木原浩勝氏・中山市朗氏の両名が日本各地を巡り、集めた数々の怪談。
体験者本人やその親族、友人から直接聞いた話に加え、著者の1人である中山市朗氏の実体験〈山の牧場〉も収録した、怪談好きのバイブルとも呼ぶべき珠玉の実話怪談集!
こんな人におすすめ!
- 妖怪が好きな人
- UFOが好きな人
- 怖い話が好きな人
あらすじ・内容紹介
かつては全国各地に伝わっていた、〈怪談〉。
夜になれば暗闇が支配するかつての日本では、恐ろしい女の幽霊に追いかけられることも、狐に化かされることも、かと思えば神仏の助けとしか思えない奇跡が起こることも、日常茶飯事だったのではないだろうか。
そして、近所の大人や老人に尋ねれば、いくらでもそんな話が聞けたのかも知れない。
現代に至って、怪談の様相はどのように変わっていったのか。
今作『新耳袋』では、著者の木原浩勝氏と中山市朗氏の壮大なフィールドワークにより集まった、〈誰かが体験した怪談〉をまとめた作品だ。
江戸時代中期から後期にかけて、南町奉行の〈根岸鎮衛〉が綴った、市井の人々の逸事や怪談を集めた雑話集〈耳嚢〉にならい、〈新耳袋〉と名付けられた今作に収録されているのは、99話の実話怪談。
〈神仏に纏わる話〉から〈狐狸妖怪に化かされた話〉、〈得体の知れない何かに纏わる話〉、更には〈UFOに関する話〉など、非常にバラエティーに富んだ体験談たちだ。
ほっこりするような怪異との出会いから、身の毛もよだつ恐怖の体験談までたっぷりと堪能して欲しい。
『新耳袋 第一夜〜第十夜』の感想・特徴(ネタバレなし)
全99話×全10巻という、迫力の収録数
幼い時に見聞きした六つの話
今作〈新耳袋〉は、第一夜〜第十夜までの全10巻編成という、非常にボリューミーな作品だ。
更に、1巻ごとに99話収録されており、総収録話数は990話という、途方もない話数となる。
その話数から、収録されている〈実話怪談〉の種類も非常に豊富だ。
信心や偶然から、神仏などに助けられたという不思議な話も有れば、得体の知れない何者かに追われたり襲われかけたりという、恐ろしい話もある。
更に、今では到底出会えないであろう〈妖怪〉や、山に住む〈人ではない何か〉にタバコをねだられた話など、少し和むような話も存在しているほか、UFOや宇宙人に纏わる話まで収録されており、実に様々な〈怪談〉を楽しむことができる。
著者である木原浩勝氏と中山市朗氏は、これらの怪談を、日本全国を行脚し、各巻ごとにテーマ分けし、ジャンルごとに分類し、そしてタイトルを付けて世に送り出している。
途方もない時間と労力が掛けられている今作は、その拘りからもはや〈怪談のバイブル〉とでも呼ぶべき完成度を誇る。
また、〈1巻につき99話〉という収録のスタイルは、古くからの怪談会である〈百物語〉の作法に則っている。
100の怪を語れば怪が現れる、という考えから99話しか語られなかった〈百物語〉に倣い、全99話の構成である今作は、しかし〈一晩で読んでしまうと、妙なことが起こった〉という話も多い。
〈読む肝試し〉ともいえる今作の魅力を、存分に味わって欲しい。
収録されているのは、全て〈誰かの体験談〉
Sさんが友人たちと車でスキーに向かう途中のことである。
よくある怪談の流れとして、〈FoF〉という形式が存在する。
〈Friends of Friends〉、すなわち〈友達の友達〉の話、というのは、その遠さ故に怪談との距離が遠く感じ、恐怖を楽しみ辛いのではないだろうか。
しかし今作に収録されている怪談は全て語り部の実体験、もしくは語り部の親族や、直接の友人によるものが殆どである。
それ故に、不可思議な出来事の説明は一種の臨場感が宿っており、〈実話怪談〉としての恐怖感をより高めてくれる。
加えて、(これが筆者的には1番のポイントだと考えているが)今作に収録されている怪談には、〈解釈〉や〈説明〉が存在していない。
ルーツが明かされるわけではなく、分析を行うわけでもなく、唯々〈実際に経験したこと〉として語られるからこそ、〈実話〉としての怖さが際立っている。
友人から体験談を聞くような気持ちで、読んでみて欲しい作品だ。
序文:京極夏彦
あなたが今開いたのは、異界への扉です。
今作には、かの妖怪小説の大家である〈京極夏彦氏〉が序文を寄せている。
あまり長くはない文章ではあるが、その迫力は圧巻だ。
まるで〈百物語〉の始まりを告げるかのような氏の文章は、一読しただけで読者を〈実話怪談〉の世界へと誘ってくれるだろう
流し読みせずに、じっくりと味わって欲しい。
まとめ
木原浩勝氏と中山市朗氏。
2人の著者により集められ、編纂され世に送り出された今作は、もはや〈実話怪談のバイブル〉とでも言うべき逸品だ。
怪談を怪談たらしめる要素は残し、余分な解釈や分析は避け、〈体験談〉だけを綴った本書には、芸術性さえ感じられる美しさがある。
〈怪談〉が好きな人ならば、一生に一度は読んでおきたい作品だろう。
一晩で読み切れば、ひょっとすれば読者の身にも何かが起こるかもしれない。
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