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『有頂天家族』原作小説あらすじと感想【九死に一笑のたぬきコメディ】

『有頂天家族』あらすじと感想【九死に一笑のたぬきコメディ】

はじめに

「面白きことは良きことなり!」

京都を舞台に笑ってみませんか?

森見登美彦氏の作品は和風モダン。

脱力した台詞回しと、リズミカルな言葉のチョイスにより、森見氏独特の世界観に引き込まれます。

また、登場人物にやぼったい大学生をすえるなど、抑えきれない関西人の血が随所に見え隠れしているのも特徴です。

笑いの要素をふんだんに盛り込みながらも、どこか洒落た印象を与える森見ワールドは中毒性ありです。

その物語の多くは京都を舞台にしているので、読者は観光気分で読み進められます

下賀茂神社の古本市、たわしを買った内藤商店、進々堂での待ち合わせなど、京都の学生であった森見氏ならではの視点で描かれています。

その中でも複数の作品で登場する鴨川デルタは、京都の学生であれば必ず飲み会をした聖地ではないでしょうか。

私もバーベキューに興じては学生生活を浪費したものです。


そして、今回ご紹介する作品は『有頂天家族』。

森見氏には珍しく、動物(たぬき)を登場させたファンタジー小説です。

主人公のたぬきは作者お得意の「腐れ大学生」に化けるなど、安定の森見節がさく裂しています。

たぬきと言えばスタジオジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』を連想する方も多いと思いますが、そこは関東と関西の違いなのでしょうか。

野生動物のアイディンティティーはどこへやら。

森見たぬきは「面白きことは良きことなり!」を合言葉に、人間と争うこともなく文明を享受して暮らしています。

その設定から避けるファンも多い一冊ですが、読まず嫌いは損をする笑いと涙にあふれた傑作です。

あらすじ・内容紹介

「面白きことは良きことなり!」

時は平成。

京の町にうごめく毛玉は魑魅魍魎か、魔性の類か。

いやいや、あれは阿呆の血をひく京たぬき。

あるときは可愛らしい女子高生、またあるときは腐れ大学生にくるんと化けて京さんぽ。

しかし、所詮はたぬきの浅知恵。

脈々と受け継がれし「阿呆の血」が騒ぎを起こさずにはいられない。

五山の送り火に花火を打ち上げ、偽叡山電車で寺町通を駆け抜ける。

ふさふさ毛玉たちの奇妙で愉快な物語が始まります。

注意
以下、ネタバレ注意です。

有頂天家族の感想(ネタバレ)

魅力的な登場人物(たぬき)

【下鴨たぬき一家】

  • 総一郎:父。たぬき鍋の具。
  • 桃 仙:母。「くたばれ」が口癖の肝っ玉かあちゃん。
  • 矢一郎:長男。偉大なる父に及ばぬ跡継ぎ。「鴨虎」の異名を持つ。
  • 矢二郎:次男。井の中のカエル。酔うと偽叡山電車に化ける。
  • 矢三郎:三男。主人公。阿呆の血を色濃く受け継ぐ。弁天に恋心を抱いている。
  • 矢四郎:四男。兄弟一の劣等生。特技はケータイ電話の充電。

【天狗】

  • 赤玉先生:老いぼれ天狗。たぬき達の師。矢三郎とは「先刻承知なことを先刻承知」な関係。
  • 弁天:昔人間、今天狗。妖艶な姿でたぬきと天狗を魅了する。

たぬきと京行事

作中では京都伝統の行事が物語に彩りをくわえています。

しかし、たぬき達にかかれば霊験あらたかな神事も形なしのようです。

人間の日常生活や年中行事に相乗りして遊ぶのが、なんだか妙に面白い。

夏の風物詩たる五山送り火の宵、浮かれる人間どもに調子を合わせて、我ら狸が浮かれる。

このやむにやまれぬ性癖は、遠く桓武天皇の御代から、脈々と受け継がれてきたものに違いなく、今は亡き父はそれを「阿呆の血」と呼んだ。

なんと、京都のお盆の代名詞ともいえる大文字の送り火に合わせ、飲んで踊ってのどんちゃん騒ぎをたくらんでいるのです。

毛玉には信仰心がないとはいえ罰当たりな話ですね。

死者の魂をあの世へ導く送り火を、酒の肴のイルミネーションとでも思っているのでしょうか。

京のコケンに関わるゆゆしき問題です。

※賢明なる皆さまは決して「大文字焼き」とはおっしゃらないように願います。京都人の怒りが五山を焼き尽くしますよ。

この日、たぬき達は空飛ぶ納涼船に乗って山々を見下ろし、その阿呆ぶりをご先祖様に見せつけるのが慣わしとなっています。

蒸気船のような外輪つきの船がずんずん進んで来る。クリスマスツリーの飾りのごとき電飾を甲板や帆柱に張り巡らせ、派手にチカチカさせて光らせている。

甲板には椅子やテーブルがたくさん並べてあって、あたかも空飛ぶビアガーデンのごとし。

この奇妙奇天烈な船をもって京都上空を飛び回るだけならいざ知らず、挙句の果てには花火を打ち込み合って大合戦を繰り広げるというのですから、われら人間の御霊は黄泉の国へと追い散らされたことでしょう。

この騒ぎによって「半天狗」弁天からの借り物が失われ、怒った彼女は「たぬき鍋の具」として矢三郎を狙います。

あわれ矢三郎は父と同じく肉となり喰われる運命にあるのでしょうか。

天狗、人間、たぬきの三つ巴の攻防は泥仕合の様相を呈し、阿呆の血を沸きたぎらせた毛玉たちが京の町を駆けめぐります。

たぬきの家族愛

破天荒なたぬき達ですが、意外と家族思いの一面があります。

兄弟の父である総一郎は、一族の長である「偽衛門」の称号を持つ偉大なるたぬき。

しかし、秘密結社「金曜倶楽部」の手に落ちてたぬき鍋にされてしまいました。

跡を継いだ長男は弟達に当たり散らし、次兄は井戸に引きこもり、三男は阿呆で、四男はダメぼっちゃん。

父の死によってバラバラになりかけた兄弟をまとめているのが、これまた偉大なる母たぬきの桃仙です。

彼女はダメ息子達をありのまま愛し、汝の敵をめった打ちにする肝っ玉母さんですが、雷だけは大の苦手

ひとたび雷鳴が響くと化けの皮が剥がれ、文字通り尻尾をまいて逃げまどうのが常です。

偉大なる父を持つ者の悲劇。

器量不足の残念なたぬき兄弟ですが、母を思いやる心だけは本物です。

雷雲の気配があればすぐさまに己の都合をかなぐり捨て、いかなる困難をものともせず桃仙のもとへと集います。

雷鳴は、いわば下鴨家全員集合の呼び笛である。

下賀茂家の子どもたちはひとたび雷神様がやってくれば、一切を放棄して母のもとへ駆け戻るのを身上とする。

森の木陰にある小さな蚊帳の中にもぐりこみ、毛深い身を寄せ合って我々は息をひそめた。

弟が母にぴったりと身を寄せており、それを私と長兄が両側から挟んでいた。

ときには叱りなだめ、ときには弱みをもって兄弟をひとつ場所に集める。

そんな家族の要石である母たぬきの桃仙ですが、物語終盤では人間に捕らえられてしまいます。

その裏には敵対する夷川一族の暗躍があるようで、たぬき兄弟も次々に罠にはめられていくのでした。

今こそ毛深き家族愛が試される。

ぷにぷに肉球を振りかざし、愛する母を鍋の底から救出するのだ!

総評

さて、この作品の感想を問われると非常に困ります。

何やら毛玉達がもごもごとしておりましたが、結局のところ物語は何も進展していないのですから。

たぬき一家は相も変わらず遊びほうけ、人間達は後始末に追われています。

しかし、父の死や夷川一族との抗争など、ややもすればバイオレンスになりうる展開をコミカルに表現しているのは、作者の腕と阿呆の血の成せる業といったところでしょうか。

さすがは実益のないことを書かせれば当代随一のヘンタイ作家です。

作中最大の山場である桃仙奪還戦においても、森見氏はシリアスな展開に耐えかねたものと思われます。

矢二郎おとくいの偽叡山電車の暴走に端を発し、結局のところは安定のドタバタ劇へと収束してしまいました。

まあ、そこが今作の魅力でもあるので追及するのはよしましょう。

当たり前のように血が流れる作品にあきあきとしている。

「誰も死なない」「誰も傷つかない」。

そんな物語を求めている方にぴったりの一冊ですよ(総一郎は鍋になりましたが…)。

なんとも化かされたようなお話でしたが、まさかの続編が用意されています。

『有頂天家族 二代目の帰朝』。

赤玉先生の跡継ぎが京都に戻り、たぬき界を大混乱におとしいれます。

とは言えたぬき達のやることですから、今回もマジメな展開になるはずもなく、抜け毛をまき散らすだけの結末に終わるのでしょう。

いやいや、この虚無感こそがモリミーワールドの醍醐味なのです。深く考えてはいけません。

今しばらく毛玉達の動向と作者の遅筆を生ぬるく見守っていこうではありませんか。

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