若者に人気の「ライトノベル」というジャンル。
あなたはどのくらいこのジャンル、分野について知っているだろうか?
恋愛もミステリもSFもホラーも包含する幅広い「ライトノベル」の魅力を知れば、きっとあなたも「ちょっと手に取ってみようかな」と思うはず。
魔境のジャンル「ライトノベル」の森
ライトノベルは魔境のジャンルである。
というのも、ライトノベルには明確な基準がなく、必要な条件も曖昧なのである。
一応、「これ」というものを列挙してみる。
- 漫画、萌え絵(美少女系)のイラストレーション、挿絵を多用している
- 若年層(特に中高生)をターゲットとしている
- 登場人物のキャラクターやイメージがあらかじめ固定されている
- 作者がライトノベル作家を自称している
となっているが、これらは客観的な定義にはなっていないとのこと。
「ライトノベル完全読本」では、
表紙や挿絵にアニメ調のイラストを多用している若年層向けの小説
と一応定義づけしているので、これがいちばんわかりやすい説明かもしれない。
推理作家の森博嗣(もり ひろし)は、
会話が多く読みやすく、絵があってわかりやすい小説
と作家ならではの視点でライトノベルについて明解に答えている。
ライトノベルの文章の特徴としては、
- 地の文が少ない
- 会話文が多い
- 会話のテンポがいい
- 改行が多い
というのが挙げられる。
ライトノベルのターゲットになる読者は主に中高生だ。
あまりにもダラダラと状況や世界の説明をしたり、心中の吐露を地の文でしてしまうとそれだけでページが真っ黒になり、読む気を削いでしまうかもしれない。
中高生の大切な読書のキッカケになる要素を多く含むライトノベル。
興を醒ますようなことは取り除かれているのかもしれない。
会話文のテンポもとても大事だ。
極端な話、漫才の「ボケ」と「ツッコミ」のように、一方が話せば一方がすぐに返すというような言葉のキャッチボールを、まどろっこしい表現は抜きにして、なおかつ平易な言葉を使うように工夫されているように感じる。
ライトノベルは明確な必要条件が備わっていないので様々な要素を包含しがちであるが、中高生向けのものとされながら区別されるジャンルはある。
少女小説
アニメ調のイラストを多用しているが、主人公は主に女の子(ヒロインと呼ばれることが多い)。
いわゆる「頑張る女の子」「運命に立ち向かう女の子」など、ヒーローとの恋愛要素を含んだものが多い。
有名なレーベルは、集英社コバルト文庫、角川ビーンズ文庫、講談社X文庫ホワイトハート、ビーズログ文庫など。
児童文学
「文学」と銘打っているだけあって、「健全な世界観」と「倫理観」を重んじており、教育的な要素を多く含んでいるのが児童文学である。
ライトノベルとの明確な区別はないにしても、教育的にあまりよろしくない表現が含まれていることもあるライトノベルとは一線を画す存在と言っていいかもしれない。
有名なレーベルは、青い鳥文庫、角川つばさ文庫、ポプラポケット文庫、岩波少年文庫など。
ライト文芸
ライトノベルよりも比較的年齢が上に設定されているジャンル。
しかし、ライトノベルからの派生なのでアニメ調の表紙を採用しているものが多く、硬い印象をもって敬遠されがちな本に対しての扉が開かれやすいジャンルかもしれない。
ライト文芸は、ライトノベルと一般文芸との中間的存在とも言えるため、中高生だけではなく大人も楽しめる作品がそろっているのがいちばんの特徴である。
有名なレーベルは、講談社タイガ、富士見L文庫、新潮nex、光文社キャラクター文庫など
ここで、ライトノベルの有名なレーベルも列挙しておく。
- 電撃文庫
- MF文庫
- 富士見ファンタジア文庫
- ガガガ文庫
- 角川スニーカー文庫
ライトノベルに興味がある人は、上記のレーベルから選べば、まず間違いなく好みの作品が見つかるはずだ。
たくさんのジャンルで作品が出版されているので、一度ラインナップを見ると興味がある作品が見つかるかもしれない。
ライトノベルの中身は宇宙。あり得ない世界へ簡単に行ける
では、ライトノベルの中身はどうなのだろうか。
実はライトノベルは1つのジャンルとして確立されているものの、その内容は多岐に渡る。
恋愛、ファンタジー、ミステリ、SF、ホラーなど。
「ライトノベルだからSF」や「ライトノベルだからミステリ」と限定されないのがライトノベルの良さでもある。
ということは、ミステリが好きでも、ラブコメが好きでも、SFが好きでもライトノベルの立派な読者になることができるのだ。
読み手である中高生は身近な題材である自らの学生生活に「学園ラブコメ」を重ね合わせることもできるし、異世界転生や戦いが日常化した非日常な世界に思いを馳せることもできる。
読書、特に小説に求めるものは「今、自分がいる世界、日常、とはちがう世界線」だったりする。
理不尽な目に遭ったり、納得がいかないことがあったりしたときには簡単に「ここではないどこか」にトリップできる小説はいい助けになる。
その中でもライトノベルというジャンルはぶっ飛んだ設定なものが多いので、楽しみながらあり得ない世界へと簡単に行くことができるのだ。
ライトノベルはイラスト命!
ライトノベルは、イラストが命である。
挿絵も入るのでイメージが付きやすく、登場人物表にもイラストが使われているので頭の中でキャラクターが動きやすくなる。
想像力を養えなくなるのではないかという懸念の声もあるが、まず想像できる土台が必要なので、ライトノベルはその取っ掛かりになるとも言えよう。
2000年代以降は若手イラストレーターの活躍がめざましい。
例えば、いとうのいぢ(「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズが有名)や、ヤスダスズヒト(「デュラララ!!」シリーズが有名)、ブリキ(「僕は友達が少ない」シリーズが有名)など。
美少女キャラクターから主人公に至るまで美麗なイラストを付けることによって読者を獲得していることは確かである。
文芸評論家の榎本秋(えのもと あき)によれば、
もちろんヒットしたのは、作品が魅力的である
としたうえで、
イラストの力がそれ(売り上げ)を押し上げたのは間違いない
と言っている点でも、ライトノベルにおいてイラストは絶大な力を持っているのがわかると思う。
最近では、一般文芸の装丁でもイラストレーターが活躍していることが多い。
例えば、貴志祐介さんの「新装版防犯探偵・榎本」シリーズなどは人気イラストレーターを採用している。
しかし、あえて挿絵やイラストを使わない一般文芸もある。
それは「本を買うとき恥ずかしい」という中高生よりも上の年齢の人への配慮や、「イラストがあるとイメージが制限される」という声に対応した形になっている。
ただ、「取っつきやすい」という印象を与えるのはイラストの究極の役割だと言えるだろう。
戦場はライトノベルだけじゃない
ライトノベル作家は、その呼称を自称している人もいるが、活躍の幅は広い。
ライトノベル作家から一般文芸へと移行した作家もいるし、その両方の分野で書き続けている作家もいる。
例えば、高殿円(たかどの まどか)。
彼女はライトノベル作家としてデビューし、現在は一般文芸も書いている。
代表作は「マグダミリア」シリーズ(ライトノベル)、「上流階級」シリーズ(一般文芸)。
他にも、紅玉いつき(こうぎょく)、冲方丁(うぶかた とう)なども、ライトノベル、一般文芸その両方で活躍する作家だ。
紅玉いつきは、「ミミズクと夜の王」(ライトノベル)、「ブランコ乗りにサン=テグジュペリ」(一般文芸)。
冲方丁は「カオスレギオン」シリーズ(ライトノベル)、「天地明察」(一般文芸)がある。
特に冲方丁はライトノベル作家としてデビュー後に、直木賞などの権威ある賞を獲得するなどその活躍はめざましい。
作品のメディア化など、自身の小説が映像化される作家も大勢いる。
そういう意味でもライトノベルはメディアミックスされやすい傾向にある。
コミカライズされたのちにアニメ化される作品もあれば、いきなりライトノベルからアニメ化が決定することもある。
アニメ大国である日本において、ライトノベルのアニメ化は必然の出来事と言っていい。
ライトノベルは書くジャンルが限定されていないためたくさんの作家を輩出しやすいジャンルでもあり、メディア化もされやすいので伸びしろはまだまだあり、成長株の分野と言える。
レーベルも続々と増えているし、実は筒井康隆(つつい やすたか)という大御所作家も書いているぐらいのジャンルなのだ。
筒井康隆が書いたライトノベルは「ビアンカ・オーバースタディ」という。
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