今なお読みつがれる名作『星の王子さま』。
子供のためだけの作品ではありません。
日々の仕事に追われている大人にこそ読んでもらいたいです。
目次
『星の王子さま』の作者はサン=テグジュペリ
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
Antoine de Saint‐Exup’ery
1900-1944。フランス生まれ。
実際にパイロットとして活躍した人です。
その経験から、『夜間飛行』『人間の土地』などを書きました。
『星の王子さま』もそのひとつ。
『星の王子さま』が出版されたのは1943年。
サン=テグジュペリが亡くなったのは1944年。
完成した作品は、『星の王子さま』が最後でした。
『星の王子さま』のあらすじ
砂漠に不時着した飛行士は不思議な少年と出会います。
その少年は遠くの小さな星からはるばるやってきた王子でした。
王子は飛行士にこれまでのことを語り始めます。
ある日、王子の星にバラが咲き、バラを見るのは初めてだった王子は感激して世話をしました。でも、王子につれないバラは王子への愛を素直に表せませんでした。
傷ついた王子は6つの星々をめぐる旅に出ます。
その星々では、自己中心的な欲望にとらわれた大人たちがいました。
7つ目の星・地球で、王子は5千本のバラが咲いている庭を目にします。
世界にひとつしかないと思っていたバラが実は何の変哲もない花に過ぎなかったこと、バラがかけがえのないものだったことを知り、王子はショックを受けます。
不時着して8日目。飛行機の修理は進まず、飲み水も尽きてしまいます。
王子は井戸を探しに行こうと提案し、とうとう井戸を発見し、飛行機も無事直ります。
ところが、飛行士に別れを告げた王子は蛇に噛まれて姿を消してしまうのでした。
『星の王子さま』の登場人物
王子さま
金色の髪をしていて、金色のスカーフを首に巻いている男の子。
故郷は、一軒の家よりほんの少し大きいぐらいの小惑星。
そこに咲いた1輪の美しいバラ。
彼女はやや気むずかしく、未熟だった王子さまは対応できずに、星々をめぐる旅へ出てしまいます。
いろんな星でおとなたちと会い、やがて、地球にたどり着きます。
僕
主人公は王子さまとの思い出を綴る「僕」。
地球に住むおとなです。
パイロットとして空を飛んでいましたが、砂漠に不時着してしまいます。
飛行機の修理をしているときに王子さまと出会います。
「僕」が飛行機の修理をしつつ、王子さまから途切れとぎれに聞いた話をつなぎ合わせて理解した物語が、『星の王子さま』の中心部分。
そこには「僕」の想像も含まれています。
なぜなら、王子さまは多くを語ってくれなかったから。
『星の王子さま』の感想(ネタバレあり)
ぼくをなつかせて!
地球にやってきた王子さまは、“バラ”という花がこの世に1輪ではないと知り、悲しくなります。
そのときに現れたのが、キツネでした。
キツネは「なつく」ということを王子さまに教えます。
「『なつく』って、どういうこと?」
「それはね、『絆を結ぶ』ということだよ……」
出会ったばかりのふたりは、ほかの十万の男の子となにも変わらない男の子であり、ほかの十万のキツネとなんの変わりもないキツネでした。
けれど、毎日少しずつ近くに座っていくことでなつかせると、世界でたった一人(一匹)の存在になるのです。
「なつかせたもの、絆を結んだものしか、ほんとうに知ることはできないよ」
キツネの贈り物
王子さまはキツネをなつかせ、出発のときに、「秘密」をおしえてもらいます。
「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」
「きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした時間だったんだ」
「きみは、なつかせたもの、絆を結んだものには、永遠に責任を持つんだ。きみは、きみのバラに、責任がある……」
キツネのことばをわたしに当てはめて考えてみました。
いままでの人生で最も時間を費やしたのは、「本」です。
気づけばずっと読書をしてきた人生でした。
「本」が広すぎるのならば、この『星の王子さま』と言ってもいい。
わたしにとって『星の王子さま』がかけがえのないものなのは、初めて読んだ小学生のときから10年以上、この物語を何度も読み返してきたから。
わたしは『星の王子さま』に責任がある。
だからいま、『星の王子さま』について書く運命にあるのかもしれません。
「たいせつなこと」は人によって違います。
ほかの人にとってはどうでもいいものでも、本人にとってはとても「たいせつ」です。
なぜなら、絆を結んでいるから。
クリスマスの贈り物
「聖書の次によく読まれている」とまで言われているこの物語ですが、作中にクリスマスの描写があるのはご存知でしょうか?
子どものころの、クリスマスがよみがえってくる。ツリーを飾るたくさんのロウソクの光、真夜中のミサの音楽、みんなの笑顔のやさしさ、それらすべてが、僕の受けとる贈り物を、光り輝かせていたではないか。
目に見える贈り物そのものは、歳を重ねるにつれ、別れがくることがあります。
けれど、その思い出は永遠。
プレゼントしてくれた人の想いは、永遠に残ります。
目に見えないけれど、確実に存在しているもの。
小さなあなたは、どんなクリスマスを過ごしていましたか?
『星の王子さま』を読み解く5つのポイントを解説!
『星の王子さま』は至る所に比喩が散りばめられており、読解に適した文学作品です。
この作品を読み解くポイントを5つに絞り、以下に解説します。
(1)心や愛情は目に見えない
本編で一貫して描かれるのは、人間にとっての心の大切さと心の成長についてです。
とりわけ印象的なのは、キツネが王子に告げた
「心で見なければ物事はよく見えない。大切なものは目に見えない」
という言葉です。
現代のインターネットやSNSなどのデジタルテクノロジーはあらゆるものを数値化しました。
いまやステータスや資産にとどまらず、友達の人数や”いいね”の数のような評価点さえも可視化されてしまいます。
いい人も悪い人も均等に均され、内容は吟味されず、フォロワー数だけが物を言うような社会。
その陰で、”目に見えない”大切なものは置き去りになったままです。
この作品は大切な価値観を見失ってしまった現代人の生き方や精神性を先取りし、痛烈に批判しているのです。
「心が大事」というといささか詭弁に聞こえるかもしれませんが、「世界の見え方は自分の心の持ちようで大きく変わる」というメッセージはまさに核心であり、全世界8000万部の普遍的作品たる所以といえるでしょう。
(2)想像力の大切さ
旅を通して、強いとばかり思ってきたバラがいつ枯れてしまうか分からない弱い存在であることを王子は知ります。
自分もバラも自己中心的すぎる未熟な考えゆえに互いを傷つけ合っていたと悟るのです。
「他者の心を慮る想像力」こそが人間の優しさの根源であり、人々が助け合って協調することにつながります。
安定した家族や社会を形成する原動力であり、基盤になるものこそが「想像力」なのです。
想像力はまた、卓越した創造性にもつながります。
作中の
「月夜の砂漠が美しいのは砂漠がどこかに井戸を隠しているからだよ」
という王子の言葉は、宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』の主題歌の歌詞
「あの地平線輝くのは どこかに君をかくしているから」
の元ネタになりました。
作者サン=テグジュペリの解説本にも携わった宮崎監督は現地を訪れて複葉機に乗り込み、飛行士だった作者の航路(南フランス~サハラ砂漠)を実際にたどり涙を流したそうです。
後に一連の宮崎作品が世界を感動させ、その根本に人類のもつ「普遍的な想像力」が通底していたことは言うまでもありません。
(3)子どもの頃の情熱を一途にもつ
この作品では飛行士の主人公は「大人」を、王子は「子ども」を象徴し、相反する存在である2人の交流を通したわかりやすい寓話になっています。
飛行士は幼い頃、画家になるのが夢でしたが、才能を認めてもらえず夢をあきらめていました。
夢をあきらめた主人公にとって、王子が語る純粋な話は胸を打つもので、自分が失っていた考え方でした。
王子の純粋な質問に答えるうち、自分が物足りない毎日を送っていたのは子どもの頃の情熱をいつのまにか失っていたことに気づくのです。
また、王子が6つの星で出会ったのは、「権力・人気・快楽・財力・労働・学問」に取り憑かれた人たちでした。
それらは私たちが大人になって溺れやすい対象を表しています。
安易に表面的な大人らしさをなぞるだけでは、無自覚のうちに”つまらない大人”になってしまうだけなのです。
そうではなく、子どもらしい純粋な心を持ち続けること、子どものような”一途な心”が大切です。
現実に打ちひしがれず、子どもと大人のバランスをうまくとれるように心を保ち続けることが本当の幸せにつながるのです。
(4)結婚相手や仕事の選び方への示唆
昨今の未婚化や離婚率上昇の原因は、必ずしも経済停滞や女性の社会進出だけではありません。
非現実的なマンガやドラマなどの影響で「運命の人がいるに違いない」と”幻想”に囚われすぎるあまり、いわゆる”青い鳥症候群”が増えているのも一因です。
また、「3日でやめる」若者の労働ミスマッチも常態化しています。
ブラック企業など雇用側の問題も大きいにせよ、自分から合わせずに自分に合うものを過剰に探し求めるケースも増えています。
「主体的に選んでいる」といえば聞こえはよいですが、そうした生き方は粘り強さも忠実さもない身勝手な生き方に過ぎません。
キツネのセリフ、
「愛は時間によって育まれる」
「幸せは時間をかけて自ら作り出すもの」
が象徴するように、共に過ごした時があるからこそ、かけがえのない唯一の存在になるのです。
仕事であれ、生涯を共にするパートナーであれ、最初から自分にピッタリ合うものなど誰にもありません。
人生の歩みの中でたまたま出会った「何か」と関係性を地道に紡ぎ、築き上げることの大切さを教えてくれます。
(5)時代や国を越えた普遍性
この作品が書かれたのは第二次世界大戦真っ最中の1943年のヨーロッパです。
それなのに、私たち日本人の心を今なお捉えてやまないのはどうしてでしょうか?
現代の世の中では選択肢の幅が増え、その頃に比べて生き方の自由度は圧倒的に上がりました。
とはいえ、技術がいくら進歩しても人間自身や人の心が変わることはありません。
かえって、人々は不器用で精神的に未熟にすらなり、多くの先進諸国で似たような社会問題が現れ始めています。
成熟した国家や社会では”子ども”のような自由と欲望の生き方ではなく、自立した”大人”の態度や距離感がますます見直されているのです。
この作品で描かれる教訓は、個人主義・物質主義・合理主義がはびこる以前にはむしろ当たり前だった、「古き良き価値観」を私たちに思い起こさせてくれます。
”子どものままの王子”や”つまらない大人”ばかりが溢れ返る今だからこそ、本質的な「愛情」や「心」のようなものが尊く、人々に求められるのではないでしょうか。
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