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『本を贈る』あらすじと感想【大切に持ち帰りたくなるような本、誰かに贈りたくなるような本】

『本を贈る』あらすじと感想【大切に持ち帰りたくなるような本、誰かに贈りたくなるような本】

本の記憶はおぼろげだ。

ぼくは著者が伝えたいことや表現したいこととは違う、物語のディテールや、なにげない言葉ばかりを覚えている。

思い出すのは、二〇代のころのこと。

ぼくはそのころ、だれかにプレゼントをしたくて仕方がなかった。気になる女の子や、もっと親しくなりたい男の子たち。

できる限りさりげないふうを装って、飲み会の席などで彼らに本を贈った。

ぼくは、そのときの夜の道をはっきりと覚えている。(編集者:島田潤一郎)

本は、時に日記となります。

いえ実際に書き記すわけではないから、栞といった方が近しいでしょうか。

初めて読んだ時、自分は確か、こんなことに悩んで。


この言葉だけは記憶に残っているな。

あの本屋で出会ったな、照明はこんなくらいで。

表紙の絵が鮮やかだったな。

読みながらあの景色が浮かんだものだな。

大切な一冊といっても、内容の詳細まで覚えていることはほとんど無いのです。(単にズボラでは、という指摘は別として)

ただ、本を前にする或いは脳裏に浮かべることで、その時の記憶や感情が連なって溢れ出す。

まるでページが捲られていくように。

―――大切な本は、人生の栞となり得るように思うのです。

とある書店で出会い、胸に抱えるようにして持ち帰ったこの本もまた、いつの日か今の私を思い返す栞となるでしょう。

概要・執筆者紹介

作家から取次、本屋まで、「贈る」ように本をつくり、本を届ける10人の手による珠玉の小論集。(三輪舎HPより抜粋)

  • 島田潤一郎(編集者)
  • 矢萩多聞(装丁家)
  • 牟田都子(校正者)
  • 藤原隆充(印刷)
  • 笠井瑠美子(製本)
  • 川人寧幸(取次)
  • 橋本亮二(営業)
  • 久禮亮太(書店員)
  • 三田修平(本屋)
  • 若松英輔(批評家)

筆を執る多くは、言葉を綴ることを生業としていません。

その職や肩書に余程注目しない限りは、普通の人。

しかし本を想い、創り上げることにかけてはキラリと秀でたプロばかりです。

そんな人たちが「本を贈る」というテーマのもと、丁寧に言葉を紡いでいます。

今回は、その中でも特に印象に残ったお二方の頁に触れたいと思います。

注意
以下、ネタバレ注意です。

本を贈るの感想(ネタバレ)

「本は特別なものじゃない」

本を読んできた人なんだろうなと分かる、スッと入ってくる言葉が心地良かった、笠井瑠美子さん。

男前な文章です。

彼女が現在の仕事に出会うまでの過程や、本の模型(束見本)が作成される工程、仕事や本に対する考えが綴られています。

普段本など一冊も読まない職人さんたちが、あーでもないこーでもないと本を舐め回すように検分する様子は「まるでコントだ。いや仕事だ。」――彼女は面白いと言います。

本を作り届ける人間が皆、慈しむように本を積んでいるわけではない。

彼女のように紙に惹かれ、本を愛し、読書を楽しむ製作者もいれば、いかに美しく刷るか、品質を守れるか、その仕事をきちんと果たすことにだけ重きを置く製作者もいる。

しかしその全ての人たちが自分の専門性を存分に発揮して、本を届けんとしている。

普通の本だって、すでにめちゃくちゃ手塩にかけられて育てられた子なのだ。最高だ。

彼女の言葉に思わず「最高だ!」と手を打つほどには、ものづくりの過程、そして仕事に対する真摯な姿勢に魅せられました。

同時に、奮い立たされる思いがしました。

自分の仕事への誇りと、他者の仕事への並々ならぬ敬意があってこその、この言葉だと感じたからです。

「出版社の営業職であること」

真面目で柔和な雰囲気が、文章からにじみ出ていた橋本亮二さん。

朝日出版社に入社された二〇〇四年から今迄、営業職として働く中での印象的な出来事を丁寧に拾い上げています。

中でも、

「出版営業、事始め」…初めて書店へ赴き、営業に臨み、注文を取れた日のエピソード

「作り手と売り手のあいだ」…一冊の本の営業を通じて、ある書店員さんとの距離をぐっと縮めることが出来たエピソード

このふたつは、若き日の橋本さんの緊張や並々ならぬ試行錯誤、拳をぐっと握りしめるような達成感や、胸いっぱいに広がった喜びがありありと描かれています。

読み手の胸にも温かみが広がります。

業界は違えど営業職として従ずる私にとっては、強迫観念や圧力で丸まった背中をスッと正してくれるようでもありました。

最初は嫌悪感を覚えていた営業の仕事も、今では厭わずできるようになったと彼は言います。

私もいつかその境地に至れるのでしょうか。

まだまだその気配はありませんが…

「書き手と作り手、売り手、読者までをつなげる営業として、本を、言葉を届けていきたい」という橋本さんの言葉に、縋るような思いも抱きながら、前を向いたのでした。

まとめ

執筆者がそれぞれの読書体験を振り返る中に、子供に本を読み聞かせる場面や、父の本棚から本を抜き出す場面が登場します。

思えば私も幼い頃から本を読むことが好きでした。

幼稚園の小さな図書室で出会った「エルマーとりゅう」は夢中になって読んだし、小学生の頃は夏休みと言えば図書館に通い詰めたものです。

それは恐らく、母の影響だと思うのです。

惜しみなく本を与えてくれましたし、机に向かって本を読む母を見て育ったためか、私にとって読書は日常の行為となりました。

量こそ減りましたが、やはり今でも本を読むと心が整う気がします。

支えとなった本や道標になった本も、脳裏に浮かびます。

金銭は生活に欠くことはできない。

だが、人生の次元では言葉が光になる。(批評家:若松英輔)

直接言葉にせずとも、母はこのことを教えたかったのでしょう。

二十年余り経った今、また一つの人生の岐路で、本作の言葉を通じて気付くことが出来ました。

冒頭記したように、この本は私にとって、人生の栞となるように思います。

しかし、独り占めするにはあまりに贅沢すぎる言葉たち。

素敵な偶然、第二版は翠色の装丁画に金の文字が刻まれています。

クリスマスにかこつけて贈るのも、悪くないかもしれません。

主題歌:渡邉崇/それから

渡邊崇「それから」

本に使用される用紙について書かれている箇所を読んだ際、思い出した一冊がありました。

三浦しをん「舟を編む」(光文社)です。

私はハードカバー版を所持していますが、藍色に銀の文字が光る表紙と、その手触りをひどく気にいっているのです。(紙質が立派な為に傷がつかぬよう注意を払わなくてはいけない点も含め)

裏方とされる部隊にスポットライトが当てられているところや、専門性と熱意が惜しみなく注がれて辞書が完成するというストーリーも、このエッセイと通ずる点があるように思います。

主題歌には、映画「舟を編む」のサウンドトラックから一曲を選びました。

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