読書好きには音楽の、音楽好きには読書の魅力を伝えるクロスカルチャー・インタビュー企画第7弾。
今回のゲストは、文学YouTuberベルさんや音楽・ガジェット系YouTuberセゴリータ三世さんも絶賛の青春小説『まったく、青くない』の著者、黒田小暑。
ご自身の作品紹介、執筆で意識していることなども含め、「好きな音楽」について存分に語ってもらった。
黒田小暑(くろだ しょうしょ)
1994年生まれ、福岡県出身。2019年、『春がまた来る』で第20回小学館文庫小説賞を受賞。受賞作を改題し、『まったく、青くない』でデビュー。趣味はYouTubeを観ること。好きなアーティストはKing GnuとWANIMA。
青春時代の葛藤を描く「まったく、青くない」青春小説
ーーデビュー作『まったく、青くない』はどのような作品か教えてください。
天性の歌声を持つギンマと、彼の才能を信じて集まったサミン、ランジ、ハル、4人の大学生を中心とした物語です。
彼らは、ギンマの音楽活動を支えるため、東京の端のシェアハウスで共同生活をしています。
男女4人の関係は美しい均衡を保っているかに思えましたが、卒業が近づくにつれ、それぞれが隠していた秘密が明らかになっていきます。
家族の問題、友人との関係、恋愛の悩み、金銭的な不安、将来への迷い。
青春時代に誰もが経験するであろう葛藤を余すことなく描いた、「まったく、青くない」青春小説です。
King GnuのビジョンとWANIMAのセルフブランディングが魅力的
ーー普段聴いている音楽、好きなアーティストやジャンルなどを教えてください。
小学生のときにORANGE RANGE、中学生のときにBUMP OF CHICKENが流行り、それをきっかけに音楽を聴くようになりました。
邦楽ロックを中心に、UK、USロック、ヒップホップ、クラブミュージック、歌モノも聴きます。
いまはKing GnuとWANIMAが特に好きです。
ーーアーティストや曲の好きな所、エピソード等について教えてください。
King Gnuは、「売れる」というシンプルで明確なコンセプトのもと、しっかりとしたビジョンを持って活動しているところが共感できます。
もちろん、曲もいいですし、メンバー1人ひとりの技術力も魅力です。
WANIMAは、セルフブランディングがうまいと思っています。
例えば、いつも「LEFLAH」というブランドの服を着ている点や、メンバーそれぞれのキャラクター、ライブでの演出などです。
楽器の色味や、CDジャケットのテイストなども統一されていて、世界観の徹底がすごいと感じます。
何より、どんなときもファンのことを考えてくれる姿勢が素晴らしいと思います。
デビュー作『まったく、青くない』の著者紹介でも、King GnuとWANIMAの名前を挙げさせていただきました。
やる気が出ないときは『情熱大陸』を繰り返し聴きます
ーー音楽によるご執筆への影響やエピソード等について教えてください。
WANIMAのPVをYouTubeで探しているときに、偶然、セゴリータ三世さんというYouTuberがWANIMAについての動画をアップしているのを見つけました。
セゴリータ三世さんは、音楽がお好きで、色々なアーティストの方々とコラボしたり、音楽業界のさまざまなニュースに切り込んだりしているYouTuberです。
WANIMAをきっかけに、セゴリータ三世さんの動画をよく観るようになり、『まったく、青くない』刊行の際には、セゴリータ三世さんから巻末に素晴らしい解説文をいただくことができました。
音楽が繋いでくれた縁だと思っています。
なかなか執筆のやる気が出ないときは、葉加瀬太郎さんの『情熱大陸』を繰り返し聴きます。
まるで自分が『情熱大陸』に出演しているかのような気分になって、ものすごくはかどります(笑)
だんだん、音楽が聴こえなくなるくらい集中してきます。
My Hair is Badの『グッバイ・マイマリー』のような的確な描写を意識しています
ーー普段のご執筆で意識していることを教えてください
言葉を「選ぶ、削る、絞る」ことを意識しています。
小説は、文字数に制限がない文学です。
だからこそ、同じ内容でも少ない文字数で伝えられたほうが美しいと感じます。
その点、音楽は、「メロディー」という制約がありますよね。
音楽である以上、歌詞はメロディーとはまっていないといけない。
「こういう歌詞にしたい!」と思っても、それがメロディーと合っていなかったら、どちらかを調整せざるを得ない。
My Hair is Badの『グッバイ・マイマリー』という曲の歌詞は、そういう意味で、非常に執筆の参考になると感じています。
特にAメロ。
「僕」や「彼女」がどういう人なのかというのを、「柔らかいパスタ」「五百円の飲み放題」「たった二杯のレモンハイ」「酒肴としてのデザート」といった具体的な物事から浮かび上がらせている。
「彼女は料理が下手」「彼女は酒に弱い」と直接的に説明するよりも、「彼女」の人となりが伝わってきます。
また、そんな「彼女」を「僕」がどう見ているか、という「僕」の視点も知ることができます。
たった1分ほどのAメロに、最低限の文字数で、必要十分な情報が入っている。
自分の小説においても、こういう的確な描写ができるように意識しています。
竹内真『カレーライフ』に合うのは奥田民生の『さすらい』
ーーおすすめの本と音楽の組み合わせを1つ教えてください。
竹内真さんの『カレーライフ』という小説が好きです。
20歳になる直前に父親を亡くしたケンスケという青年が、カレー屋の開店を目指して、世界中に散らばったいとこたちを訪ね歩く、という物語。
美味しそうなカレーがたくさん登場するグルメものでもあり、若者たちが世界中を旅する紀行ものでもあり、主人公の思い出のカレーの謎を探るミステリーものでもあり、そしてさまざまな経験を通して主人公が成長していく青春ものでもあります。
中学1年生のとき、初めて自分で買った、児童書ではない「大人の」本。
いまでも、わたしのバイブル的な作品です。
わたしはずっと、この物語には奥田民生さんの曲が合うと感じています。1つ選ぶとしたら『さすらい』ですね。
『さすらい』は、そもそも旅について歌っている曲、というのもありますが、曲全体の緩さや気の抜けた感じが、『カレーライフ』の雰囲気と合っている気がします。
『イージュー☆ライダー』ほどは気合いが入っていない感じ。
『カレーライフ』の登場人物たちには、もちろん悪いことや悲しいことも降りかかるのですが、それも含めて楽しんでいるのが「さすらい」イズム、奥田民生イズムと共通するのではないか、と思います。
『まったく、青くない』に鳴らす音楽は?
ーーご自身の作品に鳴らすならどの曲かを教えてください。
ACIDMANの『式日』です。
『まったく、青くない』を書いている間、頭の中に流れていた曲はいくつかありました。
でも、書き上げて、発売日を迎え、いくらか時が経ったいまは、この曲が一番しっくりきています。
登場人物の1人であるギンマは、アコースティックギターを弾き語るシンガーソングライターですが、物語全体にはバンドサウンドが合う気がしています。
『式日』は、エモーショナルで抽象的な歌詞ですが、サウンドは力強い。
その対比が、現在は不安定ながらも必死に未来へと踏み出そうとする『まったく、青くない』の登場人物たちと重なる気がします。
また、歌詞にも「春」「光」「歌」「声」「夜」といった『まったく、青くない』を思わせるような言葉が入っています。
そのものすばり、というわけではありませんが、なんとなく、同じような物事を描こうとしている気がします。
おわりに
ーー今後の活動についての意気込みをお願いします。
まだ1冊出したばかりですが、わたし自身も、自分がこれからどんな作家になれるのか楽しみです。
いまは、とにかく書き続けていきたい気持ちでいっぱいです。
自分自身も含めた、どんな人のどんな「生」をも肯定してあげられるような小説を書いていければいいな、と思っています。
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