2011年3月11日、14時46分。
その時、あなたはどこで、何をしていましたか。
今回お届けするのは『暗い夜、星を数えて: 3・11被災鉄道からの脱出』。
まず最初に目が行くのが、無残に潰れた列車の姿です。
どれほど地震の被害がすさまじかったのか、読まずともこちらに伝わるものがあります。
目次
あらすじ・内容紹介
午後一時過ぎ、仙台駅に到着した著者。
その日は東北旅行の二日目です。
福島へ向かう最中、彼女は電車に乗りました。
突如鳴り響く警報。
『線路沿いが燃えている』。
突然の事態に戸惑う著者ですが、待っていたのは想像を絶する揺れでした。
当事者の視点から震災の現実をえぐりだした、生々しいルポタージュです。
暗い夜、星を数えて: 3・11被災鉄道からの脱出の感想(ネタバレ)
頭を鈍器で殴られることと同等の『地震の衝撃』
はじめの数秒は、なんとも思わなかった。
それなのに次の瞬間、がくん、とまるで後頭部を殴られたような衝撃が全身を貫いた。地面の底から、低いうなり声にも似た重低音が湧き上がってくる。
(略)それは、私が今まで体験したどんな地震とも違っていた。比べようもなく鋭くて、重さに限りがなかった。-p11
それは、著者がいまだかつて体験したことがないような、強い揺れでした。
隣に座っていた女性が肩を掴んでいないと立っていられないほど、相当なものだったのです。
放射線量に怯える
原発30キロ圏内で除染作業を手伝った著者は、依頼主の男性からタマネギを頂きます。
しかし、ただでさえ内部被曝しているかもしれない、自分の身体です。
原発30キロ圏内で獲れたタマネギを持って帰って食べていいのかという、罪悪感とためらいが生じました。
彼女はそのことを、「心が少し濁る」と表現しています。
どうすることもできない不安
悪い状況は次々と起こります。
福島第一原発の爆発による半径10キロ圏内の汚染、何日も避難場所で過ごさなければならない事による精神的な不安。
被災者同士が起こした暴動に、県外の人が被災地から来た車に落書きをするといった二次被害と差別。
人間の醜さと弱い部分が、同時に襲ってきたのです。
他の県に住む親族との温度差で諍いが起こり、悲しい。福島ナンバーの車で他県へ行けない。(略)
自分でも、今までと同じ気持ちでは食べられない。
こんな、雪のように降り積もる悲しみを、どう購えるというのだろう。-p135
現実を目の当たりにした著者は、記事を上梓することになります。
今までお世話になった方、震災を通してお知り合いになった方への畏敬と、心からの気持ちを綴ったものです。
まとめ
対岸の火事を眺めて、石を投げつけることは誰にでもできます。
本当に震災は対岸の火事なのでしょうか。自分に差別する心なんて、全くないと言い切れますか。
玉ねぎを食べられなかった彩瀬さんが例外なのではなく、私たちの心にも、差別する気持ちは芽吹いています。
差別と真剣に向き合い、偽りのない感情を作品として世に出した作者を、私は尊敬します。
また、小説「やがて海へと届く」では、震災で行方不明になった友人を、主人公目線で描写しています。
(※最後に被災された方々、お亡くなりになられた方々に深くお詫び申し上げます。)
主題歌:サカナクション/エンドレス
今回選んだのは、サカナクションの「エンドレス」。
他にも候補曲がありましたが、何度も修正を重ねた結果、この曲を選曲しました。
発売されたのは2011年、ちょうど東日本大震災が起こった年です。
当時、ボーカルの山口さんは非常に精神的に落ち込んでいて、一時は音楽を辞めてしまおうかと考えていたそうです。
そんな彼を食い止めたのが、この曲でした。
「誰かを笑う人の後ろにもそれを笑う人 それをまた笑う人と悲しむ人
悲しくて泣く人の後ろにもそれを笑う人 それをまた笑う人と悲しむ人」-(歌詞:山口一郎)
無限に「誰かを笑う人」と「それ(誰かを笑う人)を笑う人」と「悲しむ人」が続くというループのような構成になっています。
その無限ループの後ろを「僕(一郎さん)」がじっと傍観しているという状況です。
彼は、見えない夜に色を付ける「声」に悩まされています。
PVでは目玉の被り物で顔を隠したメンバーが、涙を流しています。(「匿名」であることの比喩です)
「誰かを笑う人の後ろから 僕は何を思う?」-(歌詞:山口一郎)
声の正体が分かった時にはじめて、彼の意図が明かされます。
最後まで聞きのがさないでください。
この記事を読んだあなたにおすすめ!
彩瀬まる『やがて海へと届く』このルポルタージュと対になる小説です。こちらもぜひ、一読してみてください。