『この気持ちもいつか忘れる』あらすじと感想【人生がつまらない、全ての大人に捧げるビターな恋愛小説】

『この気持ちもいつか忘れる』あらすじと感想【人生がつまらない、全ての大人に捧げるビターな恋愛小説】

この世界で生きていれば、人は勝手に成長します。

ただし、大きくなるのは体だけです。

中身の成長は、本人の強い意志と覚悟が必要です。

大人になったあなたは、守りたいものを見つけましたか?

その代償として、なにを失いましたか?

こんな人におすすめ!

  • 誰かに肯定されたい人
  • 昔の恋人を忘れられない人
  • 何かを失った経験がある人
  • 傷つきすぎて人を信用できない人

あらすじ・内容紹介

退屈な日常に嫌気がさし、惰性で生きる高校生の鈴木香弥(すずき かや)。

16歳の誕生日を迎えたころ、深夜の古びたバス停で出会ったのは、光る爪と目しか見えない異世界の少女、チカでした。

真夜中での邂逅を重ねるうち、互いの世界に不思議なシンクロがあることに気付き、互いに実験を始めます。

つまらない自分を肯定してくれる彼女に、次第に香弥は恋心を抱くようになりますが…

『この気持ちもいつか忘れる』の感想・特徴(ネタバレなし)

本音を取り繕うのが趣味な男、香弥

どうやらこの生涯っていうのは、くそつまんねえものだ。

大人達がこぞって、十代の頃が一番楽しかったと言うのがその証拠だ。

この何もない毎日のことを賛美して羨ましがるなんて、俺が今いるこの場所から浮き上がることがもうないなんて。

平凡な男子高生である香弥は、頻繁に「つまらない」と口癖のように話します。

表向きは優しい言葉を使って、人を傷つけないように心がけていますが、彼は薄っぺらな心情を並べ立ててごまかしているにすぎません。

内心では人を軽蔑し、自身のつまらない人生を揶揄しています。

かさぶたをかきむしるのは痛いですが、同時に心地よくもあります。

彼は過去の傷を自分でかきむしり、血を流しながら自己満悦に浸っているのです。

いくら難解な言葉で自分を飾り立てようが、軽薄な本心は伝わります。

もし伝わらないのであれば、相手に勘がないか、内容が伝わっていないか、分かっているけれど分からないふりをしているのでしょう。

わざわざ口に出してもいいことはなにもありはしませんね。

沈黙は金」ですね。

 

他人と違う行動を取らなければ、特別にはなりません。

はき違えると特別になるどころか、孤立します。

自己を正当化し、なにかあればすぐに取り繕う香弥ですが、本性はとてもデリケートです。

一見身勝手な言動をしますが、すべてが人間関係で心が傷つくのを避けるための回避行動です。

それほどまでに、彼はトラウマで深く傷ついていたのです。

チカに触れて初めて知った「優しさ」

爪と目しか見えず、住んでいる世界も異なるチカ。

勿論、香弥とは価値観が異なります。

彼とは微妙に異なる言葉を話し、戦争が起こる世界の中で、敵と味方を識別するために体を着色された少女と、平凡な日本の男子高校生とは異なって当たり前です。

自分の好きなもので囲まれた、防空壕のような部屋を好きだと言うチカ。

部屋にいると、つまらない自分を実感して虚しくなる香弥。

置かれている状況も別世界ですが、2人は会話を重ねるうちに、互いの世界がシンクロしていることに気付きます。

チカが恐れていた生き物が、香弥が起こした行動によって現れなくなったのです。

その他にも、チカは香弥に異なる考えを教えます。

別れた和泉のことに対し、意見を述べたセリフがこちらです。

「良いことか悪いことかは分からない、その人にとってね。けれど、生きている私達のなかでほとんどの人は、特別な存在にはなれず死んでいく。当然のことなのに、そのことに気がつかない人がほとんど、すくなくとも私の周りでは。そしてそんな言葉を口にすれば、人を軽んじているんだと非難される」

言葉を選び、表面上では納得したつもりになり、互いに別れを告げた。

自分の存在は特別ではなかった。

だから「つまんねえ」と言い切った。

実際はそうではありません。

和泉のなかで、香弥は特別な存在になっていました。

だからこそ彼と別れることを悲しみ、自ら命を絶とうとしたのです。

香弥は自分の価値観こそ正しいと思い込んでいる節がありますから、相手の気持ちを汲み取れたと勘違いしたのですね。

何かが変わってほしいと願っていたんでしょう?

チカに言われて初めて、自分が和泉に変化してほしいと期待していたことに

気付いた香弥は少しずつですが、チカに心を開いていきます。

つまらない自分を「許す」ために

自分は「つまらない」人間であるという香弥の主張ですが、逆説的にとらえると、正しく評価してほしいと望む「正当化」に繋がります。

あえて「つまらない人間」だと自虐することによって、自分を「特別視」しているのです。

回りくどく、言っていることは明らかに矛盾ですが、他人の考えなしの発言に、異様なほど執着していたのにも納得がいきます。

自分を特別な人間だと、他人から認めてもらいたいのです。

他者を軽蔑しているのにもかかわらず、承認がないと自分自身を見つめることができないのですね。

もはや承認欲求の塊です。

欲求があることは別に悪いことではありません。

多少のエゴは必要です。

香弥の場合、認められたいと望む気持ちが大きすぎるのです。

普通は過度に褒められなくても満たされますが、彼の場合、大袈裟に過大評価されないと満たされることはないのです。

心に闇を抱えているのですね。

つまんねえ。過去の恋愛に依存することも、ひきずることも、
傷つくことも、気にすることも、全部が全部、自らを正当化しようとする言い訳で、自分が特別な人間だという勘違いで、世界中の人間がやりつくしてきたことだ。

他人の本心の思いやりの言葉ですら曲解するのですから、その深さは計り知れません。

周りが彼の期待に応え、望む報酬を与えても、心は満足するどころか、むしろ虚しさを抱え込むことになるでしょう。

チカがいなければ、俺が俺でなくなってしまうから。
普通のつまらない人間としての罪悪感だなんだ、それらに押しつぶされ窒息し、怯えるようになるから。

香弥は次第にチカのことを、かけがえのない存在として把握していきます。

つまらなかった自分を変えてくれた、唯一のつまらなくない人物

それが香弥にとってのチカなのです。

「カヤにとって意味がないことかもしれない。けれど、私はカヤを許すよ

まとめ

チカと念願のキスを果たす香弥ですが、終盤、思いがけない出来事が起こります。

彼以外にも関わっていた人物がいたのです。

状況が理解できない香弥に、チカは平静を保つように話しかけますが…。

その後は、物語の後半「誰も望まないアンコール」に綴られています。

 

この小説はCD同梱版と、通常版の二形態で刊行されました。

同梱版にはTHE BACK HORNのCDが付いてきます。

楽曲は全4曲、インストが1曲入っています。

ハナレバナレ、突風、君を隠してあげよう、輪郭です。

すべて読み終えたあとに聴いてみてください。

香弥はどうしようもない人間ですが、どうか憎まないであげてください。

心の中で軽蔑されても、罵倒されても、許してください。

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