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『失われた地図』あらすじと感想【直木賞受賞後第一作! 軍都を巡る異能バトル】

直木賞を『蜜蜂と遠雷』で受賞した後の第一作目として『失われた地図』が発表されました。

ピアノコンクールをテーマにした小説から打って変わって、軍都を巡る小説になっています。

しかも、題名の『失われた地図』からはあまり想像がつかない異能力バトルものにもなっています。

本当に恩田陸さんは多彩な小説家だと実感させられますし、恩田ワールド全開の小説にもなっていると思いました。

また、この本は表紙にもこだわりが見られます。

カバーが紙ではなく透明になっているんです。

透明なカバーには、この小説の最後の舞台、六本木周辺の古い地図が印刷されています。

カバーを外すとどこかはわかりませんが、町の一角を写した写真。

透明なカバーによって、古い地図と現在の景色が重なっています。

この装幀は題名やテーマにも絡んできていると思いました。

あらすじのあと、ご紹介したいと思います。

あらすじ・内容紹介

鮎観遼平浩平の3人は「グンカ」という敵と戦っていた。

「グンカ」は記憶の化身であり、日本の旧軍都に発生する「裂け目」から湧き出てきた。

「裂け目」を封じ、「グンカ」と代々戦う鮎観らの一族は、特殊な力を持っていた。

髪に刺さった簪とその髪で裂け目を縫い、裂け目に「グンカ」を追い戻す蝶を出す力。

錦糸町、川崎、上野、大阪、呉、六本木と軍都を巡りながら、「グンカ」と戦う彼らであったが、鮎観と遼平の二人から生まれた息子、俊平に起こったある出来事が引っかかっていた。

注意
以下、ネタバレ注意です。

失われた地図の感想(ネタバレ)

題名の意味

「失われた地図」という題のこの小説ですが、作中では一度も地図は出てきませんでした。

読み始める前は、地図を巡る物語かと思っていましたが、そうではありませんでした。

表紙の古地図を眺めながら考えてみると、古地図を巡るのではなく、軍都を巡る物語。

そして軍都を巡るというのは、過去の時間、記憶を巡ることなのではないかと思いました。

地図はそのときの場所の記憶を保持するものです。

今はもう忘れられてしまった、意識されていない記憶、すなわち失われた地図を巡るのでこのような題名になっているのではないでしょうか。

軍都であった場所を巡る物語ですが、それが可能なのは時が積み重なっているからだとも思いました。

時は連続でなく、積み重なり

この小説のポイントは軍都を巡る小説でありながら、異能力を組み合わせたところにあると思います。

軍都を巡るとなるとどうしても歴史が絡んできます。

しかし巡っていく都市の歴史に触れながらも、重い小説になることなく、非常にライトな読みやすさがありました。

2人が過去の自分たちと出会う場面では、時間の重なりを感じさせます。

これは表紙と共通している、時間というものが積み重なっていることを表しているように思います。

というのもこの本の表紙は最初に書いたように透明な古地図が印刷された透明なカバーになっています。

カバーの下には街の一角を撮った写真。現代の街と古地図とを透明なカバーを活かして重ね合わせられた装幀は「今」と「過去」が連続しているものではなく、重なったもの、ということを表しているのではないでしょうか。

連続ではなく積み重なり。

だからこそ彼らが過去の自分たちに会えたのだと思います。

そうなると大阪城でのできごとも納得できます。

大阪城では旧日本兵の姿をした「グンカ」以外にも武士たちが出てきます。

足軽や傭兵たちです。

石垣が宙に飛び、その上に立って戦っている迫力満点のシーンが印象的でした。

石山本願寺で一向宗と織田信長の激しい戦いがあり、その石山本願寺の跡に大阪城が建てられた歴史を知っている人にとってはより楽しめた場面ではないでしょうか。

かくいう私も大阪城ということは、と期待したのでとっても楽しめるシーンでした。

他にもちょっとした小ネタがありました。

時間の重なり、とは関係はありませんが、黒澤明の『天国と地獄』を想像させるような表現や、神保町と海軍のカレーが有名な理由など、物語以外にも楽しめる工夫がありました。

本好きにとっては神保町=カレーというのは当たり前すぎますが、なぜカレーなのかは考えたことがありませんでした。

神保町というとさまざまな文化が集まる、学生街。

文化を超えてみんながおいしく食べられるから、といった説にはなるほどと思いました。

カレーが嫌いという人はあまりみかけません。

この作品は作者である、恩田陸さんが実際に現地に赴き、取材したことや感じたことを小説内に取り入れているようです。

現地の人やその場所に行ったことのある人なら、気が付ける小ネタがまだまだあるかもしれません。

掻き立てられる想像力

この小説の特徴の1つとして、主人公たちについての説明が少ないという点があると思います。

読んでいる途中、この小説はシリーズだったかと少し思ってしまうほどでしたが、読み進めていくと納得することができました。

決して説明的になりすぎることもなく必要な情報は読み進めていくと自然に出てきました。

遼平と鮎観の関係や鮎観の耳についても、物語の中で自然と明かされました。

ただ他の情報、「グンカ」と戦う彼らの一族についてなどの詳しい設定は語られません。

戦争したがっているヤツが増えているからじゃないの?

というセリフがあるように、どうやら「グンカ」人の負のエネルギーに反応していることはわかりますが、これは読者の想像力を信じて書かれた小説だと感じました。

読者が自由に鮎観の一族の歴史や、「裂け目」とは、「グンカ」とは、と考えることができます。

正直明かされなさ過ぎて最初の方はわかりづらいというのも事実です。

ですが、先ほど書いたように読み進めていけば自由に想像できるだけの情報は出てきますので、最後まで読み進めていくのがおすすめです。

特に最後のシーンはかなり読者に任せた結末だと思います。

光がある終わり方とも捉えられれば、光のない闇が待っていると捉えることもできそうです。

「ダイジョウブ」

という息子、俊平のセリフで終わりますが、どう「ダイジョウブ」なのかは読者によって分かれると思います。

軽く読める小説といっても全体的に不穏な雰囲気がありますし、カタカナで「ダイジョウブ」というのも不穏でしかありません。

とはいっても物語の途中で「グンカ」がインフレ状態で出てくるようになってきていますし、俊平が打開策になるのではないかなと想像しました。

この結末をどのようにとらえたか。ぜひコメント等で教えてください。

まとめ

この小説は直木賞を受賞した『蜜蜂と遠雷』とはまったく別の作品でした。

受賞後第一作として発表されたこの『失われた地図』を読んで驚いた方もいるのではないでしょうか。

異能バトルであり読みやすい文体で書かれたこの作品でしたが、中身はとても濃厚でした。軍都を巡りながら、“失われた地図(記憶)”に触れていく様子は、いつ「グンカ」が出てくるかハラハラしながらも、新鮮なものでした。

最後まで明かされないことが多く、想像が掻き立てられました。

それがこの小説の魅力でもありますが、まだ軍都であった地域は残っているので、続く可能性はあると期待しています。

主題歌:ゆず/終わらない歌

「終わらない」ということでいつまでも時間が重なっていき、続いていって欲しいという思いからこの曲を選びました。

私はこの小説の最後を希望がある終わり方ととらえたので、未来を信じるような明るい曲とあうかと思います。

反戦を少し感じさせるところがありましたので、出だしの

争うことはいつだって 悲しみしか生まないのに

という歌詞とも合うと思いました。

ぜひこの曲と一緒にこの本を楽しんでください。

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