冷蔵文庫の中の人に会ってきた【本とやさしさが詰まった冷蔵庫】(武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス)

 

冷蔵庫。
飲食物等を低温で保管することを目的とした、箱型の製品。

その中に、本が詰まっているなんて、想像したこともありませんでした。

武蔵野美術大学(以後、ムサビ)に突如現れた、「冷蔵文庫」。

不要になった本、捨てる前にムサビで交換しませんか?

本を1冊持っていくと、知らないだれかの本を1冊もらえるという仕組みにわくわく。

2019年1月18日(金)。
卒業・修了制作展(以下、卒展)で冷蔵庫を設置すると知った、ReaJoyライターの織(しき)は、ムサビを訪れました。

冷蔵文庫ナカノヒト取材


遠目からでもわかる、冷蔵文庫の大きなロゴ。そして、Twitterでずっと拝見していた冷蔵庫。
展示スペースはすぐにわかりました。

冷蔵文庫の運営者である、本藤はるか(ほんどう・はるか)さんにお話を伺いました。

もったいない精神を大切に

蚤の市で得たアイディア

━━「冷蔵文庫」は卒業制作のための活動だったのですね。
本藤さん(以下、本藤) 卒業制作は半年間向きあうものなので、自分がずっとやりたいとおもえるものがいいとおもっていました。

「かわいいなぁ」「いいなぁ」と感じるパッケージや紙袋を集めるのが好き。
古着が好き。リサイクルショップに行くことが好き。
蚤の市に行くことも好き。

本藤 好きなものを考えていくと、“循環”というキーワードが出てきました。

卒業制作のテーマに悩む本藤さんが訪れたのは、2018年5月に開催された「東京蚤の市」。
手紙社さんが主催する、“古き良きもの”をテーマにしたイベントです。

会場には、時代を超えてやってきた古道具や、毎日の生活をもっと素敵にしてくれる雑貨や日用品を扱う230を超える出店者が集結。
売り切れ必至の絶品フードに、お子さんも一緒に楽しめるエンターテイメントやワークショップなど、誰もが楽しめるコンテンツを盛りだくさんでお届けします。

 

(公式サイトより一部抜粋)

本藤 「物々交換の本棚」という無料の企画をやっていました。本棚に、ラッピングされた本が並んでいて、匿名のメッセージが書いてあるんです。「物が無駄にならない」「気持ちがこもっている」というところがいいとおもいました。
━━わたしもその企画は以前から気になっていました。冷蔵文庫のモデルは蚤の市だったのですね。

本藤 その仕組みの、循環が美しいと感じました。
━━そこに美しさを見出すのはさすがですね。

本藤 わたしもこういうことがしたい。やってみよう、とおもいました。

廃棄予定だった冷蔵庫

━━普通の本棚ではなく、冷蔵庫を選んだのはなぜですか?
本藤 偶然見つけたのが、冷蔵庫だったんです。
━━だれの物だったのですか?
本藤 ゼミの先生が所有していた物です。

いまはゼミの先生が変わってしまったそうですが、以前担当されていた先生の物だったそうです。

━━よく譲ってもらえましたね。
本藤 数十年くらいずっと使っていたらしいんですけど、卒業した先輩が、新しい大きな冷蔵庫を贈ってくださって。この小さな冷蔵庫は廊下に、「廃棄お願いします」って置いてあったんです。

━━なるほど。冷蔵庫の役目が終わってしまっていたのですね。
本藤 「(捨ててしまうのは)もったいないなぁ」とおもったんです。蚤の市に行ったタイミングだったので、あれを冷蔵庫でできないかなとおもったのがきっかけです。

生まれ変わった冷蔵庫

━━ずっと使われてきた冷蔵庫には見えないです。
本藤 最初は中に、1年前のオレンジジュースとか入っていました(笑)
━━冷蔵庫時代の産物が……(笑)

本藤 そういう物の処理から始めました。中を綺麗にして、清潔感が出るように、白いペンキを塗りました。置いていても汚くない見栄えにしたかったんです。

━━利用者も冷蔵庫時代のプチエピソードを知ることができる工夫がいいですね。
本藤 前の持ち主である先生にメールでお伺いしました。「ゼミ生にとっては2年間という短い付き合いだけど、僕にとっては長い付き合いでした」と仰っていました。

モノのストーリーを知ると愛着が湧くという私の実体験をもとに、冷蔵文庫の利用者にモノのストーリーを感じてもらえるようなしかけを組み込みました。

 

(『やさしい循環 研究ノート』 84頁)

冷蔵文庫のロゴと同じ形のカード。
ひっくり返すと……

手作りお菓子

3期生は必ずお菓子を作ってきましたから、
冷蔵が必要なときは重宝しました。

前の持ち主のコメントが読めます。
先生とゼミ生の関係、その間にあった冷蔵庫の存在、その雰囲気が伝わってきます。

あたたかい気持ちになる場所

本を「保管」する冷蔵庫

━━冷蔵庫が初めて設置されたのは、2018年10月5日だったのですね。
本藤 美術大学でやってみたらどうなるのかな、という興味がありました。

冷蔵文庫の出現はTwitterの本屋アカウント、読書アカウント界隈をざわつかせました。

━━冷蔵庫に本が入っているという衝撃は強かったです。
本藤 最初から冷蔵庫を本棚にしようとおもっていなかったんですけど、扉を開けるわくわく感が生まれた、というのはよかったです。

━━“本”で物々交換というのは最初から決めていたのですか?
本藤 本以外の物も考えてみたんですけど、まずは本からやってみよう、とおもいました。本ってみんなが持っている物だし、広い世界なので、結果的にはよかったとおもいます。

━━わざわざ用意しなくても参加できる、というのは大きいですね。
本藤 メッセージ次第では、自分の好みの本を手にする可能性も高くなりますし。知らない本や、興味なかった本でも、あんまりマイナスなことがない気がします。

━━とりあえず読んでみたら、意外と面白かったりすることもありますし。
本藤 本が持つ力って、とても魅力的です。

冷蔵庫が本来持つ機能は、食べ物などを保管したり、入れたり出したりすること。
見知らぬ誰かの本に対する気持ちや思い出を次の持ち主にわたるまで「保管する」この冷蔵庫も、ある意味別の形で冷蔵庫の機能を果たしていると捉えることができます。

 

(『やさしい循環 研究ノート』 85頁)

やさしさが循環していく

━━テーマの『やさしい循環』ということばが素敵ですね。
本藤 “微笑んでしまうようなやさしさ”を循環にも入れてみたい、というところから、テーマをつけました。

━━微笑んでしまうような……例えばどういったものでしょうか?
本藤 道端に落ちている、お守りとか手袋とかあるじゃないですか。ああいう物を、わかりやすいところに置いてあるのをみると、やさしいなっておもいます。
━━たしかに。だれかが、“落としただれか”のためをおもって行動したということですからね。

本藤 わたしが実際に蚤の市でやったときも、だれかわからないけど、だれかがここにきてだれかのために心を込めてメッセージを書いて、ラッピングをしたという、その事実が凄くあったかいと感じました。
━━本屋さんで本を買うのとはまた別の、特別な気持ちになりますね。

本藤 はい。受け取って大事にしたいとおもえましたし、どういう人か想像しました。
━━わからないからこそ、相手をおもうって、不思議で面白いです。
本藤 でも、匿名性というのがいいのかなとおもいます。

━━冷蔵文庫も匿名でのやりとりですが、基本的には大学内なので、お相手が近くにいる可能性が高いですよね。
本藤 実際に会った人もいるみたいです。冷蔵庫の前で待ち合わせして、仲良くなっているっていうのを見て、ただの冷蔵庫だったのにこんな素敵な場所になるんだって感動しました。

━━繋がりができたのですか。本の内容が見えないからこそ、本当に御縁ですね。
本藤 置いた人と似たような人がもらっていって、仲良くなって、循環していく。それは、ちょっと予想外でした。

━━同じ体験をしているというのも、大きいのかもしれませんね。ほとんど同じ時間をかけてラッピングして、自分も冷蔵庫の中に入れて、そこから本を選ぶ。
本藤 “体験をする”って一番大事だなと、冷蔵庫を何回か設置していておもいました。
━━アクションによって記憶に刻み込まれますからね。

本藤 じつは自分から動くことは苦手なんです。でも卒制のときは、悔いなくやりきろうと決めて、行きたいとおもったところに向かってみました。そうしたら凄く収穫がありました。
━━わかります。わたしもライターとしていろんなところへ行くようになって実感しています。

本藤 あとなにより、楽しむことを重視しています。冷蔵文庫を見て、まずは、「やりたい」っていう“楽しさ”が一番にあってほしいです。

━━実際ツイートを拝見したとき、やってみたい!と強く感じました。
本藤 それが第一ですね。「やってみたい」っておもってもらって、その人の感想をほかの人が見て、「自分もやってみたい」っておもう人が増えて……そうやって広がっていくといいです。

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