累計発行部数6,800部を突破し、間もなく連載15年目へと突入する『キングダム』。
魅力的なキャラクターが多数登場するこの漫画を語る時、最初に紹介するのはやはり主人公・信だ。
当初は粗野で乱暴者の印象が強かった彼だが、仲間と共に修羅場を経験することでリーダーとして成長していく。
『キングダム』は中華統一という大偉業を通して、「信」の成長を描く記録といってもいい。
まずは、知ってそうで忘れられがちな「信」の基礎知識から紹介していく。
信についての基礎知識を5つ紹介!
初登場時、年齢は14才!全ては漂との約束から始まる
信は同じく戦争孤児だった漂とともに、下僕として里典(村の長)の家で養われていた。
養われていたといっても奴隷のように働かされる、下僕扱いだった。
つまり物語の主人公・信は、ピラミッドの最下級層からスタートしたことになる。
時は紀元前245年、当時の信と漂は14~15才でありながら、毎日ともに重労働をこなしながら、里典の目を盗んでは2人で剣術の稽古に明け暮れる日々だった。
2人には目標があったのだ。
まずは磨き上げた剣術で武功を挙げまくる。
そして中華全土に名が響きわたる、「天下の大将軍」になることだ。
そのために2人は1,200戦以上の真剣勝負をこなしてきた。
ある日、漂ひとりだけが王宮に召抱えられることになる。
ところが1ヶ月後、血まみれとなり、絶命寸前の漂が、突然信の前に現れる。
漂は、ある丘の小屋を示す地図を、信に託しながら、
漂「今すぐそこへいってくれ。いいな信!託したぞ」
どう見ても助からない漂に対し、信は叫ぶ。
信「死ぬんじゃねェよ漂・・・、2人で天下の大将軍になるっつったじゃねェかよ!!!」
泣き喚く信に向かい、漂は笑顔で彼を抱きしめる。
漂「なるさ!」
そして最期の力を振り絞りながら、この言葉を信に伝える。
漂「信、俺達は力も心も等しい。ふたりは一心同体だ。お前が羽ばたけば俺もそこにいる。信・・・俺を天下に連れて行ってくれ」
そう言うと漂は大粒の涙を瞳に満たし、笑顔のまま絶命した。
以後、信は「漂とともに天下の大将軍になる」約束を果たすために、戦い続けることになる。
「信」のモデルは実在の将軍・李信!
主人公・信のモデルは実在した将軍・李信である。
このことは、漫画の第1話冒頭に、戦場で活躍する李信が描かれていることから分かる。
部下から「将軍」と呼ばれる未来の信からは威厳すら感じられるほどで、直後に下僕として登場する幼き信とは、似ても似つかないほどの成長ぶりだ。
史実上の李信は、「史記」にその活躍が記されているほどの名将であるが記述は少なく、謎が多い。
いつ生まれ、いつ死んでいったのかも記録は残っていないが、始皇帝(政)の中華統一に大きく貢献した記録は残っている。
この史実上の記述の少なさと、活躍したという裏づけの一見相反する側面が、李信を主人公に抜擢させた要因である。
のちに作者である原泰久先生は、「史実上にあまり記録が残っていないからこそ、行間を埋めていく自由度がある」と仰っている。
だからこそ、卑しき身分の出である信が、のちの始皇帝となる政とともに「中華統一」を目指すというストーリーが可能となったのだ。
また李超という息子が記されていることから、結婚して家庭を築いていたようだ。
こちらもどのように『キングダム』で描かれるのか、興味深いところだ。
「天下の大将軍」王騎から受け継いだモノとは?
信が目指す「天下の大将軍」とは、一体どのようなものか?
具体的な指針となって信の前に現れたのが、秦国六大将軍最後の1人・王騎大将軍だった。
信は王騎にかつてない大きなものを感じ、王騎も信の秘めたる資質を見抜いていた。
しかし、山陽の戦いで王騎は趙国三大天・龐煖に致命の一撃を浴びてしまう。
誰もがあきらめたその時、龐煖に対し王騎が放った言葉が「天下の大将軍とは?」の答えだろう。
王騎「千万の人間の命を束ね戦う責任と絶大な栄誉。故にその存在は重く、故にまばゆい程に光輝く!」
この光景を見ていた信は「天下の大将軍」への明確な道筋を、王騎から受け取ることとなる。
その後、取り返しのつかない深手を負った王騎を、共に馬に乗り脱出路を模索する信。
すると後ろで騎行していた王騎は、信に大切なことを教える。
敵の群や表情、そして王騎を慕う味方の表情、さらに天と地と・・・。
それは将軍の馬に乗っている2人だけが見る景色、「将軍の見る景色」だった。
命を削りながら王騎が見せたかった景色に、信は何かをつかむ。
「何か感じるか?」と問う王騎に対して、信は素直に答える。
信「今の一瞬でなぜか全身に力がみなぎった・・・」
敗走の末、包囲網をようやく抜けた王騎は、死に際に信へ言葉を掛ける。
王騎「皆と共に修羅場をくぐりなさい。素質はありますよ、信」
そう言い残すと、自らの矛を託し絶命した。
こうして、信は「天下の大将軍」からその矛と、熱き魂を受け継ぐこととなる。
飛信隊の熱きリーダー、戦いのたびどんどん大きくなる!
信は戦場に出るたび、武功を重ねて出世していく。
特に飛信隊のリーダーとなってからは、幾度となく修羅場を乗り越えてきた。
信と飛信隊の出世を、戦いごとにまとめてみた。
- 紀元前245年 信14才
蛇甘平原の戦い戦前の信の身分:伍の1員(1歩兵)
隊の陣容:飛信隊はまだ存在しない
主な武功:敵大将・呉慶側近の麻鬼を討つ。初陣で大活躍
戦後出世した信の身分:百人将
主な出来事:王騎との初対面
解説:信の初陣・蛇甘平原の戦いでは、伍という戦闘最小単位のいち歩兵に過ぎなかった。
伍長が澤さん、尾平・尾到兄弟、当時謎の存在だった羌瘣、そして信の5人。
最弱と目されていた5人だったが、大活躍の末、戦後に信は百人将となる。 - 紀元前244年 信15才
馬陽の戦い戦前の信の身分:百人将(王騎直属の特殊百人隊)
隊の陣容:副将:渕さん/羌瘣 軍師:無し 全兵数:100人
主な武功:敵将軍・馮忌を討つ
戦後出世した信の身分:3百人将
主な出来事:王騎により飛信隊命名 王騎死す
解説:馬陽では王騎に見出され特殊百人隊・飛信隊を任される。
信はみごとに王騎の期待に応え、趙の将軍を討ち初めての大きな武功を挙げる。 - 紀元前242年 信17才山陽の戦い
戦前の信の身分:千人将(千人将不足につき、条件付で昇進)
隊の陣容:副将:渕さん・羌瘣・楚水(旧郭備軍)軍師:無し 全兵数:1,000人
主な武功:廉頗四天王・輪虎を討つ
戦後出世した信の身分:千人将(正規)
主な出来事:戦後羌瘣離脱・河了貂軍師へ
解説:山陽の戦いでは、秦軍に大きなダメージを与えた廉頗四天王の1人・輪虎を討ちとることで、勝利に大きく貢献する。
輪虎に討たれた千人将・郭備の部隊が飛信隊に加わる(楚水が副将となる) - 紀元前241年 信18才合従軍との戦い(函谷関)
戦前の信の身分:千人将
隊の陣容:副将:渕さん・楚水 軍師:河了貂 全兵数:1,000人
主な武功:趙将軍・万極、蕞城の死守・龐煖撃退
戦後出世した信の身分:3千人将(特別準功)
主な出来事:戦後に旧麃公軍が一部加入(岳雷隊)
解説:国の存亡がかかった合従軍との戦いでは、趙将・万極を討つ。共に戦った麃公将軍を龐煖に殺されるも、その際彼の盾を受け継ぐ。政とともに蕞城を死守するなど武功を重ね、3千人将への昇進する。
- 紀元前239年 信20才
屯留の反乱戦前の信の身分:4千人将
隊の陣容:副将:渕さん・楚水+羌瘣隊(千人将)軍師:河了貂 全兵数:5,000人
主な武功:秦将・壁と共に反乱鎮圧
戦後出世した信の身分:4千人将
主な出来事:羌瘣隊と合わせて実質五千人軍
解説:合従軍戦後、大戦が無かった期間に信は4千人将へ、羌瘣は千人将へと昇進。
- 紀元前239年 信20才
著雍の戦い戦前の信の身分:4千人将
隊の陣容:副将:渕さん・楚水+羌瘣隊(千人将)軍師:河了貂 全兵数:5,000人
主な武功:呉鳳明の師・霊凰 (大将軍級)を討つ
戦後出世した信の身分:5千人将
主な出来事:戦後羌瘣は3千人将へ昇進、実質8千人の軍へ
解説:2年ぶりの大戦となる著雍の戦いでは、4千人将となっていた信に加え、羌瘣も千人将となっており、飛信隊は計5千人の兵を擁する軍となっていた。
この戦いで信は魏火龍七師・霊凰を討つことで、ついに将軍目前である5千人将まで上がってきた。 - 紀元前237年 信22才
黒羊丘の戦い戦前の信の身分:5千人将
隊の陣容:副将:渕さん・楚水+羌瘣隊(3千人将)軍師:河了貂 全兵数:8,000人
主な武功:趙軍総大将・慶舎を討つ
戦後出世した信の身分:5千人将
主な出来事:最大の武功を挙げるも禁を犯し、武功帳消し
解説:羌瘣隊と合わせて8千となった飛信隊は、将軍・桓騎の下で黒羊丘の戦いに参戦。
これまでにも増して過酷な戦いとなるが、敵総大将・慶舎を討つという最大級の武功を挙げる。しかし、桓騎軍のあまりの蛮行に、羌瘣がその兵を殺めるという禁を犯し、手柄は相殺となってしまう。 - 紀元前236年 信23才
秦趙大戦(鄴攻防戦)戦前の信の身分:5千人将
隊の陣容:副将:渕さん/楚水/羌瘣(3千人将) 軍師:河了貂 全兵数:8千(信5千+羌瘣3千)
主な武功:趙将軍の岳嬰・趙峩龍を討つ。そして王騎の仇・龐煖を葬る
戦後出世した信の身分:将軍(兵1万)
主な出来事:羌瘣5千人将へ。計1万5千の軍へ
解説:前戦より2年後、中華統一に向けて趙国に攻め入った秦趙大戦が始まる。
松左・去亥の最古参メンバーを失う。ギリギリの修羅場を乗り越えた末、趙国三大天・龐煖を討ち果たした信は、ついに将軍への上り詰めた。
信の目標はあくまで「天下の大将軍」になること。
その道は、まだまだ続く。
ついに将軍となった信!与えてもらった名字「李」の由来とは?
信は元々戦争孤児で、身寄りのない下僕の身分。
姓(名字)は無く、ただの「信」である。
しかし秦趙大戦後の論功行賞前に、秦王・政に呼び出される。
将軍になるのに姓がないことは問題だ、と言うのだ。
さらに、だから姓を与えるからすぐ考えろ、とも。
元々漢字を知らない、学のない信は困り果てた末、秦王である政に託す。
しかし政も全く浮かばなかったが、かつて王宮に召抱えた漂も同じように、名字のことで悩んでいたエピソードを信に話す。
漂も悩みに悩んだ挙句、その時政が食べていた「すもも(李)」を見て、「では『李(り)』でお願いします。」と答えた。
つまり「李漂」。
これを聞いた信は、漂が姓をもらっていたことに驚くと同時に、幼いころ「絶対2人の名を将来歴史に刻むんだ!」と言った、漂の笑顔を思い出した。
この瞬間、信の姓は決まった。
「李」である。
ここに2千年以上も後世に名を残す、「李信」が誕生した。
史実上の李信はある程度名家の出と言われているが、実際は定かではない。
ロマン溢れるこの物語も、いいのではないだろうか。
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