〈水木しげる(みずき〜)〉は叫ぶ。
妖怪や目に見えないモノが、ニッポンから消えている!
そんな叫びとは裏腹に、日本各地に妖怪が現れ始める。
その影響で、各地の交通機関が麻痺する事態が頻発。
更に大事になることも増え、日本国内には〈妖怪撲滅〉の気運が高まっていく。
その背後には、あらゆる魔術を使い熟す魔神、〈加藤保憲(かとう やすのり)〉の影が…。
荒んだ空気が蔓延する中で、〈榎木津平太郎(えのきず へいたろう)〉や〈荒俣宏(あらまた ひろし)〉、〈京極夏彦(きょうごく なつひこ)〉たちは、事態の原因究明に奔走する。
実在の作家たちと虚構の妖怪たちが繰り広げる京極版〈妖怪大戦争〉、勃発‼︎
こんな人におすすめ!
- 妖怪が好きな人
- 特撮が好きな人
- 実名小説が好きな人
- 諸々のオタク趣味な人
あらすじ・内容紹介
〈イカンですよ!〉と、水木しげるは叫ぶ。
〈目に見えないモノが、ニッポンから消えてるンですよあんた!〉という水木しげるの怒りの叫びとは裏腹に、日本各地には妖怪が姿を現し始めた。
〈百キロ爺〉が高速道路を疾駆し、〈朧車〉によって新幹線は止まり、小説家〈黒史郎(くろ しろう)〉の頭の上にはドルゲ魔人の様な見た目をした妖怪〈しょうけら〉が鎮座する。
徐々に日常に浸食してきたその妖怪たちの影響で、交通機関の麻痺が続出。
更に大事になる事態も頻発したことにより、日本全国で〈妖怪撲滅〉の気運が高まっていく。
殺伐とし始めた社会では、嗜好品や娯楽が全て〈不謹慎〉とされ自粛に追い込まれる。
これにより更にストレスを溜め込んだ社会は、政府の暴挙や自警団の暴走、善良な人々の正義の行いによって、やがて笑顔すらも禁止される相互監視社会となっていった。
その背後で蠢くのは、あらゆる魔術を極めた魔人〈加藤保憲〉と、大妖怪〈ダイモン〉の影。
悪い方へと転がり続ける鬱屈とした社会の中で、〈榎木津平太郎〉や〈荒俣宏〉、〈京極夏彦〉たちが原因究明に乗り出した!
陰惨極まる暴力的な世界観で、変わらず軽口を叩くマイペースな彼らは、果たして事態を収束させることができるのか。
そもそもどうやって事態を収束させるのか?
妖怪への愛が溢れた京極版〈妖怪大戦争〉、勃発‼︎
『虚実妖怪百物語 序破急』の感想・特徴(ネタバレなし)
マイペース極まる作家陣
オモチロクないといかんですよ
今作は、所謂〈実名小説〉である。
登場するのは、今作の著者である〈京極夏彦〉氏を始め、『帝都物語』で有名な〈荒俣宏〉氏やクトゥルー系の作品を多く手がける小説家〈黒史郎〉氏、さらには数々の名作怪談作品を生み出した編集者の〈東雅夫〉氏(この方は、東映の大御所・白倉Pとネット上で口論を繰り広げたことで、特ヲタ会で名を馳せたこともある)、日本でただ1人〈妖怪研究家〉を正式な肩書として食べていける〈多田克己〉氏、etc…。
そして忘れてはいけない、〈妖怪〉といえばこの人を抜きにして語れないであろう大漫画家、〈水木しげる〉先生まで登場するのだから、ぶっ飛んでいる。
その他にも、実話怪談集『新耳袋』を生み出した著者の1人、〈木原勝彦〉氏は単身で政府との戦いに挑むし(その様は殆どテロリストだ)、官能的な物語を描く〈石田衣良〉氏はニュース番組でコメンテーターをしている。
SF作家の〈円城塔〉氏に至っては、なぜか邪神を崇拝する集団の中に混じっている始末。
(因みに、今作の語り部の1人である〈及川史郎〉氏は、実在の角川の編集者の方。作中では大体ロクなめに合っていないが、一時期話題を呼んだ〈エヴァンゲリオンと日本刀展〉の仕掛け人だったり、海外公演をしていたりと、かなり凄い人。でも作中での扱いはかなり雑。本当に酷い。)
とことん〈露悪的〉ならぬ〈露馬鹿的〉に描かれた彼らは、日本社会がどんどん悪い方に転がっていく中でも、見事なまでに〈馬鹿〉のままだ。
割と命の危険がある中ですら、議論(というか雑談)の9割が不真面目という、馬鹿の猛者たちの活躍は、結構ためになる話や真面目に捉えるべき?という話もあるのだが、読んでいるとどうしても笑えてくる。
著名な作家、編集者、漫画家、評論家がこぞって、真面目に馬鹿をやっている様子は必見だ。
ひょっとしたら、好きな作家がいきなり登場するかもしれない。
メジャーな妖怪からドマイナー妖怪まで、大勢参戦‼︎
百キロ婆って歩くんでしょうか
実在する人間たちに負けず劣らずの存在感を(存在してないのに)放つのが、メジャーどころからマイナーどころまでこぞって登場する〈妖怪〉たちだ。
〈河童〉や〈スネコスリ〉、〈狸惑わし〉と〈のっぺらぼう〉に〈手洗い鬼〉、〈大首〉、〈朧車〉〈天狗〉に〈ぬっぺっぽう〉と、もう出るわ出るわ。
〈河童〉は、日本推理作家協会の代表〈今野敏〉氏を投げ飛ばして負傷させるという、それはもう見事な活躍を見せるし、〈狸惑わし〉は作家の〈恩田陸〉氏を化かして同じところを延々と迷わせ、最後に〈のっぺらぼう〉が脅かすという見事な合わせ技を披露。
〈スネコスリ〉に至っては、中央公論者の編集者〈名倉宏美〉氏に飼われているのだから、妙な話である。
更に黒史郎氏の頭部に居座った〈しょうけら〉は、ポケモンも真っ青な進化を遂げていく。
京極夏彦氏の作品からもスペシャルゲストが登場するのも、ファンにとっては嬉しいところ。
癖の強い人間に負けないほど癖の強い妖怪たちの、活躍したりしなかったりも今作の大きな魅力だ。
是非とも愉快な妖怪たちの馬鹿馬鹿しさ満点の振る舞いを、ゲラゲラ笑いながら読んでみてほしい。
荒唐無稽な大戦争
亀は万年と申しますが、あれは万年ものですか。あんなに大きく育つもんなのでございますね
過程の説明は省くが、京極版〈妖怪大戦争〉と銘打つだけあって、当然ラストバトルは迫力満点の〈大戦争〉が描かれる。
ただし登場するのはらベタな妖怪だけではない。
火を吹いたり飛んだりするデカい亀のアイツと、最近三下ムーブが話題のあの翼竜が地上と空で暴れ回り、妖怪と人間のハーフにして未来の人間と恋仲に発展するアイツは兄と共に参戦してデカイ剣を振り回す。
テレビから出てきて呪いを振りまくあの人から、友人帳に名前が載ってそうな某先生、妖怪を食べる虎に似た大妖怪、そして〈妖怪の星〉たる〈ゲゲゲの鬼太郎〉さんまで、節操無しに続々と名キャラクターが登場し、場を掻き乱す。
もはや〈映像化してみて欲しいけど版権とか諸々で無理そうだよなコレ〉、というレベルである。
余りにも荒唐無稽な大戦争は、頭を空っぽにし〈馬鹿になって〉楽しめることだろう。
まとめ
京極版〈妖怪大戦争〉と銘打たれた今作は、実在の作家と虚構の妖怪、更に数々の名物キャラクターが登場し、洒落にならないような陰惨な社会で馬鹿を繰り広げる、お祭りのような作品だ。
割と風刺が効いていたり、今の社会について考えさせられたりという描写も無いではないが、とりあえず〈馬鹿〉になって楽しめる1冊だろう。
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