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『スノードーム』あらすじと感想【2人の男が捜し求めた孤独な「光」】

『スノードーム』あらすじと感想【2人の男が捜し求めた孤独な「光」】

この本の評価
読みやすさ
(5.0)
面白さ
(3.5)
考えさせられる度
(5.0)
装丁の美しさ
(5.0)
感動度
(4.5)
総合評価
(5.0)

今回ご紹介するのは、「スノードーム」。

運命に翻弄された二人の男性の、哀しくも美しい、愛についての物語です。

本来のタイトルは、「闇の速度」(Speed of the Dark)。

ですが、翻訳者の手によって、「スノードーム」と改題されました。

タイトルにふさわしい、繊細な装丁と、繊細な物語をお楽しみください。

あらすじ・内容紹介

この小説は、チャーリーという男が、一人の若い研究生、クリストファー(以下クリス)について回想することから始まります。

ある日突然、クリスは研究室から姿を消してしまいました。

彼の机の上には、液体もなければ雪もない、「空っぽ」のスノードームがありました。

チャーリーは、クリスがそれを異常に大切にしていた姿を思い出したのです。

何か手がかりはないかと探していると、机の一番下の引き出しに、書類の入った箱がありました。

その上には、クリスがチャーリーに向けて書いたメモが乗っていたのです。

「どうぞこの物語を読んでください」。

メモと一緒に箱の中に入っていた原稿

それこそが、この「スノードーム」(原題「闇の速度」)という物語でした。

注意
以下、ネタバレ注意です。

スノードームの感想(ネタバレ)

もうひとりの主人公

この物語には、もうひとりの主人公が登場します。

彼の名前は、エルンスト・エックマン。

小柄で太り気味の、滑稽な姿をした男性です。

彼は気難しい性格で、プライドが高く、周りに心を開こうとはしませんでした。

初対面のときに生じる驚きや嫌悪感に耐えきることができず、自分を嫌な人間だと思い込んでいたのです。

全ての人が、彼に同じ気持ちを抱いているわけではなかったのですが。

しかし、ある一人の女性に出会ってから、心が動かされることになります。

それが踊り子、ポッピーの存在です。

踊り子と男の出会い

ポッピーは、雨の日も風の日も路上でバレエを踊る、アーティストでした。

ピンクの踊り子の衣装を着て、ピエロのメイクを施し、音が鳴る仕掛けがなされたオルゴール箱の上で、お金を入れてねじを回してくれる人をじっと待つ。

そんな彼女は、エックマンにとって特別な存在だったのです。

彼女(ポッピー)は私を見たが、容姿を馬鹿にしなかった。

いやむしろ、彼女の方が私を好いているのだ。

どういう訳か、私に好意を寄せているのであるー。

ポッピーはただエックマンに無関心なだけだったのですが、彼は妄想を膨らませ、自分想像こそが真実だと思い込んでしまいます。

彼女は自分と同じ、虐げられた人間だ。

だからああして、どんな時でもマリオネットの姿をして、お金を入れてくれる人を待っているのだ。

皮肉なことに、エックマンとポッピーの思考は嚙み合いませんでした。

男が持つ才能

気難しく、人と関わり合うことが苦手なエックマン。

そんな彼ですが、人よりも秀でた才能がありました。

米粒よりも小さな彫刻を作り上げることです。

小さな人形が回転するようすを見ながら、クリストファーは、その彫像があらゆる細部まで完璧にできていることに目を見張った。

(略)踊り子の小さな目さえ、きらきらと輝いて動いているように見える。その顔にはいかにもマリオネットらしい化粧が施されていた。

無表情でありながら、どこか悲しげで、ふたつの目の下には涙が描かれ、その下にさらに大きな涙が続いている。

針の穴を通るほど小さなラクダの像に、一粒の砂を掘り出して作ったピラミッド

えんぴつの芯でできたビルによじ登るキングコングと、女性

彼の作品はとても密やかで、繊細でした。心の中をそのまま映し出したかのように小さく、ちょっとした衝撃で、すぐに壊れてしまうほどに。

もしかしたら彼は、小さな箱庭を作ることによって、自分を大きく見せたかったのかもしれません。

嫉妬に狂う男と、運命の罠に巻き込まれる少年

ギャラリーの前任者を辞めさせてまで彼女を引き入れるほど、エックマンはポッピーを愛していました。

彼女をモチーフにした作品を作り上げるため、彼は黙々と作業に取り掛かります。

そんなある日のことです。

エックマンは、ポッピーが絵描きのロバートに、キスをしていたところを目撃します。

わたしがいったいなにをしたというのだ?ほかの人間と少しちがったふうに生まれついたという以外に、どんな悪いことをした?

ポッピーに自分の存在を拒絶され、悔しさといらだちが募った彼は、次第に嫉妬憎悪の感情に駆られるようになってしまいます。

そんな彼の恰好の餌食になってしまったのが、当時少年だったクリスでした。

彼はエックマンが作り出す世界にのめりこみ、目を輝かせて言います。

すごいよ、エックマンさん!

父親が失踪し、天涯孤独になったクリスに対し、エックマンはおぞましい思考を繰り広げます。

だから、そうだ、助けよう。どんなことでもしよう。ただーー、できないことはない。この子には友だちが必要なのだ。

この後の結末は、ぜひあなた自身の目で確かめてみてください。

まとめ

小さな体と、子どもの精神を持ち合わせた男性、エックマン。

彼に必要だったのは、富でも名誉でもなく、ありのままの自分を受け入れる、心の大きさでした。

もしくは、彼の気持ちが理解できるような、よきパートナーの存在です。

自分の本当の気持ちを抱え込まずにいれば、彼の人生は好転していたことでしょう。

彼の手で生み出された作品たちの美しさが、余計に悲しさを募らせます。

もしかしたら、エックマンは自分なのかもしれない。

そう考えてしまうシーンがいくつかありました。

主題歌:ストレイテナー/Toneless Twilight

選曲は、ストレイテナーの「Toneless Twilight」(トーンレス・トワイライト)。

バンド名は、直訳で「まっすぐにする人」という意味です。

曲名は、和訳すると色のない黄昏。

とても静謐で、怖くなるほど美しいピアノロックバラードです。

この曲を聴くたびに、「今年も冬が来たな」と実感します。

リフレインが特徴的なピアノ伴奏は、Vo.のホリエさん自ら弾いています。

「澄んだ空が泣いている
僕は過去に留まらない

君が乗る船に最後の別れを告げる時が来た

君が流す涙は枯れた心を伝う

色のない黄昏
色のないハイライト
手に届かない明日へ

僕らはまだ背後の月明かりを感じている
そして白い雪や線路の上に影が映る

罪のない光 救いのない影」

ー一部、独自和訳

生涯、ポッピーに片思いをしつづけた男、エックマン

同じく、辛い運命をたどることになるクリス

二人を優しく、しかし時には残酷に包み込んでゆくこの曲に、思いを託します。

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