ーTrack No.3.5『モス』(サカナクション)ー
水中都市の地下にあった繭が裂け、白くて巨大な生物が孵る。
今回紹介する楽曲、『モス』はモスでも、苔のMossではない。蛾の方のモス(Moth)だ。
蛾が繭から孵る様子から、マイノリティという意味付けを行った、斬新な一曲となっている。
既存作品に対するリスペクトと「カウンター」ー山口一郎の世界観
『繭割って蛾になる マイノリティ』-(歌詞:山口一郎)
この楽曲は、山本リンダなどの、昭和の歌謡曲のオマージュとなっている。
『どうにもとまらない』が蝶であるなら、こちらは蛾だ。
日中に主に活動し羽を畳んで止まる蝶は、たとえて言うならば、万人受けするキラーチューンだ。
対して羽を広げて止まり、主に夜に活動する蛾は、表舞台にはあまり姿を出さない。
いつだって既存作品に対するカウンター(反抗)を試みてきたサカナクションだからこそ、出せた曲なのだろう。
『普通である人々への対抗策』としての音楽
もともと、この楽曲は「マイノリティ」というタイトルだった。
既存作である「アイデンティティ」と対となる作品だったのだ。
「僕、本当はこの『モス』は、『マイノリティ』っていうタイトルで書きたかったんですよ」ー『MUSICA』(Vo.147)p41
言われてみれば、どことなくテンポが『新宝島』や『アイデンティティ』を意識しているように聴こえる。
もしかしたら過去作へのカウンターという意味なのかもしれない。
『比べても 負けるとわかってたんだ』ー(歌詞:山口一郎)
周りと自分を比較しても、意味はないということ。
誰かに避難されても、必ず自分にとって『次の場所』は見つかるということ。
この楽曲には、そういった「マイノリティ」に対する応援歌の側面も持っている。
まとめ
『モス』は、サカナクション、ひいては山口一郎の新たな進化としての一曲である。
過去作へのオマージュであると同時に、90年代のニュー・ミュージックのリメイク。
北海道と東京、二つの故郷を行ったり来たりする、サカナクションならではの『原点回帰』の一曲となっている。
過去作と聴き比べてみるのも、一考の余地ありだ。
この曲に本を合わせるなら
岡本太郎の『今日の芸術』だ。
固定観念を破壊し、新しい基準を作り上げた鬼才、岡本太郎の美術評論書。
あの名作『太陽の塔』をはじめ、彼の作品には魂の躍動と、生命の叫びが生々しく描かれている。
真の芸術とは何か、人の『心』を動かす作品を作るために、人間はどうあるべきかを思い起こさせるための一冊だ。
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