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『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』あらすじと感想【「丁寧に生きる?」使い古された安直な言葉を再考させられる恋愛小説】

『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』あらすじと感想【「丁寧に生きる?」使い古された安直な言葉を再考させられる恋愛小説】

島本理生。

重い重い恋愛小説、腰を据えて読むべき作家という印象がありました。

しかし、シンプルながら鮮やかな装丁に惹かれて手に取った本作は、そんな先入観をそっと崩してくれました。

慌ただしい毎日の中ちょっとだけ優しい文章に触れたい方、不安と不満でいっぱいの女性に、お勧めしたい作品です。

あらすじ・内容紹介

自他共に認めるワーカホリック気味の主人公、知世

仕事で知り合った年上の男性、椎名さんの自宅に「蟹鍋でもしませんか?」と招かれるところから、物語は始まります。

積極的に恋愛を始めるには、いささか現実を知りすぎている三十歳。

さらに──「僕はエイズです」──想いが通った椎名さんからは、難病を抱えていると重い告白を受けます。

病気のこと、彼の過去、”よく知らない” “分からない”ことに戸惑いますが、食事や旅を通して彼との時間を親密にしてゆく知世。

気心知れた友人や、距離を置く妹、さらには彼の以前の妻とも言葉を交わしながら、自分と彼の、唯一無二の形を作ってゆく様子が、丁寧に描かれます。

注意
以下、ネタバレ注意です。

わたしたちは銀のフォークと薬を手にしての感想(ネタバレ)

一緒に焼き鳥を楽しめる喜びと、関係について。

本作は、蟹鍋から始まり、生しらす、焼き鳥、上等な焼肉などいくつもの食が登場します。

匂いや脂、食感などがありありと伝わり、ガイドブックさながら。

いえ、写真で見るよりも遥かに美味しそうに描かれています。

さて、他人を食事に誘う時のことを想像してみてください。

かしこまった食事の場でなく、友人と一杯というシーンでも構いません。

あれは食べられるかな、こういう店に誘ったらどう思われるだろうか、多分こういう店は行かないだろうなあ、、、「何でもいいよ」と言われたところで、自分の好みだけを考えることはないはずです。

もしかしたら一緒に焼き鳥が食べられるって、一緒に生きていけるくらい大きなことなのかもしれない。

著者自身あとがきで、誰かと食事や旅をすることはハードルの高い行為だと述べていますが、私もそう思います。

肩の力を抜きたい時でも、厭うことなく一緒に居られる幸せ。

そんな相手と一緒だと、食わず嫌いを治せたり、不安や不満も伝えたくなって言葉を選ぶ気になったりと、自分の新たな側面が見つかるようです。

パクチーが好きになるという軽微な変化から、柔らかさに強さが伴うという物腰の変化まで。

知世と一緒に食事や旅を楽しみながら、登場人物たちの変化を感じてみてください。

「自分のこと大事にしなよ、」と言われてしまう女の子に。

本作は、知世を取り巻く友人や妹の恋愛も、並行して描かれます。

知世のそれは、学生の恋愛映画のようではないものの、やはりどこか物語のよう。

しかし友人の茉奈は”なに一つ特別ではない”事務職で、“芸術”とか”花を生ける暮らし”からは遠くて、二股を掛けられている相手の彼女のブログをついタップしてしまう、正直な女性です。

正直だけど、思いを吐露するのは下手くそなところまで、あるある。”特別ではない”加減が絶妙です。

『黒ホッピー、二股、特別じゃない私たち』は、そんな茉奈にスポットが当てられます。

さしてドラマティックな展開はありません。

ただ、最後にこぼれる彼女の心の声に、私は首をぶんぶんと振りたくなるほどの衝動を受けました。

自分のこと大事にしなよ、理想が高いんだよ、と言われてしまったことがある方。

踏ん張る力でなく、少し前を向けそうな言葉に出会えるかもしれません。

日曜の朝からコーヒーを淹れる、とかではない。

“丁寧に生きる” “丁寧な暮らし”──やたら目にする言葉ではないでしょうか。

木目調の内装だとか、朝からコーヒーだとか。内心ケッと思ってしまう程には使い古された表現。

この小説は 本当の”丁寧に生きる”ことを考える、チャンスを投げかけてくれます。

私も、知世同様にまだ一生を永遠のように感じている自覚があります。

みなさんはどうでしょうか。

しかし知世は、病気や年齢差のある椎名さんとの関係を通じて、気付きます。

死ななければ丁寧に生きることもないのだ、と気付いて不思議な気持ちになった。

正解や答えを提示しているわけではありません。

しかし二人の形を築いてゆく、その様子を見ていると、人と人とが出会うのはやっぱり素晴らしいことだと改めて感じることが出来る。

そんな小説です。

主題歌:BAROQUE/GIRL

BAROQUE「GIRL」

勇敢に闘う女性に、夢や笑顔を取り戻そう、まだ遅くないよと唄いかける、可愛らしくも優しい楽曲です。

歌詞の一節や、演奏時の演出には”花”が用いられています。

Girl so sweet,girl so brave(可憐なガール、勇敢なガール)
So now let’s go to the flowers you love(今から一緒に君が大好きな花を探しに行こうか)

本作の表紙を鮮やかに彩る押し花や、登場する女性たちの名前に絡められている花言葉。

さらに、仕事や役割に追われる女性が変わってゆくストーリーが、「GIRL」と重なりました。

ぜひ読書と併せて楽しんでみてください!

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