「青春とは、映画や漫画で見るように、甘酸っぱくて、爽やかなものだ。」
私も経験するまではそう思っていましたが、実際は思い込みやすれ違いもあって、後悔して自暴自棄になってしまうような日々でした。
『青くて痛くて脆い』(くてくて)は、住野よるさんなりの青春についての答えが書かれた1冊です。
あなたが胸の中にしまいこんでいた、その痛み。
取り出して目の前にさらけ出しても「怖くない」と、自信を持って言えますか?
目次
こんな人におすすめ!
- 青春時代に戻りたい人
- 人間不信に陥っている人
- 他人の心の中を知りたい人
あらすじ・内容紹介
主人公の田端楓(たばた かえで)は、器用に生きてきた男性です。
狡賢いとも言えます。
大学でもそれなりに目立たないようにしようと思っていましたが、そんな矢先、秋好寿乃(あきよし ひさの)という、全く正反対な女性と出会ってしまいます。
彼女は口を開くなり「暴力の排除」を宣言するような、彼からすると「痛い」人間でした。
そんな彼女と2人で築き上げたのが「秘密結社モアイ」だったのですが…。
『青くて痛くて脆い』の感想・特徴
かつての秘密結社、「モアイ」を取り戻せ!
秋好がいなくなったモアイは、もう以前の秘密結社とは別物となっていました。
経営方針も、以前は「なりたい自分になる」というシンプルな動機だったのですが、「目指す自分になるための、就活を支援する団体」ということになっていたんですね。
色んな企業と関わり合った結果、メンバーも、かつてより50人近く増加しています。
規模が大きくなるに従って、彼らが横柄な態度をとることもありました。
現状を確認した楓は、自分の居場所を取り戻すために「今の繋がりを壊してでも、昔のモアイを取り戻そう」と友人の菫介(とうすけ)やポンちゃんの力を借りて、何とかしてメンバーの弱みを握ろうと奮闘します。
最終的に、彼は人として許されないところまで知ってしまうのですが、詳しく書いてしまうと重大なネタバレになるので、ここでは述べません。
彼が終盤に向き合わなければならなくなったこと。
それはいつ、誰にでも起こりうることです。
自分を騙しながら生き残る方法
楓が直面したのは、「同調圧力」です。
彼は、自分の行動には相手を不快にさせてしまう特性があることを、あらかじめ見抜いていました。
そのため、なるべく身をひそめて、目立たないようにしていたのです。
やりたいことを押し殺し、周りに合わせ続けていると、自分が何をしたいのかが全く分からなくなってきます。
「本当の自分はどこにいるのだろう?」
彼もそう思ったのではないのでしょうか。
この場合、どこかで見切りをつけ、信頼できる人を見つけたりして本当の自分をさらけ出すことが必要です。
楓は小器用ですが、そういうことが一切できませんでした。
何が、理想のため、だ。
何が皆のためだ。
お前はずっと、お前のためだけにしか生きていないくせに、
僕はその巻き添えになった。
楓の暴走、仲間との亀裂
楓がかつてのモアイの復活に燃えているのには、訳があります。
初期メンバーだった自分を無かったことにしておいて、秋好は一体何を考えているんだ。
問い詰めて、本心を明らかにしたい。
この気持ちの陰には、「置いていかれて淋しい」という、楓の本心が見え隠れしています。
冷静な判断を忘れた彼には、自分と秋好の姿しか映っていません。
そのことが自身を追いつめ、菫介を悲しませることに繋がるのですが…。
なんて、遅いんだろう。
こんなに、重要なことだったのに、どうして、今の今まで気が付けなかったのだろう。
住野よるが葛藤と反発心の末に生み出した物語の核「モアイ」
『青くて痛くて脆い』に登場する、主人公・田端楓と秋好寿乃が作った「モアイ」というサークルは、実在する団体「東大ドリームネット」がモデルになっています。これは、住野よるの担当編集者が大学時代に実際に在籍していたサークルです。
「東大ドリームネット」は、主に学生たちが自分たちで自らの進路を決めるための活動に重きを置いています。
住野よるは「モアイ」を作るにあたって、「東大ドリームネット」の活動内容のほかに、
- 小さなサークルが大規模になるまでの期間
- どのような活動展開をしていっているか
- 「東大ドリームネット」のような団体に致命的なダメージを与えるものはなにか
などを参考にしたとのこと。
小説内で「モアイ」は、楓と秋好が結成した当初よりもどんどん規模が大きくなっていきます。会員数も増えて、活動内容も多岐に渡るようになります。
そんな「モアイ」の変貌ぶりを、住野よるは自身のデビュー作で、最大のヒット作の『君の膵臓をたべたい』と重ね合わせているんです。
楓が「モアイ」の変化について葛藤や反発を覚えていくように、住野よるは自身の手を離れていった『君の膵臓をたべたい』に対する世間の反応や解釈のされ方に、激しい葛藤と反発を覚えたといいます。
そんな著者の葛藤と反発心が、本書の核となる「モアイ」というサークルに色濃く反映されています。
主人公・田端楓は住野よるに最も嫌われ最も愛されるキャラクター
主人公・田端楓は住野よるがいちばん嫌いなキャラクターだと言っています。それは、楓というキャラクターが住野よる自身をかなり投影したキャラクターだから。
楓は独りよがりで、理想が高く、一方的に物事を決めつける傾向がうかがえます。大学入学当初は人に不用意に近づかないことを信条としていたぐらいです。
住野よるはそういった楓のキャラクターを嫌いだと公言していますが、それは自分に一番似ているからだといいます。おそらく、著者にとって最も嫌いなキャラクターだという以上に、最も愛着のある主人公なのではないでしょうか。
実写版映画と原作小説の違いを2つ解説
原作では描かれていない2人のボランティア活動詳細と、映画では採用されなかった「ヒロ」というニックネーム。2つの違いが生んだ、驚くべき効果とは。
原作と映画で重なり合う2つのテーマ
原作では描かれていませんが、楓と秋好の2人は映画ではフリースクールのボランティア活動を積極的に行っています。そのフリースクールにいるのが、「瑞希」という映画オリジナルキャラクター。瑞希は楓らと交流していくうちに、自分というものが出せ、自分らしくいられるようになっていきます。
原作では「人は変われるはずである」というテーマを繰り返し主張しています。それに重ねて映画では「変われるタイミングは人によってちがう」ということを表現しているのでしょう。
秋好のニックネームの秘密と、楓が復讐へと駆り立てられる理由
原作で「モアイ」のメンバーは秋好のことを「ヒロ」と呼んでいますが、楓だけが秋好のことをニックネームでは呼ばずに、直接的に「秋好」と呼んでいるため、読者には終盤まで「ヒロ」=「秋好」という図式が成り立たない構図になっています。
しかし、映画では「ヒロ」というニックネームが一切使われていません。バーベキューのシーンで秋好自身が登場することにより「モアイ」の代表者の正体の謎解きがされるのです。
「モアイ」の代表者が秋好だということが判明することで、楓はより一層「モアイ」への復讐心も燃え上がらすことになります。映画ではそうした楓の心の機微が丁寧に描かれているので、原作とあわせてチェックしてみてください。
映画主題歌はBLUE ENCOUNT「ユメミグサ」
2020年8月28日に吉沢亮と杉咲花がダブル主演で、実写映画が公開されました。
映画の主題歌はBLUE ENCOUNTの「ユメミグサ」でした。
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楓に感情移入しまくりでした
きれいな思い出だけが青春ではないですね