みなさんいかがお過ごしでしょうか。
だんだん寒くなってきましたね。
窮屈で世知辛い今だからこそ、心の芯まで暖かくなるお話が恋しくなりますよね。
さて、今回は舞城王太郎さんの『好き好き大好き超愛してる。』をご紹介したいと思います。
この本は第131回芥川賞の候補にも選ばれたほどの、舞城さんの実力が伺える一冊となっています。
彼の代表作でもありますね。
その他の作品でも、あの辻村深月さんを有するメフィスト賞を受賞しているほどの実力があります。
目次
石原元知事がもの申した「大問題作」
さて、そんな舞城さんの本作、石原慎太郎元都知事から大ブーイングを受けたんですね。
あまりにも強烈な文体や個性的な表現に、彼は食傷を起こしてしまったのです。
いわく、「タイトルだけでうんざり。読む気が失せる」。
しかしこの作品、タイトルだけを見て食わず嫌いしてしまうと、非常にもったいないです。
みなさんにはぜひ手にとっていただきたいと思っています。
もちろん、好き嫌いが非常に分かれますので、無理強いはしませんが。
あらすじ・内容紹介
「愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。」
この小説は、小説家の男「オサム」(ご自身がモチーフでしょう)が、愛する女性「柿緒」のために「祈る」ことから始まります。
そしてこの短編集は、オサムが彼女のために書いた、一種の劇中作です。
柿緒は末期のがん患者です。
それゆえ、一緒にいられる時間はそう長くありません。
普通なら「お涙ちょうだい」の状況になるのですが、そこよりもっと踏み込んでいるのが舞城さんらしいところです。
「命」とは?「フィクションと現実の違いとは?」
「実在する人を題材にした小説は、どこまでが虚構として許されるのか?」
「題材にされた家族や兄弟たちは、そのことをどう思っているのか?」
といった、物書きを仕事としている方はもちろんのこと、そうでない方もぜひ、手に取って読んでもらいたい一冊です。
一途な愛と恋心
この小説は、それぞれ章のタイトルが女性の名前になっています。
彼女の体内にはASMAという、米粒サイズのゾウムシのような生き物が巣くっているのです。
医者は手術で、彼女の足を切断してしまおうと考えています。
これ以上彼女の苦しむ姿を見たくない巧也は、彼女を苦しめずにASMAから救い出そうと試みますが…
大切な誰かがいなくなるその前に、伝えるべきことはちゃんと伝えておくべきだと、皮肉にも、失ってから彼は知ることとなるのです。
彼は夢の中で「ミスターシスター」という、アニメ調のフック船長のような変な人物と遭遇します。
どうやら彼の職業は「夢の修理屋」らしいのです。
ツトムが夢直しを手伝えば手伝うほど、現実の世界がおかしな方向へ巻き込まれてゆきます。
オサムはできることなら柿緒と共に一生を終えたいと考えています。
それでも、彼は命を捨てることはしません。
自分自身を罰するために、彼はあえて正しい道を貫くのですね。
生前柿緒がしたためた、「百通の手紙」は必見です。
アダムとイブの創世記が下書きになっています。
アダムの石原は、イブのニオモとどうにも馬が合いません。
なんとかして肋骨融合を行いたい石原ですが、こんな状況で無事に神と戦えるのでしょうか?
そのせいで、二人からは絶交を言い渡されてしまうのですね。
「小説のモチーフにされた」彼らの気持ちを理解できなかったオサムは、後になって当時のことを悔やむようになってしまいます。
文庫本には収録されていない貴重な作品「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」
実はこの小説には、単行本にしか収録されていない貴重な作品が存在します。
その名も「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」。
ひょんな事件から頭に穴が開いた少年秀昭が、ユニコーンの角を持った女の子「あかな」を探して、もうひとつの世界を救うために戦う、非常にバイオレンスでカオスなボーイ・ミーツ・ガールです。
内容は非常に人を選びますので、苦手な方は舞城さん描き下ろしのイラストの方を眺めることをおすすめします。
こちらも「ドリルホール~」と同じく、単行本にしか収録されていません。西加奈子さんのように、色彩豊かに渾身の力を込めて描かれた、目力に溢れる登場人物たちの絵をお楽しみください。
主題歌:04 Limited Sazabys/Give me
一途な愛を貫いた小説には、砂糖菓子を煮詰めて溶かしたような激甘なラブソングを添えましょう。
04 Limited Sazabys (フォー・リミテッド・サザビーズ)のGive me。
略してフォーリミです。
NHKのアニメや日焼け止めのCMで、Genさんの男性とは思えない特徴的なハイトーンボイスをお聞きした方は多いのではないでしょうか?
「一生 君と一生を
一生 君にいてほしい」
あり得ないほどまっすぐで、キュートな一曲です。
猟奇的なタイトル、突き抜けた文体と破天荒な展開。
舞城ワールド全開の救われない現実。
それでもこの恋は一途なのです。
一人の女性を思ったがゆえの純粋な感情です。
究極に甘く、切ない恋愛小説をお楽しみください。
癖のありすぎる文体と甘すぎる内容で頭が痛い!歯が浮きそう!という声が聞こえてきそうですね。
それならば、苦めに入れたコーヒーをお供に読むのはいかがでしょう?
甘さが緩和されて、ほどよくなりますよ。
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英語のことわざを和訳した不思議なタイトルが目を引く甘酸っぱい恋愛小説です。

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