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【現実とフィクションの境目を見失う朗読会へようこそ】幻の作家・尾崎翠が『第七官界彷徨』を生み出すまでの苦悩をえがいた幻のイベント(東京・平井)

前説

本日は、お忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。
たなかかなめ展『border crosser』のクロージングイベント、まもなく開演いたします。

司会は、彗星読書倶楽部が務めさせていただきます。

此処、平井の本棚の2階スペースを拝借し、これから上演いたしますのは、ドラマ『29歳・おもかげを風にあたえよ』の脚本を再構成したものでございます。このドラマの原作は、尾崎翠の小説、『第七官界彷徨』です。

朗読者はクラトクラ。

舞台となる畳の上でなければ、どこでご覧いただいてもかまいません。

どうぞ最後まで、ごゆるりと、お楽しみくださいませ。

開演

耳で触れる

我々の頼りは、円柱型のライトだけ。蛍光灯が消された室内の薄暗さにまだ目が慣れず、まばたきを繰り返す。

耳をすますと、向かいの平井駅のホームに電車が入ってくる音がした。あの鉄の塊はたくさんの人びとを吐き出し、飲み込み、そうしてまた去っていくのだろう。
この部屋には、乗り降りする人びとよりずっと少ない数の人間が集っている。思い思いの場で前方の光を見つめ、待っている。

扉がきしむ音が耳に届いた瞬間、空気がぴりっと緊張した。そちらへ目を向けると、美女が、百合の花束を手に持った着物姿の美女が、ゆっくりと歩んできた。

美しい……。

室内にいるすべての人間の目を釘付けにするほど、彼女のまとっている雰囲気は蠱惑的だった。いや、ほかの人間がどうなっていたかなんて、わたしにはわからない。彼女以外、見えなくなってしまっていたのだから。

先ほど司会が「舞台」だと呼んだ畳の横で彼女は止まり、端に腰掛ける。
草履を片方ずつ脱いでいく姿が色っぽい。こんなにまじまじと見つめてよいものなのか、とためらってしまうくらい……。


花束をそっと畳の上に置くと、撫でるように一輪、持ち上げた。その一輪もうっとりと、彼女に見惚れて、されるがまま。頬を染めているかのような薄桃色の花のふちに、彼女の指先が接吻した。あっ、と言う間もなく、ぷちり、とかすかに音が聞こえた。

一片の花びらとなったそれは、すがることもできずにおちていく。
再会した畳の衝撃に驚く間もなかっただろう。もとは一つの身体だった花びらたちが降り重なり、最初の一片は見えなくなった。

唯一残った茎は貧相なたたずまいで助けを呼ぼうとするも、彼女の片手の中で握り折られた。百合の声は届かなかった。

はっと我に返ると、部屋には歌声が満ちている。

彼女の横顔を、着物の柄の百合を、暗さにだんだん慣れてきた双眼がとらえていく。帯にも百合が咲き乱れていた。

photo by @hirai_hondana (Twitter)

背中で語る」と評された知り合いの女優をふっと思い出す。
目の前の演者も、そのタイプなのだと感じた。表情で訴えずとも、声の緩急で巧みに観客を惹きつける。

台本を見て「読む」ところもあったけれど、「話しかけられている」と感じるところが多々あった。
暗さは空間を狭め、まるで、彼女とふたりきりかのよう。こちらを向いていないから、まだ冷静を保っていられるけれど、目を見つめられてささやかれたら……たまらない。

まぶたを閉じ、聴覚だけを頼りに内容を拾っていく。

「外は冷えます。とにかくお入りなさい」

「アップルパイでもあれば紅茶もいれましたのに」

「列車がたくさん人を乗せて、うちの庭を通っていくんだもの」

ちょうど、例の鉄の塊が平井駅をとおっていく。なにかを叫んでいるようなその音は、たっぷり間を取った彼女によって、立派な効果音となり、大きな存在感だけを残して去っていった。


口調が変わり、ある女性の“勉強”について語られていく。

「人間の第七官にひびくような詩を書いてやりましょう」

繰り返される、聞きなれない単語。「話をしている女性」でさえ、それを知らないと言う。

だれもわからぬまま、“ダイナナカンカイ”ということばが宙を漂う。その音がくるりくるりとわたしの周りで踊る。
ことばをとらえきれずに戸惑い、油断していたわたしのこころの、かつて存在していた隙間がノックされる。

「私がね、ほしかったのは、失恋なのです」

「失恋だって立派な恋愛だわ」

えぇ、失恋で人は大きく変わる。その前にはもう戻れない……。
慌てて記憶の扉を閉めたけれど、苦い後味は広がったまま。

「おもかげを……」

また口調が変化し、淡々と進む。終わりへ向かっているのだと、隙間の具合を確かめていたわたしは気づかない。
彼女がはじめて振り向き、明るくなったことで、ようやく現実に引き戻された。けれど、どこかまだ夢心地なわたしは、ぼんやりと彼女を見つめることしかできない。

朗読を終えてほっとした様子の彼女は、それまでの張りつめた美しさが嘘のように、柔らかな空気をまとっている。友人と談笑する姿は、年相応のかわいらしさがあった。

目で触れる

ここからは、朗読されたテキストデータをいただいた筆者が、(理解した範囲で)この作品を紹介していきます。
知れば知るほど頭が混乱する、ふしぎなものとなっていました。


このイベントでは、

『第七官界彷徨』という小説
を、原作としたドラマ『29歳・おもかげを風にあたえよ』の脚本
を、再構成したテキスト「24歳・おもひを野に捨てよ」

を、朗読したのだそうです。

ややこしいですね。
作中はさらにややこしく、

小説の登場人物である町子と三五郎の台詞
を、小説の作者である(尾崎)翠が引用して話す
のを、朗読者のクラトクラさんがひとりで演じたのです。


尾崎翠(おざき・みどり)
1896年12月20日 鳥取県岩美郡岩井村(現 岩美町)生まれ。
1971年7月8日 74歳で亡くなりました。

近親者でさえも翠が小説家であったことを知らなかったそうで、「幻の作家」とも称されます。

『第七官界彷徨』
1933年に刊行された作品。
それ以降何度も出版され、長年多くの人に愛されてきたようです。

のぞゑのぶひささんによって漫画化されたことからも、その人気は衰えていないことがうかがわれます。
発売日は2018年12月8日。朗読会の約1週間前でした。


朗読を聴いたときに、
  1. 登場人物はひとり
  2. 第七官と第七官界はほぼ同じもの
という勘違いをしてしまっていました。
目で触れたことにより、認識をあらためました。

①登場人物
テキスト「24歳・おもひを野に捨てよ」では、小説家の翠が、小説『第七官界彷徨』を書こうと苦悩している姿がえがかれています。

テキストの表記
『第七官界彷徨』……町子/三五郎
『29歳・おもかげを風にあたえよ』……翠/みどり/年下の恋人

みどり”は、将来完成する「小説」を読んでいるらしく、町子と三五郎の台詞を引用しています。

年下の恋人”は、翠のもとに夜遅く訪ねてくる人物です。しかし台詞は一切ありません。間をたっぷりとっていることや、翠の口ぶりから、相手が居ることは伝わってきました。

②ダイナナカンとダイナナカンカイ
音が似ていることから、意味も似たものかとおもい、区別できていませんでした。

冒頭で翠は、“第七官界”をおもいついたものの、書けない……と悩んでいます。なぜなら、当の本人にもそれがよくわかっていないからなのです。

町子は“勉強の目的”として、以下のことを語ります。

「人間の第七官にひびくような詩を書いてやりましょう」

そのくせ、彼女はそれがどのようなものか、よく知らないのです。

翠も町子も理解していない“ダイナナカン(カイ)”。


第七官
人間の感覚全体を指すことばとして、「五感」があります。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。
その五感を越えたものを「第六感」と呼びます。勘がいい人はこの感覚が強いと言われますね。

さて、問題の“第七官”とは、それらをさらに超えたもののようです。

第六感でさえ説明しがたいのですから、彼女たちがわからずとも当然なのでしょう。

第七官界
これは、小説『第七官界彷徨』のことのようです。

テキスト内で、作者である翠は、「人間の第七官にひびく詩を書きたい町子の世界」の小説を書こうと、悩んでいたのでした。
そうして終盤、「書けそうな気がする……」と、ひらめいた様子がえがかれています。


実際に小説を読んだことがある人は、『第七官界彷徨』が誕生するまでの過程におもいをはせる内容となっていました。
一方、これから読む人は、「あのように苦労してこの小説は生まれたのか」とおもいつつ、小説を読むことができそうです。

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