ーTrack No.1 『Pray』([Alexandros])ー
『Pray』。
祈るという意味だが、同時に『懇願する』という意味を持つ。
暴力的なまでの哀切さを秘めた楽曲だ。孤独であるがゆえの悲しみ、崇高であるがゆえの孤立。
この曲を解き明かすために、少し触れておかなければならないことがある。
2018年の11月に発売された、『Sleepless in Brooklyn』についてだ。
『Sleepless in Brooklyn』について
このアルバムには、過剰なまでの暴力性(負の部分)と、世界の美しさ(正の部分)が交互に出現する。それらがシーソーのように傾くことによって、曲の表情を豊かにしているのだ。
収録されている楽曲はどれも、自己犠牲による献身愛か、相反する攻撃性が宿っている。
いわば一見さんお断りの「おもちゃ箱」、あるいは「箱庭」のような作品であるととらえた方が話が早い。心の叫びをそのまま作品に仕上げているため、どの曲も非常に刺激的だ。
孤独であることを望みながらも、どこかで注目してほしいと願う。命を絶ちたいと思いつつも、生かしてほしいと望む。人間の心が持つ性質ならではの矛盾を併せ持っていたのだ。
Prayとアルペジオの共通点
話をPrayに戻そう。
この曲は『Sleepless in Brooklyn』に繋がるものととらえて、差支えがないだろう。
「私」の視点から楽曲がはじまるアルペジオに対して、Prayでは、男性が主人公だ。
このことからも、私はPrayが『アルペジオ』のスピンオフ作品ではないかと見ている。その証拠に、Prayとアルペジオ、二つの歌詞には共通点がある。
『胸の奥でどんな本音 揺らぎ せめぎ合っているか 知る由もない 云う必要もない 君だけのものだから』-(Pray)
『あなたの哀しみはあなたの物』-(アルペジオ)
(どちらも作詞:川上洋平)
あるいは、同一人物の中に存在する「男性」と「女性」、二つの視点がせめぎ合っていると考えてもいい。
アルペジオは「私」が苦悩した末に決心する物語であり、根の深い闇がそばにあった。私たちは彼女に干渉することができなかったし、その逆もあり得なかった。結局、彼女は自身の孤独を、他人に頼ることなく処理していかなければならなかったのだ。
しかしPrayでは、闇に白い光が差し込み、誰かの前で祈ろうとする「救い」の存在が出現する。「私」に救いをもたらした人物こそが、Prayで出現する「僕」だ。
まとめ
作者(ここでは川上洋平)は、どうしてもアルペジオの主人公に、餞別としての救いを渡したかったのだろうと推測している。
Prayは、作者の優しさによる救い、残酷な世界に唯一与えられた希望の光(蜘蛛の糸)であると言えるだろう。
この歌に本を合わせるなら
夭折した天才作家、伊藤計劃の三部作のうちのひとつ、hermony(ハーモニー)だ。
カリスマ的な女性、御冷ミァハ(『ミヒエミアハ』と読む)を中心に、主人公の霧慧トァン(キリエトアン)と零下堂キアン(レイカドウ-)、三人の少女の運命が複雑に交差するSFの金字塔。
今回は、主人公目線で選ばせてもらった。
なぜ、彼女(トァン)がミァハのために祈らなければならないのか。一人称が私ではなく「僕」であるのか。ぜひ、読んでから考えてみてほしい。
『祈りたいよ 君のために 迷わないよう 光差すよう』
(作詞:川上洋平)
この記事を読んだあなたにおすすめ!
『ボカロの歌詞と音楽が頭の中で鳴り出すライトノベル10選【動画あり】』ボカロとラノベの融合。名作・隠れた傑作を中心にセレクトされ、書き手の情熱と、新たな可能性を感じる記事に仕上がっている。
書き手にコメントを届ける