2015年7月23日。
今から4年前のこの日。とあるアーティストがこの世を去った。
『椎名もた(ぽわぽわP)』。ボカロ界の全盛を担っていた、当時20歳と、若き男性ボカロPだ。
しかし、それから4年後の2019年7月9日。
椎名もたの新曲が、彼の所属していた音楽レーベルから発表された。
その驚きの新曲公開の裏側にこめられた思いとは……。
椎名もたを知らない、という読書家な方々への紹介とともに、新曲に関する記事を書かせて頂こう。
『椎名もた』とは
2009年6月にデビューしたボカロP。
当時中学二年生と、ボカロPの中では最年少Pであったと思われる。
使用しているボカロは『初音ミク』『鏡音リン』『巡音ルカ』『GUMI』。
P名である『ぽわぽわP』は、彼の作風から生まれたもの。
名が生まれたきっかけである『おはよう。』~『ストロボラスト』までは、電子音を多用した、ぽわぽわしたメロディのエロクトニカルソングが多く、そこからファンが名づけた。
椎名もた自身も気にっており、以来、『ぽわぽわP』とも名乗るようになる。
『ストロボラスト』を投稿後、一度引退宣言をしたが、その4か月後、活動を再開する。
この期間をさかいに、元来のエレクトロニカルな曲調にくわえ、ポストロックやギターロック、複雑な変拍子を用いた楽曲など、多種多様な曲調が姿をあらわにしていくようになる。
その才能が見いだされ、2012年に新鋭レーベル『GINGA』にてメジャーデビューをはたす。
ぽわぽわ時代代表曲とも言える、『ストロボラスト(ミリオン達成曲)』。
それから、後の多種多様となった時代の代表曲『Q(同じくミリオン達成曲)』。
この二曲は、椎名もたの代表曲として聴いて頂きたい二曲だ。
この場を借りて、MV(YouTube)をはらせて頂くので、ぜひとも耳にして欲しい。
ストロボラスト
誰かが生きてく一秒ずつ
言葉にできたならば
僕は生きてく気がするのさ。
言葉をばらまくように(作詞:椎名もた(ぽわぽわP))
Q
さあ掻き鳴らせ証明の歌
(作詞:椎名もた)
最新曲『とりあえずアナタがいなくなるまえに』
現実と創造の間で揺れていた
誰か僕を叩き起こして(作詞:椎名もた(ぽわぽわP))
この楽曲が公開されたのは、先日2019年7月9日。
椎名もたが亡くなったあの夏から、四年も経ったこの夏の出来事だ。
そもそも、なぜ亡くなったはずの人の新曲が動画投稿されているのか。
それはひとえに、彼が所属していたレーベル『GINGA』の力が大きい。
今年5月。GINGAは、椎名もたが亡くなる直前まで製作をしていた未発表音源を集めたLost Album『故に。』を、この7月にリリースすることを決定した。
『故に。』は彼が生前、ニューアルバムを発表する為に製作していた新曲のデモ音源をもって完成させたCD。もちろん未完成の楽曲もあったようで、過去のスタッフ達と椎名もたのやりとり、そして『椎名もたが生きていたらこういう表現をしたのでは』という想像をもとに、最小限に手をくわえて完成させたという。
他にも、動画サイトにはあるが、CDには未収録となってしまった楽曲も収録されている。
彼の亡くなる前日に投稿された楽曲『赤ペンおねがいします』も収録曲の一つだそうだ。
『とりあえずアナタがいなくなるまえに』は、耳に馴染むロックバラードに、椎名もた特有のぽわぽわとしたエロクトニカルな電子音にくわえた、馴染みやすさと不可思議さという、矛盾したものが見事に混じり合った楽曲となっている。
歌詞の中身も、どこか寂しく、悲しく、けれどそれゆえに切なく苦しい程に胸をつき動かされてしまう――、そんな感情をゆさぶるものとなっている。
さらにこの楽曲の一番に震えてしまうところは、なんとコーラス、そしてCメロの部分を、椎名もた、その声が歌っているのだ。
もう二度と聴けないと思われていた新曲があがったというだけでも驚愕だというのに、その上、入ってきた椎名もた自身の歌声。
嬉しい。ありがたい。けれどその反面、この声の主がもう世にいないこと、彼の新曲がこの世に生まれることはもうないこと、これらを改めて感じとり、身に染み入る思いで曲を聴いてしまう。
と、同時に、改めてこれだけの月日が経っても、変わらずに彼の曲が愛されつづけている事も感じる。
それは、リスナー側もそうであり、製作側もそうだ。
曲が投稿されたその日、主宰である『そね』がTwitterにて、彼自身へ、そしてこの曲への思いを語っている。
『色々な考えや気持ち、出来事、思い出、モノ、イラストとか色々あるけれど、でもきっと、彼のことを知っている人の最大公約数は、彼が残した音楽たちです。それは、未だに生きていて、触れることも出来、楽しむことや悲しむことなど、いろんなことが出来るものです』
(Twitter:そね(一部引用))
椎名もたははもういない。
しかし、そねのその言葉の通り、これからも椎名もたの楽曲は存在し、それ故に、彼の曲を耳にする者達はい続けるだろう。
とりあえず、椎名もたがこの世の人達の意識からいなくなるまえに、この新曲が今聴けて、本当によかったと、そう思う。
まとめ
私的なことなのだが、この記事を書いた私は、実は椎名もたと同い年だったりする。
彼が20歳で亡くなった時、私も20歳だった。
故に、自分が年を取るたびに、ふと椎名もたというアーティストの事を思い出しては、もし生きてたらじぶんと同じ年でこの世にいたんだよな、と勝手ながら感傷にひたってしまう事がある。
それでも、あいかわらず椎名もたの楽曲は好きだ。
そして、今回の新曲も、やはり好きだった。
多分、この二つの感情は、今後もずっと己の中で続いていくものだろうと思う。
『あくまでも、偲ばず!』とそねさんは最後にツイートで語っていた。あくまでも、偲ばずに聴いてほしいと。
今回のこの曲、確かに悲しくなるところはあるが、それ以上にまた聴けた新曲に嬉しくなったのもまた事実だ。だからできる限り、悲しまずに、ただこの曲を好きなまま聴きたいと思う。
そんな私の感情を発端に生んだこの記事。
最後に、私なりのこの新曲に似合う曲を選書させて頂こうと思う。
ぜひこの記事を機に、あなたの読書音楽の世界に、椎名もたの楽曲達もいれてくださると幸いだ。
選書:加藤シゲアキ『ピンクとグレー』
現役アイドルである、NEWSの『加藤シゲアキ』が書く、芸能界が舞台の小説。
ステージという世界に魅入られ、目指していくことになった幼馴染二人の姿を描くこの小説は、その世界を目指すことの成功と挫折の二つが語られている。
同じ時期に同じものに憧れ、二人して同じ世界を目指した筈なのに、片方は成功を、片方は挫折の道を歩んでいく。この対比のさまが、読む者達の胸をえぐっていく。
しかし、成功の先にあるものが輝かしいものとは限らない。挫折の先にあるものがただの絶望とは限らない。
この現役アイドルという作者の立場だからこそ書けた、〝芸能界〟という世界のストーリーを、ぜひ『とりあえずアナタがいなくなるまえに』と共に聴いて頂けたらと思う。
挫折と成功。この二つの先に見えた結末を見たその時。
この音楽への才覚で溢れたままいなくなってしまった若きアーティストの楽曲が、胸をさすことになるだろうから。
【あらすじ】
ステージという世界の魔法、幻想に魅入られた幼なじみの二人の青年の愛と孤独を描くせつない青春小説。NEWS・加藤シゲアキ渾身のデビュー作。
(BOOKデータベース引用)
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