寒く凍てつく冬が鳴りを潜め、徐々に春らしい風が吹いてくる。
そのような季節になると、あちこちで”卒業式”の文字を見かけるようになる。
それまで日常だった世界が”卒業式”を境に終わりを告げる。
日常と終わりが混在する曖昧な時期なのが、この季節なのかもしれない。
そんな卒業式の時期に向かっている今だからこそ贈りたい本がある。
卒業前最後の学校行事「歩行祭」を舞台にした小説、恩田陸さんの『夜のピクニック』である。
目次
こんな人におすすめ!
- 本屋大賞受賞作品を読みたい人
- ドラマチックな青春ドラマが読みたい
あらすじ・内容紹介
北高で開催される「歩行祭」。
80kmの行程を朝8時から24時間かけて、ひたすら”歩く”行事。
高校3年生最後の「歩行祭」に臨む甲田貴子は、この行事でひそかな賭けをしていた。
それは、”今まで抱えていた思いを告げること”である。
登場人物
夜のピクニックの感想(ネタバレ)
ただ歩くだけなのに「ドラマ」がある。
みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。
どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね。
傍目から見ると、ただ歩いているだけ。
けれども、長い距離を歩いていると、足は棒のようになっていく。
日常生活では感じない疲労感からか、登場人物たちは普段の学校生活では話せないことを話し出す。
美和子は高校1年秋から付き合っていた彼氏と別れたと。
忍は北高生徒との子どもを中絶したという他校の女子生徒にあてつけられていると。
千秋は忍に想いを寄せているけど、告白しないと。
そして、美和子と杏奈が、貴子と融が異母兄妹であることを知っていたと。
ただ歩くだけなのに、普段言えないことを語る。
それがなんともドラマチックである。
ただ歩くだけなのに「青春」がある
お互いの存在は知っていても、できるだけ関わらないようにしていた融と貴子。
しかし思わず、貴子と融の関係は順弥によって暴かれてしまう。
お互い隠したがっていた異母兄妹の関係であるが、二人とも予想に反して、心はすっきりしていた。
また事実を知った美和子や忍の勧めもあり、途中から二人は並んで歩く。
「これって、すごく青春ぽくない?高校生活最後の行事。歩行祭の、一番終わりの頃になって、ようやくこれまで口きいたことない、憧れのクラスメイトと話してる」
融は絶句したが、つられて笑った。
「だな。しかも、腹違いのきょうだい。超メロドラマ」
「青春じゃん」
異母兄妹の二人が並んで歩く。
なのにこのような会話ができるほど、思いが刻まれる。
それがなんとも青春らしい。
貴子のひそかな賭け
貴子の賭け。
それは、西脇融と話すこと。
そしてお父さんのお墓参りに誘うこと。
しかし、貴子は歩行祭の途中で、大学受験が終わったら融を家に誘うことに変える。
確かに、二人とも父親がいなければ、この世に存在していないが、
言い変えると、父が亡き今、この世でたった二人の兄妹なのである。
それゆえ、貴子は融と新しい関係を築くことを優先させたのかもしれない。
まとめ
ただひたすら歩く「歩行祭」。
それが、ドラマチックな青春ドラマとなっている。
貴子は賭けに勝ち、また融との関係も落ち着くところに落ち着く。
こうして二人は一度、歩行祭で和解し、ハッピーエンドを迎える。
だがこの話はここで終わらない。
二人はその先を見据えている。
これから先、二人を待ち受ける長い歳月。言葉を交わし、互いに存在を認めてしまった今から、二人の新しい関係を待ち受ける時間。もはや逃げられない。一生、断ち切ることのできない、これからの関係こそが、本当の世界なのだ。
それが、決して甘美なものだけではないことを二人は予感していた。
この関係を疎ましく思い、憎く思い、やりきれなく思い、関わりたくないと思う瞬間が来ることを二人は知っていた。それでもなお、互いの存在に傷つき、同時に励まされながらも生きていくのであろうことも。
この視点が入ることで、ただのハッピーエンドの青春ドラマにならず、読者(現実)に近いものを与えてくれるのだと感じた。
それがこの小説が長い間読まれている所以であろう。
主題歌:YUKI/ハローグッバイ
わたしが見てきたすべてのこと
むだじゃないよと君に言ってほしい
人は誰かとかかわるハローグッバイ
ちから漲るよわなわなと
巡り逢うよベイビイ
花王の「エッシェンシャル ダメージケア」のCMソングでもあったこの曲。
しかしシャンプーのイメージソングに反して、歌詞をよく見てみると、まるで貴子が融へ話しかけているように感じた。
このサビ部分以外も、まるで貴子のように感じられる箇所もあり、フルコーラスで聞いてほしい曲である。
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