【私たちはこんなことをしてまで繋がらなければならないのだろうか。問題に向き合い続ける苦悩の日々】夫のちんぽが入らない こだま(🎵クリープハイプ/ABCDC)

笑いか、悲劇か。

“ジョンソンベビーオイル無香性のパッケージには「赤ちゃんにもお母さんにもやさしい」と書いてあるけれど、ちんぽが入らない人間にも等しくやさしくあってほしかった。”

話題のエッセイ、「夫のちんぽが入らない」の第1章「春陽」の終盤、私は堪らなくおかしくなってフフッと笑ってしまった。
「夫のちんぽ」が入らないは、同じアパートに暮らす先輩と交際し、夫婦となった“私”の物語だ。

ただの物語じゃない。結婚をした男女でありながら、彼のちんぽが入らないのだ。

この本は「普通」という呪いに苦しみ続けた著者こだまが、女性として、妻として、教師として、もがき苦しんだ日々を綴ったエッセイである。

自分の悩みをここまでコミカルに吐き出せるのは凄い。

カルーアを思い出した。甘くて飲みやすいのに、アルコール度数は20%ある。本人が抱えてる悩みは重たいのに、口に入ってくるものは甘くて、アルコール度数が高いことをついつい忘れてしまう。

甘いから、笑えるから、で読み続けていたら、序盤で笑えていた文章も、次第に笑えなくなってくる。

著者が抱えていた悩みが、あまりにも大きくて掴み所がないからだ。甘くて飲み過ぎてしまって、苦しくなる。

初めてカルアミルクを飲んだときの衝撃を思い出した。

ああ、知ってしまった。この苦しみはどうやって飲み干せば良いんだろう。

著者こだまの人柄

文章は顔だと思う。

本やSNS、会ったことなくても使っている言葉とか、表現の仕方、句読点の置き方とかで人となりが何となく掴めるような気がする。

「夫のちんぽが入らない」はエッセイだ。

明確な定義がないエッセイでは、著者の人柄というものが武器となり味となっていく。

著者のこだまはきっと優しい人だ。自己肯定が低くて、自分よりも誰かの存在を大切にしようとする。

“思いきり喜びたいはずなのに妹たちも私に気を遣っていた。それが言葉の端々から痛いほど伝わった。どうか素直に喜んで。そう言いたくて、電話を掛けて、大げさに驚いたり、質問攻めにしたりした。”
“撮った写真は見事に全部ブレていた。慌ててシャッターを切り、次の思い出の場所へと駆け出してしまったのだろう。その歪みのひとつひとつに彼女の不器用さが写り込んでいる。”
“夫が悲しい顔をして帰宅するたびに職場の人間たちを「くそ共め」と呪った。”

しかも自分の言いたいことを完全には飲み込めない。その言葉が喉に刺さった骨のように身を苦しめる。

“ちんぽに罪はない。”

“ごはんには罪がないのに。”

“子供たちに悪意はない。”

不器用で人間くさい。こだまさんの人柄こそが、このエッセイの魅力だ。

「夫のちんぽが入らない」そんな名前が付けられた一冊の本が、文庫本になって、漫画になって、ドラマ化も決定している。

元々、同人誌で始まったエッセイがここまで来る。凄いことだ。

魅力的だからだ。このエッセイが、こだまさんの人柄が。

著者はきちんと愛されるべき人だと私は思う。

表現力

著者の表現はジャポニカ学習帳のように、多種多様だ。

学習帳の余白に書き残しておきたくなるような表現が要所要所に現れる。

そんなに面白い表現ならノートのど真ん中に書いておけばいいじゃん、と思うだろうが余白に残したくなる。

「日中の教室でノートのど真ん中に書く」よりも「深夜の自室で学習帳の余白に書く落書き」の方が本音に近いような気がするから。

“でん、ででん、でん。まるで陰部を拳で叩かれているような振動が続いた。”

ちんぽが入らない音「でん」。
「でん、ででん、でん。」そんな擬音がターミネーターの曲以外で活用できる場所があったのか。

“「暗証番号が違います」と拒絶されたような気持ちになった。””怒りの沼にはまってもがいていた”

“春に向かう気温のゆるみが、そのままミユキと私の関係のように感じられた。勝手にそう思った。”

“プレートが一年に数センチメートルずつ沈み込むような、地球レベルの交わり。”

例えられる物の大小に関わらず、どんな状態、状況であるのかが分かりやすい。

著者が先生の学校にいたなら、もっと勉強が楽しくなったんじゃないかなと妄想した。

地獄

著者が経験した地獄がさらりと書かれている怖さ。

体育の授業なのに体操服を忘れてしまったときのような絶望感。

逃げ場がなく息が詰まりそうになるあの感じを思い出した。

“精子にまみれてべたついた髪と顔を洗って寝室に戻ると、夫がすうすうと寝息を立てている。むなしい、と思う。これでいいのだ、とも思う”
“憧れていた。けれどなりたいものと向いているものは違うのだ。”
“女として生まれ、ベルトコンベアーに乗せられた私は、最後の最後の検品で「不可」の箱へ弾かれたような思いがした”

How To Sex

これのどこが不幸なのかわからない。と著者は綴っていた。

けれど私はたしかに可哀想だと思ってしまった。著者はきっとそんなこと思われたくないはずなのに。

改めて、セックスをする意味ってなんだろう。

どうしようもない性欲を目の前にしたとき、私たちは人間である以前にただの動物だということを思い出す

人間は愛情表現のためにセックスをする。と思いたい。

けれど、そんな綺麗事だけじゃ辻褄が合わない。

性欲のため、征服のため、傷から目を逸らすため、子供をつくるため、愛情のため?

私はどれがセックスをする意味なのかハッキリ分からない。

大人になった今でもそれが分からないのは学校では教わらないからだろうか。

人前で裸になってはいけないと教わってきたはずなのに、高まり合ってしまえば、お互いの汚いところを出し入れする。

これが普通なのか?

そもそも普通ってなんだ?

「もっと普通に出来ないの?」

不器用な私は、そんなことを沢山言われて育ってきた。

向こうに悪意はないはずだ。

私にだって悪意があってそうしたわけじゃない、けれど「もっと普通に」が分からない。

私は直感で感じたことは普通じゃないんだろうか。

自分が直感で思ったことを自分自身で疑ってしまう苦しさを、普通の人は感じたことがないんだろうか。

素直に、羨ましいと思う。

学生の頃、食べ物の好き嫌いが多かった私はみんなが楽しんでいた給食の時間があまり好きではなかった。

嫌いというわけでもないけれど、みんなのように盛り上がれない。

この本は、みんなが好きなものを好きになれないという人にこそ読んでほしい

普通じゃない、に苦しむ人は教室に何人かだけかもしれないけれど、もっと広い視野で見ると仲間が居ることが分かるはずだ。

「あんたの産む子が悪い子に育つはずない」

何気ない一言が誰かを救う。私にとって「ちんぽ」はそんな一冊だ。

BGM

曲をつけるなら、クリープハイプABCDC

著者が抱えているこんがらがった感情を表すのはクリープハイプがピッタリだ。

息もしづらいほど絡まった心をクリープハイプの声が代弁してくれる。

変な声だと言われた彼の声が、「普通の下らなさ」を教えてくれる。

ひっ迫したサウンドと〈瘡蓋の中にはね あの頃の傷が眠ってる〉のフレーズは言いたいことが言えないこだまさんのようだ。

こちらもよろしくお願いいたします。

◯この他の『夫のちんぽが入らない』の主題歌はこちら

◯本の主題歌を決める読書会「BGMeeting」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です