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『怪物はささやく』あらすじと感想【真実を求める怪物と、理不尽に向き合うダークファンタジー】

この本の評価
読みやすさ
(5.0)
面白さ
(4.5)
考えさせられる度
(5.0)
装丁の美しさ
(5.0)
感動度
(4.0)
総合評価
(5.0)

月明かりに照らされて、大きなイチイの木がぼんやり姿を現す。

心なしか、それはいつもより巨大に見えた。

今の時刻は、午前零時七分をまわったところ。

それ”は、僕を一口で丸飲みできそうなほど大きな口を開いて、こう言った。

よく来たな。ここはわたしとお前だけの世界だ。

お前に伝えなければならない話がいくつかある。

そのためにも、お前には課さなければならないことがあるのだよ。

ー何を?

お前はただ、「真実」を話せ。

それだけで構わない。

ーもし、守れなかったら、どうなるの?僕は、こわごわ聞いた。

そうだな、お前は永遠に毎夜繰り返される悪夢から逃れることができないだろう。

一生、怯えて過ごすことになる。

それでもなお、お前がわたしに逆らうつもりなら、ーそのとき、一段と強い風が吹いた。

この長く節くれだった腕でお前を握りつぶし、かの巨人サイクロプスに例えられたこの足で、お前を跡形もなく踏みつぶしてしまうことだろう。

どうだ、約束は守れそうか?


(※↑これは小説をもとに、ReJoyライターうぐはらが書いたフィクションです。

小説の内容とは一部異なる箇所がございます。)

はじめに 逝去した原案者の魂を受け継ぐ「著者」

さて、今回ご紹介するのは『怪物はささやく』。

2017年に映画化された作品でもあります。

今回は児童文学特集ということで選びました。

年齢層としては小学校高学年から中学生向けとして書かれていますが、大人が読んでも考えさせられる内容です。

原案者のシヴォーン・ダウドさんは、2007年にがんのため、47歳という若さでこの世から去りました。

ご冥福を申し上げます。

彼女の意思を継いだのが、著者パトリック・ネス。

まだなにかある』をはじめ、多くの著書があります。

2008年にガーディアン賞、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞を受賞するなど、数多くの実績を残した実力者です。

原案者であるダウドさんが五作目として構想を練っていた原案を、彼が世界観を保ちつつ、作品として成立させたのが、本書になります。

注意
以下、ネタバレ注意です。

怪物はささやくの感想(ネタバレ)

少年コナーの生い立ち

主人公、コナー・オマリーは、母親が病に倒れたことで、周りから腫れ物に触れるような扱いを受けています。

そのせいかここの所毎日、悪夢にうなされてばかりです。

ただのおそろしい夢ではない。いつものおそろしい夢だ。

漆黒の闇と、風と、悲鳴の夢。

握り合った手がすべっていってしまいそうになる夢。その手は、放すまいとどんなにがんばっても、やはり少しずつすべっていってしまう。

そして夢のおしまいにはかならずーーp11

親しかったリリーに母親のことを告げ口されてから、からかわれる毎日を送ることになってしまったのです。

ハリーといういじめっ子に目を付けられてから、彼はいつも憂鬱な毎日を過ごしています。

教師もハリーが優等生であるだけに、口を出すこともはばかられるような状況です。

新学期の初日、ハリーは校庭でコナーの足を引っかけて転ばせた

それが始まりだった。以来、ずっと続いている。-p29

ずっと前に彼の両親は離婚していて、父親は新しい妻と結婚しているので、頼ることができません。

おばあちゃんが彼を引き取ろうと話を持ちかけてくれるのですが、母親と離れたくない彼は、駄々をこねます。

彼女の家には骨董品がたくさんあり、彼が手を触れるものなら、それこそ雷が落ちるほど強く叱るからです。

そのうえ、彼女はコナーの母親を気にかけ、「お前のお母さんは今辛いのだから、心配をかけさせてはいけないよ」とコナーに懇願するのです。

「大嫌いなおばあちゃんに引き取られるぐらいなら、独りぼっちでいたほうがいい!」

事実を受け入れている一方で、葛藤している自分がいることを、認めたくないのです。

ある日の午前零時七分、彼は自分を呼ぶ声を聞いて目を覚まします。

それは、いかにも怪物じみた、おどろおどろしい声でした。

声がする方へ駆け寄ってみると、そこにはイチイの木がありました。

母親が語った、墓地の真ん中にそびえ立つ、一本の古木

その正体は、なんと怪物だったのです。

不思議と、彼は怪物を「怖い」と思いませんでした。

なぜなら、怪物よりも怖い「出来事」を知っているからです。

怪物はコナーに、「今から自分は三つの物語を話す。

お前は四つ目の物語を語れ」と、彼に話しかけます。

おまえが第四の物語をわたしに話す。おまえは真実を語るのだ。

そして、こうも予言めいたことを口にするのです。

おまえの真実はーーおまえがひた隠しにしている真実は、コナー・オマリー、おまえがもっともおそれているもののはずだ。

彼は嫌々ながらも、怪物が話す三つの物語に夜な夜な耳を傾けることになります。

怪物は「自分はコナーに呼ばれたから姿を現した」と言いますが、コナーには、言葉の真意が掴めません。

怪物が語る、三つの物語

怪物はコナーに、「三つの物語」を語りかけます。

どれも不条理かつ、寓話めいた話です。

かつて、ここは王国だった。

四人の王子は戦いにより、全員命を落とした。王位を継承するのは、まだ幼い王の孫だ。

王はまもなく新しい妃をめとった。

彼女は若いが、顔立ちはきつく、言葉は辛辣だった。

王が死んだとき、いつしか「彼女は魔女ではないのか」という噂が、どこからか流れてきた。

その一方で、王子は農民の娘に恋をしていた。王妃の政治に耐えかねて、逃げ出してきたのだ。

イチイの木の下で愛し合った後、彼は彼女が息をしていないことに気付く。

何者かが彼女を殺したのだ。

あの王妃が、彼女を殺したに違いない!」王子は村人へ訴えかけるがー。

アポセカリー(薬剤師)と呼ばれる男がいた。

彼の先祖は古くから薬草や樹皮を集め、薬剤を取り扱うのに長けていた。

工場や道が発達してゆくにつれて、薬草を集める作業は、一日がかりで行う大がかりな作業となっていった。

もともと気難しかった彼は、そのことでさらに気難しくなってしまった。

彼は強欲で、必ず治療費をふっかけたからだ。

旧式の治療にこだわるアポセカリーから、次第に人々は離れていった。

それに対し、司祭は慈悲深い性格で、アポセカリーよりも先進的な「教え」を説き、人々から人気を集めていた。

アポセカリーは「イチイの木を切って、薬効のある部分を取り出したい」と司祭に相談したが、取り扱ってもらえなかった。

※イチイは別名オンコアララギともいい、薬効成分がある。果肉は甘いが、種にはがある。

ある日、司祭の娘が流行病にかかった。

司祭はアポセカリーに助けを乞うたが、彼はそれを拒否したため、娘は死んだ。

そんなとき、怪物が現れたのだ。

むかしむかし、誰からも見てもらえない男がいた。

彼は「だれからも見てもらえない」ということに嫌気がさしていた。

決して彼が透明人間であったわけでなく、周りの人間が彼を見ないこととして、決め込んでいたからだ。

ある日、誰からも見てもらえない男は、決断をする。「なんとかして、自分をみてもらえないだろうか」と。

そしてーー第四の物語「?」

不穏と不条理の中に存在する、暴力的な「優しさ」と「愛」

怪物は、ただコナーに「不条理」や「破壊」を教え込むのではありません。

あるときは彼を諭すように、優しく問いかけることもあります。

人間の心は、毎日、矛盾したことを幾度となく考えるものだ。

(略)人の心は、都合のよい嘘信じようとするものだ。

しかし同時に、自分をなぐさめるための嘘が必要になるような、痛ましい真実もちゃんと理解している。

そして人の心は、嘘と真実を同時に信じた自分に罰を与えようとするのだ。

あるときは怒りと暴力の根源のように荒れ狂い、またあるときは、全てを見通して状況を把握し、俯瞰する。

天邪鬼のような怪物は、「人間の心」を具現化したものであるように私には思えます。

この物語がわたしたちに語りかけるもの

原案者が語りたかったもの。

それは、「人間の身勝手さ」「相反する感情を抱えているがゆえの、複雑さ」ではないのでしょうか。

怪物は、身勝手さを言及しつつも過度に責め立てることはせず、むしろ適切な距離を保ちながら、こちらを見つめています。

白と黒、正と負、善と悪。

どちらが正しいのかと両断するのではなく、灰色の状態のまま自分自身を見つめ直すこと。

日ごろから人助けをしている青年が、自分の思い込みによって、「間違った正義」の名のもとに大量虐殺を行い、凶悪殺人者として名を馳せてしまった例が分かりやすいでしょう。

人は単純に、「良い・悪い」で割り切ることができないのです。

白黒をつけられない状況も、時にはあるのです。

正義と悪は、個別のものではなく表裏一体であり、無理に切り離せば人は発狂します。

かのスティーブンソンの名作『ジキル博士とハイド氏』のように。

わたしはあえて推論する、人間とは究極のところ、ひとりひとりが多種多様のたがいに調和しがたい個々独立の住民の集団のごときものに過ぎないものとして把握されるだろう。

人間であるがゆえの「矛盾」を受け止め、人を正しい現実に引き戻す存在。

それが、ここでの怪物という存在なのではないかと思いました。

まとめ

作中、怪物は何度もコナーに語りかけます。「お前は真実を話せ」と。

「真実」。

それは簡単なようでいて、最も難しいことなのではないのでしょうか。

人は生まれたときには純粋でも、どうしても嘘を覚える生き物だからです。

正直に自分の気持ちを打ち明けること。

人はそれを勇気と呼ぶのでしょう。

自分に正直に生きたとき、はじめて人は悪夢から解放される。

簡単なことではありませんが、やり遂げる価値は十分にありそうです。

主題歌:TesseracT/ Perfection(Acousticversion)

イギリスのプログレッシブ・メタル・バンド、TesseracT(テッセラクト)のPerfectionです。

本の雰囲気に合わせて、アコースティックバージョンにしてみました。

曲名は「完璧」という意味です。

中の人の独自翻訳でお届けします。

直訳など、至らない場所もあると思いますが、どうかご了承ください。

「この世界の暗闇の中で全て捧げよう 全てを味わい尽くすために、全て捧げよう」

「そうだ 俺はついにこの世界で見つけたんだ 嘘ででき上がったこの全世界で」

背後から忍び寄ってくる、不気味な怪物の足音のような儚くも不穏なピアノ。

感情をこめて哀切に歌われる、ダニエル・トンプキンスの歌声に酔いしれてください。

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