『妖怪アパートの幽雅な日常①』原作小説あらすじと感想【おばけと人間達による幽雅なアパートライフ!】

『妖怪アパートの幽雅な日常①』あらすじと感想【おばけと人間達による幽雅なアパートライフ!】

あなたは、妖怪や幽霊の存在を、信じていますか?

え? 信じていない? そんなものは存在しない?

そんなものは空想の産物だ?

なら、そんなアナタにぴったりの『物件』が一冊あります。

ジャンルは、YA文学、現代ファンタジー。

キーワードは妖怪、幽霊。

そして、成長物語。

もしこのワードにピンとくるものがあったら、ぜひ一度、一緒にこの物件の下見をしてみませんか?

物件の名前は、『妖怪アパートの幽雅な日常』。

妖怪や幽霊で溢れ返るこのアパートの幽雅な世界を、ぜひ私、ReaJoyライターの勝哉に案内させて下さいませ。

あらすじ・内容紹介

中学一年の春。

突然の事故で、父と母をいっぺんに失ってしまった稲葉夕士(いなばゆうし)。

叔父叔母夫婦の家へ引き取られるものの、迷惑をかけている事の負い目や、年が近い従妹への気遣いなどで、生活に息苦しさを覚えてしまう。
そんな生活からの脱出、そして亡き両親へ顔向けできるようにという思いから、夕士は早くに一人立ちをする事を決意する。

そうして中学三年。

就職率が高い事で有名な『条東商業高校』に合格。

全寮制の高校でもある為、春には家から出て行けるという事で期待に胸をふくらませるが、なんとその合格発表二日後、入寮する筈だった寮が全焼する事件が起こってしまう。

いくつもの不動産をめぐるものの、入居可能な部屋はない。

途方に暮れる夕士。

すると、そんな彼の前に一人の不思議な子供が現れる。

「お兄ちゃん部屋を探しているの?」「あの店へ行ってみなよ。いい部屋がきっとあるよ」

子供の言葉に誘われるがまま、夕士が向かったのは『前田不動産』という名の小さな不動産。

前田不動産店主は、夕士の持つ事情に同情してくれ、一つの空き部屋を紹介してくれる。

『部屋は二畳の板間と六畳の和室。南向き。トイレと風呂は共同だが、賄い付き』

『家賃は、光熱費、水道代、賄い費込みの二万五千円!』

夕士からすれば、なんともありがたい申し出。

けれど、世の中そんなうまい話があるわけもない。何か裏があるのではと疑う夕士に、店主はにやりと笑って言う。

「出るんだ。コレ(オバケ)が」

オバケなんて特別信じてるわけではない。

予想外の返しに若干の疑念はわくものの、前田不動産のありがたい申し出を受け取る事にした夕士は、その空き部屋あがるアパート『寿荘』へ住まう事に。

その先にある、奇想天外な非日常達の存在になど、気づく事もなく――……。

注意
以下、ネタバレ注意です。

妖怪アパートの幽雅な日常の感想(ネタバレ)

今回お話をさせて頂きます小説は、一度私が別記事で紹介させて頂いた小説『僕とおじいちゃんと魔法の塔』の作者である、『香月日輪(こうづきひのわ)』さんの作品でございます。

香月日輪さんの紹介は、そちらの別記事にてさせて頂いております。

その為、今回はご割愛させて頂きます。

ご了承下さると幸いです。

一、主人公『稲葉夕士』の成長

なによりもまず語りたいのは、主人公『稲葉夕士』について。

この話のキーパーソンであり、語るにおいて、絶対的に外してはならない存在。

なぜなら、この話は、妖怪や幽霊が出てくる現代ファンタジーであると同時に主人公の『成長物語』でもあるからです!

幽霊とか妖怪とかって、見たこともなかったし、いてもいなくてもどうでも良かったよ、別に。
そりゃあ、ガキの頃は信じていたかもしれないけど、そんなに怖いとか思わなかったし、興味もなかった。
そんなことよりも、俺は現実の問題で頭がいっぱいだったんだ。
(本編冒頭引用)

この文からわかる、主人公稲葉夕士という人物像は、

幽霊や妖怪を信じているわけではない(むしろどうでもいい)、
それより目の前の問題をどうにかしなければいけない、
子供の頃に信じていた夢物語を信じる余裕なんてない、

そんな考えを持っている人間であるということ。

これ、なんだかちょっと胸に刺さるところありません?

私達も幼い頃は、妖怪や幽霊というものをまっすぐに信じていませんでしたか。

机の引き出しを開ければ、未来からのロボットが来たり、暗い夜道を歩く時はもしかしたらあの曲がり角から急に血まみれのお化けが出てくるんじゃあないかとか……。

そういうのを信じなくなったのは一体、いつの頃からか。

いや、正確に言うなら、そういうものを信じる心の余裕がなくなってしまったのはいつの頃からか。

だって今でも、もし本当にそういうものがいるならって考えるとワクワクしませんか?

非科学的だって言う人だって、もしそういうのを実際に科学的に分析して、答えを得る事ができるとしたら、その経緯にちょっと興味ひかれたりしませんか?

でも、毎日生きるのに精いっぱいで、日々の仕事や勉学などに追われる中、次第にそういう物を信じる心の余裕は失われていってしまう。

夕士はそんな私達の姿を、まるで鏡のように写しとった存在に私には見えました。

だからこそ、妖怪アパートで、文字通り目からうろこが落ちてしまうような毎日を過ごし、彼にとって常識や普通だと思っていたその世界観を壊されていくさまを見ると、非常に爽快に感じてしまうのです。

そうして、その爽快さに目を奪われた瞬間こそ、私達がすでにこの世界の魅力に引きずり込まれてしまっている瞬間なのです。

二、住まうのはお化けだけじゃない! ブレない大人達の存在

妖怪アパートに住まうのは、幽霊だけじゃあありません。

ちゃんと、人間だっています。

けど、この人間達がまた奇っ怪! 本編内の夕士の言葉を借りるなら、『アンタら、本当に人間か!?』と訴えたくなるような、そんな人々ばかりなのです。

年齢不詳な見た目の超有名作家の詩人、
まるでヤのつくその道の人のような画家、
得体の知れないものばかりを売っている骨董屋、
妖怪の病院でバイトをしている女子高生!?

いやもう、どうすればそんな人生送れるの、職業に就けるの!? というかやっぱり、アンタ本当に人間なの!? という人達ばかり。

けど、常人とは違う生き方をしている彼らだからこそ吐き出せる言葉がある――

そして、そんな彼らの生き様から生まれた言葉は、やはりこれまた、現実で凝り固まった夕士の心に真摯に刺さるのです。

「君の人生は長く、世界は果てしなく広い。肩の力を抜いていこう」
(一巻本文台詞引用)

これは、龍さんという住人から、夕士がかけられた言葉です。

龍さんは住人達の中で、一番に謎が多い人です。

霊能者と呼ばれる立場の人で、妖怪や幽霊すらも畏縮させる力がある、超人的な存在です。

でも、見た目は二十代の青年で、お酒を片手にどんちゃん騒ぎする住人達にオタオタしたり、のせられて漫才みたいな会話なんかもしてしまったり、があるというだけで、中身はとても天然な性格の、他の人達となんら変わりない人間的な住人なのです。

そんな龍さんが口にしたこの言葉。

人生というものを、そして世界というものを、広く広大に、それでいて穏やかな物差しで見ているようなこの言葉は、きっと霊能力者として様々な世界を見て来た、龍さんだったからこそ口に出来た言葉なのです。

龍さんに関しては、シリーズ全巻を通して多くは語られません。

ですが、時折口にする仕事の話を聞くに、その内容は決していいものばかりではない。

心が抉られるように辛い現場の話だってある。

けれど、だからといって龍さんがその性格をこじらせたり、くすぶったりする事はありません。

天然で優しいその姿のままでいるのです。

これは他の住人達にも言える事です。

彼らは皆、少々特殊な生き方を選んでいて、その上で色々な経験をして色々見て来た。

その経験が彼らを今の彼らたらしめており、おかげでちょっとやそっとのことでは動じない彼らを作り上げているのです。

いや、妖怪と一緒に暮らせている時点で大分、アレ、なんですけどね!?

子供という存在にとって、大人という生き物は指針だと、そう私は思っています。

特に両親という大人は、頼れる存在であり、自分の進める道を教えてくれる存在であり、時には叱って、甘やかしたりなんかもしてくれて、自分の絶対的な味方、安心できる存在なのです。

けど、夕士は、その存在を早くに失ってしまった。

高校生と言えどもまだ片足は子供の部分につかったままの十代です。

その状態のまま同年代の誰よりも早くに大人にならなくては、と焦っています。

そんな夕士にとって、アパートの住人達は両親が示してくれる筈だった指針を見せてくれる大人達なのです。

夕士にとっては、彼らが自分の指針であり、絶対的な味方で安心できる存在なのです。

ようやく出会えた大人という存在に、囲まれ、もまれたりなんかして、どんどんと心ほぐれていく夕士の姿を見ると、私なんかは思わず涙ぐんでしまいます。

アパートで過ごす日常は、心がホッとする触れ合いから、胸を抉ってくるような痛くて苦しいものまで、様々なものがあります。

けどその中でも夕士が道を違わずに、自分の強い気持ちで日々過ごせるのは、きっと彼らのような大人が傍にいてくれるからなんだと、そう思います。

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まとめ

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