなきゃいけなくなった。それでも憧れてた光っていうのは蛍みたいに目の前を飛んでる。『風に恋う』で言いたいことと似ていたんですよね。
もう一つ、文芸誌で連載していた『イシイカナコが笑うなら』という作品があるんですが、執筆の時によく聴いていたのがやっぱりバンプで、『HAPPY』のカップリングだった『pinkie』。
物語の世界観をぎゅっと5分に凝縮されたように感じたんです。連載は筆が進まなくても意地でも書かなきゃいけない。迷ったらこの曲を道しるべにしようと思って聴いていましたね。
小説を書ききるための地図はあるんだけど、視界が真っ暗で読めない、ってことは意外と多いんです。そういう時に明かりになってくれるのがバンプの曲。懐中電灯みたいな曲ですね。
心にシミを残して終わる物語がたまらなく好きですね
ーー「青春」について書かれることが多いと思うのですが、額賀さんの思う「青春」とは何でしょうか?
青春小説っていうと、なんとなく思い浮かべるのは、学生生活だと思うんですよね。
「日常に対する葛藤を抱えている主人公が、新しい出会いと経験を通して成長する」っていうのが青春小説と思われがちだし、実際私も好きではあるんですが、そのパッケージの奥底にあるのって、それだけじゃない気がしていて。
「全く同じではないけど、自分にもそういう時代があったし、大人になった今もそのカケラがあるな」って感じられるのが青春小説かなと思ってます。書き手としてはそういう所を大切にしたいです。
「若者が青臭い夢を語りながら目標に向かって頑張ってる、若いっていいな」という感想だけじゃなくて、そこから自分の生活を振り返ってみて、物語のなかに自分と同じカケラを見つけられるのが大事なんだろうなと思います。そこを忘れて、分かりやすい物語に書き手は逃げちゃいけない。
ーー実際の青春って空っぽだったり、血生臭かったりと、マンガやドラマで見る青春とは掛け離れてしまいますもんね。
私自身、そんな青春送ってないです。行き帰りのスクールバスでバンプ聴いて、図書館で本を読んでただけ。
でも共通点はあるんですよ。やってることは違うんだけど、同じことを考えたり感じたりしてました。それってすごく大事で。
結局、社会ってそうしないと成り立たないじゃないですか。自分と同じ人間はどこにもいないし、全然違う人間なのに同じものを好きになったり、同じものに怒ったりする。
そうやって他者に歩み寄れる瞬間を小説のなかでは書いていきたいなと思ってます。
ーー怒涛の刊行予定がありますが、今後の挑戦してみたいテーマは何かありますか?
今まで自分がやってきた青春小説とは違ったテーマが書いてみたいなと思っています。
私、推理小説よりも犯罪小説が好きなんです。推理して謎を解くというより、1つの犯罪をいろんな視点から紐解いていく小説が好きですね。『ウズタマ』も少しだけその要素が少し入ってるんですけど。塩田武士さんの『罪の声』も大好きなんです。
ーー犯罪小説は深く引き込まれますよね。
「この小説面白かった」って、「感動して泣いた」とか「胸が温かくなった」とか、プラスの感情を持つ面白さであることが多いと思うんです。
でも、マイナスの感情を持つ面白さってあるじゃないですか。「悲しいし辛いし胸糞悪いけど、超面白かった!」ってやつです。
映画で言うと新海誠監督の『秒速5センチメートル』が私は堪らなく好きなんです。観る人をズタボロにして映画館から追い出すあの感じが。そんな、読む人に傷を残すような小説を書きたいです。
この前、吉田修一さんの『犯罪小説集』を読んだんです。本当に面白かった。
5つの事件を描いた短編集で、人間のどうしようもなく弱い部分や歪んだ心を、これでもかというくらい描いた作品です。どれもやるせないんです。犯罪者と自分の境界線がわからなくなる感じ。
ミステリーだと解決があるじゃないですか。主人公や読者からすると、事件の解決が1つの「問題のクリア」になる。犯罪小説にはそれがないことが多い。見えなかったものを紐解いていっても、爽快感や達成感があるとは限らない。見たくないものを見せられて終わる。
でも、そういう心に傷を残こして終わる物語って良いなと思います。吉田さんの醸し出すやるせなさとか、心にシミを残す物語がたまらなく好きですね。
読者の欲求通りに気持ちよくマッサージしてくれるような物語って多いですけど、吉田さんの物語は真逆。
一生残るような深めの傷ができますね。でもその傷がいい。読むたびに今度はどんな傷を残してくれるのかなとワクワクしますね。
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