ーTrack No.5『まちがいさがし』(菅田将暉)ー
米津玄師は、言葉を丁寧に扱う作曲家だ。
歌い手や作品に合わせて、言葉や曲風を選ぶ。
今回取り上げるのは「まちがいさがし」。友人の菅田将暉に提供した楽曲だ。
彼の雰囲気に合わせ、無骨で正直な言葉を使用していることに注目しながら、作品を見てみよう。
様々な喩えを駆使して『欠落』を描く
まちがいさがしの間違いの方に
生まれてきたような気でいたけど
まちがいさがしの正解の方じゃ
きっと出会えなかったと思う(作詞:米津玄師)
間違いさがしの「間違い」というところから考えると、曲の主人公は劣等感に悩まされていたようだ。
「正解の方では出会えなかった」というキーフレーズが、希望を象徴していることに注目しよう。
彼はかつて、「かいじゅう」「がらくた」「幽霊」などのモチーフを使用して、「不在」「劣等感」「虚無感」を表現してきた。
今回のモチーフは「間違い」だ。
共に笑いあえる仲間の存在
ふさわしく 笑いあえること
何故だろうか 涙がでること-(作詞:米津玄師)
ここではそんな主人公に、仲間ができたことが示されている。
くだらないことを言い合いながら、一緒に時間を過ごす仲間。
ずっとひとりぼっちでいたからこそ、ありがたみが分かる。だから涙が出るのだろう。
力強い意思の象徴
君の目が貫いた 僕の胸を真っ直ぐ
その日から何もかも 変わり果てた気がした
風に飛ばされそうな 深い春の隅で
退屈なくらいに何気なく傍にいて-(作詞:米津玄師)
「君」の目は、孤独な「僕」の心を見透かしているかのように、真っ直ぐ僕を見据えている。
力強い視線によって、僕は勇気を得て、一歩を踏み出したのだ。
間違いだらけの 些細な隙間で
くだらない話を くたばるまで
正しくありたい あれない 寂しさが
何を育んだでしょう-(作詞:米津玄師)
「僕」は、経験から自分が間違いであることを知っていて、そのせいで生きにくい生活を送っていた。
そんな彼が息をしようともがいて、呼吸ができる場所を懸命に探している。
「正しくありたい」、でも「あれない」というフレーズに、作者の気持ちが投影されているのではないのだろうか。
戸惑いからの肯定
君の手が触れていた 指を重ね合わせ
間違いか正解かだなんてどうでも良かった
瞬く間に落っこちた 淡い靄の中で
君じゃなきゃいけないと ただ強く思うだけ-(作詞:米津玄師)
君と僕が、深くかかわり合うことは、ひょっとしたら間違いなのかもしれない。
リスナーの頭をかすめた「疑惑」は、「間違いか正解かだなんてどうでも良かった」という一行で完全に払拭される。
運命を共にする覚悟と、力強い肯定が溢れている。
まとめ
まちがいさがしは、生きにくさに胸を痛めていた「僕」が、「君」と出会うことによって自分を取り戻し、希望の光を見つけていくというストーリー仕立てになっている。
ここでの「君」は、異性なのか同性なのかははっきり断言できない。どちらであっても「僕」にとっては良き友人であり、恋人である。
この曲に本を合わせるなら
ヘルマン・ヘッセのデミアンだ。
少年シンクレールは、デミアンと名乗る少年と出会う。
彼はどこか不思議な魅力を持っていて、年齢に相応しくない妖艶な雰囲気を漂わせている。
シンクレールは彼の魅力に取りつかれ、背中を追いかけようとするのだが……。
キーワードは大きく分けて二つ。
一つ目は『アプラクサス』。二つ目は、『卵の殻の中から出ようとする小鳥』。
無我夢中に絵を描くシンクレールの姿に、心を奪われることだろう。
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